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文字数 1,400文字

 それから、僕は中学校の図書室へと向かった。
「ミステリ同窓会」のメンバーのうち、豊岡在住者から「話がしたい」との連絡があったからだ。図書室に向かうと、沙織ちゃんの他に、「ミステリ研究会」のメンバーや「ミステリ同窓会」のメンバーが集まっていた。そのメンバーの多さに、僕は正直ビックリしてしまった。「せいぜい集まっても2~3人程度だろう」と思っていたら、同窓会と研究会を合わせて15人ぐらいはいたからだ。
 沙織ちゃんが、話を振る。僕は、ダイナブックを開いてそれをメモする。こう見えて、情報部のタイピング練習中に『寿司打』で10万円という驚異のハイスコアを叩き出して杉本先生をドン引きさせ、鈴村先生を気絶させたことがあるので、タイピングには自信があったのだ。
 それから、同窓会と研究会による推理合戦は2時間ぐらい続いただろうか。ホームチャイムが鳴っていたので、多分午後6時は回っていただろう。結局、「甲野昴が犯人である」という意見と「小林望海が犯人である」という意見、そして「遠藤直也の自作自演である」という意見も寄せられた。確かに、今の僕なら「遠藤直也の自作自演」という意見が正解に近いんじゃないかなって思っている。でも、それならミステリとしてつまらないし、直也くんの自業自得でしかない。所謂「本末転倒」である。
 それにしても、独りぼっちだ。まあ、僕は昔から()れることが苦手であり、こうやって独りでいるほうが落ち着く。それは映画館だろうがカフェだろうが遊園地だろうが変わらない。漫画喫茶でも個室を選んでしまうぐらいだ。
 ふと、ダイナブックのキーボードに目をやる。一応エアダスターでクリーニングはしているつもりだけど、矢張り汚れや埃は目立ってしまう。――そういえば、「カナ入力」って最近見ないのに、どうしてキーボードにはかな文字が刻印されているのだろうか。――あっ、「KA」をカナ入力に変換すると「のち」になるか。のち、のっち――のっち? そういえば、ダイイングメッセージを善く見ると「K」と「A」の間に、小さな点があるな? 点を拡大すると――「Z」? そうか、僕はこの小さな「Z」を見落としていたのか!
「KZA」→「のっち」――これだ! 恐らく、直也くんは望海ちゃんのあだ名に「のっち」と付けていたんだ! なぜ、僕はその事実に気づかなかったのか。僕は、急いで沙織ちゃんのスマホにメッセージを入れた。

 ――沙織ちゃん! 犯人の目星が付いた!
 ――犯人は、小林望海だ!
 ――もしも帰る途中だったら、急いで中学校の図書室に戻ってきてほしい
 ――頼む!

「嘘から出た真」とは言うが、これが本当ならとんでもないことになる。幸い、既読はすぐに付いたので沙織ちゃんは図書室に戻ってくるだろう。そう思っていた。
 数分後、図書室の窓を見ると、赤いトヨタヤリスがランプを点けた状態で停まっていた。沙織ちゃんが戻ってきた! 僕は、急いで沙織ちゃんの元に駆け寄ったのだが、なんだか様子がおかしい。ドアの下で、沙織ちゃんが眠っている。――というか、気絶させられている! 一体、誰の仕業なんだ!? そう思った時だった。沙織ちゃんの後ろで、スタンガンを持った少女が嘲笑っていた。

「――この眠ったお姉さん、わたしの手でバラバラにしようかな?」

 嘲笑(あざわら)う少女は、紛れもなく小林望海だった。
 ――令和5年7月14日、午後6時25分のことだった。
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  • Phase 01「僕」という存在

  • 1
  • 2
  • 3
  • Phase 02 山奥の地方都市

  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • Phase 03 見立て

  • 8
  • 9
  • 10
  • Phase 04 追憶の中学2年生

  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • Phase 05 フランケンシュタインの怪物

  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • Phase 06 オール・リセット

  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • Final Phase 僕の遅すぎた青春

  • ***
  • 参考資料

登場人物紹介

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