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文字数 1,630文字
――そうか。櫻子ちゃんの顔は右と左とで異なっていたのか。だから、記憶を辿ろうとしてもバグって見えたのか。僕は、その記憶を沙織ちゃんに伝えた。沙織ちゃんは、すごく納得していた。
「なるほどねぇ……アタシも櫻子ちゃんが交通事故に遭った時にお見舞いに行ったけど、殆ど無口だったような気がする。よほど交通事故に遭ったのがショックだったのかしら」
「そうだな。だからといって、櫻子ちゃんが一連の事件の犯人だとは限らない。それに、僕は櫻子ちゃんの連絡先を知らないから、連絡手段もない」
「アタシなら、連絡先を知ってるわ。もし良かったら、アタシの方から連絡しようか?」
「そうしてもらえると助かる」
沙織ちゃんは、スマホで櫻子ちゃんにメッセージを送信した。
――櫻子ちゃん、元気?
――アヤナンが豊岡に帰って来てるんだけど、なんだか会いたいみたいよ
――もし良かったら、連絡してくれない?
「これで良いかしら?」
「オッケー。後は、既読を待つだけだ」
しかし、いくら待っても既読が付かない。もしかしたら、6人目の事件の被害者なんだろうか? でも、老人会ギルドのコミュニティ上にあった「能面のようなモノ」が気になって仕方がない。ならば、現時点での犯人の最有力候補は櫻子ちゃんか。他に候補があるとすれば、梓さんと沙織ちゃんだろうか。まあ、沙織ちゃんはこの場にいるからシロだと思うけど。
考えを纏めていると、糖分が切れてしまった。僕は、鈴村先生からプロテインバーを頂いた。
プロテインバーを食べながら、鈴村先生が話す。どうやら、僕が件の事件を追っていることについて気にしていたようだ。
「それにしても、どうしてこんな事をやっているんだ? 推理小説の読みすぎだろう」
僕は、鈴村先生の質問に答えた。
「僕は昔から推理小説が好きだが、今回ばかりは好きで事件を推理している訳じゃない。西澤沙織という大切な友人を護るための行為だ」
「大切な友人ねぇ……なんだか『遅すぎた青春』を見ているようだよ」
「なるほど。鈴村先生の言う通り、これは『遅すぎた青春』なのかもしれないな」
遅すぎた青春か。それも悪くないな。多分、これは僕の脳内に刻まれた青春小説の1ページを追憶しているのだろう。ただし、「連続殺人事件」というのが物語の前提にあるのだが。そして、その物語の1ページに新たな事件が刻まれることになった。
速報 兵庫県豊岡市で見つかった首のない遺体の身元が判明
被害者は片桐梓 (30)
――馬鹿な。あの遺体の身元が梓さん? いや、そんなはずはないだろう。僕は、スマホで事件の仔細を見ることにした。
被害者は地元でシステムエンジニアとして働く片桐梓さん(30)
梓さんの夫が「妻の行方が分からない」と捜査届を出していた
そういえば、片桐梓の旧姓は「本田」だったな。結婚して姓が変わっているのなら合点はいく。ここは沙織ちゃんに聞いてみるか。
「沙織ちゃん、確か梓さんとソロキャン仲間だって聞いたな」
「そうよ。なんでも、梓ちゃんって旦那さんの影響でソロキャンを始めたらしいのよね。――旦那さんの名前は片桐優吾 よ。結構イケメンだわ」
「顔はどうでもいい。優吾さんはどこで働いているんだ?」
「それは知らないわよ。でも、梓ちゃんの話だと『土木業』だったわね。――そういや、土木業ってチェンソー使うわね。ちょっと待って! これ、ヤバくない?」
「ああ、ヤバいな」
「2人してどうしたんだ」
「僕たち、急いで豊岡に戻らないといけない。行き先は――中学校だ」
「中学校? それは正気か?」
「僕たちは至って正気だ」
「分かった。でも、これ以上事件に対して深入りしない方がいいぞ」
「それは分かっています。でも、これ以上バラバラ死体を増やしたくないんです」
「なら、仕方がないな」
僕と沙織ちゃんは、急いで豊岡へと戻ることにした。そこでどんなことが待ち受けているかは分からないが、少なくとも浅井仁美と名乗る刑事さんがいるのは確かだった。
「なるほどねぇ……アタシも櫻子ちゃんが交通事故に遭った時にお見舞いに行ったけど、殆ど無口だったような気がする。よほど交通事故に遭ったのがショックだったのかしら」
「そうだな。だからといって、櫻子ちゃんが一連の事件の犯人だとは限らない。それに、僕は櫻子ちゃんの連絡先を知らないから、連絡手段もない」
「アタシなら、連絡先を知ってるわ。もし良かったら、アタシの方から連絡しようか?」
「そうしてもらえると助かる」
沙織ちゃんは、スマホで櫻子ちゃんにメッセージを送信した。
――櫻子ちゃん、元気?
――アヤナンが豊岡に帰って来てるんだけど、なんだか会いたいみたいよ
――もし良かったら、連絡してくれない?
「これで良いかしら?」
「オッケー。後は、既読を待つだけだ」
しかし、いくら待っても既読が付かない。もしかしたら、6人目の事件の被害者なんだろうか? でも、老人会ギルドのコミュニティ上にあった「能面のようなモノ」が気になって仕方がない。ならば、現時点での犯人の最有力候補は櫻子ちゃんか。他に候補があるとすれば、梓さんと沙織ちゃんだろうか。まあ、沙織ちゃんはこの場にいるからシロだと思うけど。
考えを纏めていると、糖分が切れてしまった。僕は、鈴村先生からプロテインバーを頂いた。
プロテインバーを食べながら、鈴村先生が話す。どうやら、僕が件の事件を追っていることについて気にしていたようだ。
「それにしても、どうしてこんな事をやっているんだ? 推理小説の読みすぎだろう」
僕は、鈴村先生の質問に答えた。
「僕は昔から推理小説が好きだが、今回ばかりは好きで事件を推理している訳じゃない。西澤沙織という大切な友人を護るための行為だ」
「大切な友人ねぇ……なんだか『遅すぎた青春』を見ているようだよ」
「なるほど。鈴村先生の言う通り、これは『遅すぎた青春』なのかもしれないな」
遅すぎた青春か。それも悪くないな。多分、これは僕の脳内に刻まれた青春小説の1ページを追憶しているのだろう。ただし、「連続殺人事件」というのが物語の前提にあるのだが。そして、その物語の1ページに新たな事件が刻まれることになった。
速報 兵庫県豊岡市で見つかった首のない遺体の身元が判明
被害者は
――馬鹿な。あの遺体の身元が梓さん? いや、そんなはずはないだろう。僕は、スマホで事件の仔細を見ることにした。
被害者は地元でシステムエンジニアとして働く片桐梓さん(30)
梓さんの夫が「妻の行方が分からない」と捜査届を出していた
そういえば、片桐梓の旧姓は「本田」だったな。結婚して姓が変わっているのなら合点はいく。ここは沙織ちゃんに聞いてみるか。
「沙織ちゃん、確か梓さんとソロキャン仲間だって聞いたな」
「そうよ。なんでも、梓ちゃんって旦那さんの影響でソロキャンを始めたらしいのよね。――旦那さんの名前は
「顔はどうでもいい。優吾さんはどこで働いているんだ?」
「それは知らないわよ。でも、梓ちゃんの話だと『土木業』だったわね。――そういや、土木業ってチェンソー使うわね。ちょっと待って! これ、ヤバくない?」
「ああ、ヤバいな」
「2人してどうしたんだ」
「僕たち、急いで豊岡に戻らないといけない。行き先は――中学校だ」
「中学校? それは正気か?」
「僕たちは至って正気だ」
「分かった。でも、これ以上事件に対して深入りしない方がいいぞ」
「それは分かっています。でも、これ以上バラバラ死体を増やしたくないんです」
「なら、仕方がないな」
僕と沙織ちゃんは、急いで豊岡へと戻ることにした。そこでどんなことが待ち受けているかは分からないが、少なくとも浅井仁美と名乗る刑事さんがいるのは確かだった。