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文字数 1,735文字

 第6の事件が発生した現場は、矢張り中学校だった。グラウンドの近くの雑木林に、頸のない遺体が放置されていた。頸がない状態だと、それが片桐梓だったモノかどうかは分からないのだけれど、科学捜査班のDNA鑑定によって正式に片桐梓だと判断されたらしい。もちろん、頸の行方は分からない。
「酷い……」
 刑事さんは、思わずそうやって声を漏らしていた。僕は、刑事さんに声をかける。
「刑事さん、僕です。神無月絢奈です」
「あなたは……竹野浜にいた女性ですね」
「そうです。一連の事件のことが気になってこちらに来ました」
「何か、思うことでもあったんですか?」
「まあ、そんなところです」
「じゃあ、詳しく教えてもらえないでしょうか?」
 こうして、僕は刑事さんに今までの経緯を細かく伝えることにした。
「――なるほど、そういうことでしたか。つまり、今までの事件は中学校のクラスに対する見立てであると。信憑性(しんぴょうせい)はともかく、被疑者は1組から6組まで躰のパーツでそれを見立てていたんですね」
「そうなります。たぶん、事件はこれで打ち止めだと思いたいんですけど、僕は第7の事件が起こるんじゃないかと危惧しています」
「第7の事件?」
「先程、犯人として候補に挙げていた小林櫻子という女性と連絡を取ったんですけど、メッセージアプリに既読が付かないんです。もしかしたら、彼女も事件に巻き込まれた可能性が高いと見ているんです」
「なるほど。そういえば、第2の事件の発生現場に残されていた仮面のようなモノって、小林櫻子さんが顔を隠すために使っていたモノで間違いないんですか?」
「僕の知る限り、彼女は交通事故に遭った後、顔の左半分を隠していました。仮面は恐らくシリコン製で、整形外科で作ってもらったモノと思われています」
「そうだ、アタシからも補足させて」
「沙織ちゃん?」
「西澤さん、その話を詳しく聞かせてほしいです」
「分かっているわ。じゃあ、話すわよ。櫻子ちゃんがシリコン製の仮面で顔の左半分を隠すようになったのは、中学2年生の3学期頃よ。あの子、冬休みの間に整形外科で右半分の顔から型を取ってシリコンの仮面を作ってもらったのよね。シリコン製の仮面って、ハリウッドの特殊メイクでも使われてるようなモノって思ったら良いかしら。ほら、ホラー映画でゾンビ役の俳優さんが被ってるじゃん?」
「ハリウッドですか……ハリウッドねぇ……」
「刑事さん?」
「いや、なんでもないです」
 ハリウッド映画のメーキャップか。そういえば、昔の映画で『フランケンシュタインの花嫁』という作品があったな。確か、人造人間が女性に恋をするとかそういう話だった気がする。よく「フランケンシュタイン」がその人造人間の名前だと思われているが、実際のフランケンシュタインは開発者の名前だと聞いた。――人造人間か。まさかとは思うが、犯人は遺体のパーツを組み合わせて人造人間を作ろうとしているのか? しかし、そんな展開はミステリ小説で見飽きた。『魍魎の匣』にしろ『占星術殺人事件』にしろ、遺体のパーツを組み合わせて人造人間を作るという目的があった。――ならば、別の目的だろうか。刑事さんの話によると、6つの事件において、切断面はきれいになっている。それに、現場に血がないのもおかしい。もしかして、犯人は遺体を切断した状態で現場に放置したのだろうか? つまり、被害者は既に「死んでいた」? となると、恐らく遺体の胃の内容物から毒が検出されてもおかしくない。考えられる毒物は、青酸カリだろうか。――とりあえず、刑事さんに聞いてみよう。
「刑事さん、少しお話があります」
「神無月さん、どうしたんですか?」
「あの、遺体の胃の内容物から何か検出されませんでしたか?」
「言われてみれば、そこまで考えていませんでした。とりあえず、監察医に頼んで遺体の胃の内容物を調べてみましょうか?」
「いいんですか?」
「いいですよ。被害者が毒殺されたという可能性は考えてもいませんでしたし」
 こうして、遺体の胃の内容物を調べてもらうことにした。恐らく、6人とも何らかの内容物が検出されるだろう。それに毒が混ざっていたら、事件は急展開を迎えることになる。検死にかかる時間は1日か。とりあえず、ここから引き下がろう。
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  • Phase 01「僕」という存在

  • 1
  • 2
  • 3
  • Phase 02 山奥の地方都市

  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • Phase 03 見立て

  • 8
  • 9
  • 10
  • Phase 04 追憶の中学2年生

  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • Phase 05 フランケンシュタインの怪物

  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • Phase 06 オール・リセット

  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • Final Phase 僕の遅すぎた青春

  • ***
  • 参考資料

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