18

文字数 2,215文字

 ここは、どこだ。僕は直也くんにスタンガンを当てられて、それから気絶した。多分、中学校の中だと思うのだが、妙に汗臭い。――体育館の用具入れの中か! そして、目の前には直也くんが跳び箱の上に座っていた。直也くんの右手には、サバイバルナイフのようなモノが握られている。
「目が覚めたか。随分と眠っていたようだな」
「ああ、不眠症だからな。こういう時じゃないと眠ることができないんだ。――それで、僕をそのナイフで殺す気か」
「ああ、真実を知ってしまった以上、絢奈には死んでもらう」
「せっかく再会できたと思ったのに、酷くないか?」
「酷いかどうかは、俺が決める」
 このままだと、僕は死んでしまう。誰か、助けに来てくれ。どうせ、助けに来てくれる人なんていないんだろうけど。――そういえば、沙織ちゃんと刑事さんはどうしているんだろう? 「体育館に来てくれ」と呼び寄せたはいいが、気配がない。――まさか、直也くんにスタンガンを当てられたのか!?
「ところで、沙織ちゃんと刑事さんはどうしたんだ」
「ああ、沙織と女刑事か。2人は睡眠薬でぐっすり眠っている。多分、朝まで起きないだろう」
 そうか。僕と同じ状況なのか。せっかく殺人鬼を追い詰めることができたのに、このままだと全滅してしまう。それだけは避けたいけど、沙織ちゃんと刑事さんはどこにいるんだ?
「俺は一旦家へ帰る。明日の朝、お前を殺しにまた戻ってくるからな」
「勝手にしろ」
 直也くんがいなくなったので、僕は沙織ちゃんと刑事さんを探すことにした。躰が拘束されていなかったのが幸いしたのか、とりあえず用具入れの中を抜け出すことはできた。用具入れを抜けると、真っ暗な視界の中に、「櫻子ちゃんだったモノ」で作られたロボットが不気味な顔をしてこちらを見つめていた。体育館の照明を点けると直也くんにバレてしまう可能性が高いので、僕は体育館の裏口から抜けて中学校の職員室の方へと向かった。スマホの時計は午後7時を指していた。――もしかしたら、誰かいるかもしれない。そう思って、僕は職員室の扉をノックした。
「すみません、この中学校のOGの神無月絢奈と言います。誰かいませんでしょうか?」
 職員室の扉が開かれる。そこにいたのは――杉本先生だった。
「絢奈ちゃん、もしかして例の事件の犯人が分かったのか!?」
「杉本先生なら、話は早いな。手短に伝えるから警察を呼んでほしい」
「どういうことなんだ」
「一連の事件の犯人は、杉本先生が16年前に担任を受け持っていた遠藤直也という生徒だ」
「ああ、直也か。確かに、あの時に受け持っていた記憶がある。それにしても、予想外の人物が出てきたな」
「こっちとしては予想内だったんだけどな」
「予想内?」
「コホン。詳しいことは警察が来てから説明するから、とりあえず連絡してくれ。それに、遠藤直也はまだこの中学校の中に潜んでいる可能性が高い」
「わ、分かった……」
 僕は、杉本先生に頼んで警察を呼ぶことにした。いよいよ、この事件もクライマックスを迎えようとしていた。あの殺人鬼の正体が遠藤直也だと分かった以上、あとは彼に対して逮捕状を請求するだけだ。もちろん、僕にそんな権限はないので刑事さんの仕事になってしまうのだが。
「ところで、絢奈ちゃんはどうやってこの学校に来たんだ?」
「バイクだ」
「なら、帰る手段はあるな。――少し、心配だったんだ」
「僕のことが?」
「そうだ。事件に深入りした結果、絢奈ちゃんの命に危害が及ぶことになってしまった。僕は絢奈ちゃんがどこかで命を落とすんじゃないかって心配していたからな」
「そういう訳で、僕は帰ります。明日、全ての事件にケリを付けたいと思う」
「それは本当か!」
「本当だ。任せろ」
 こうして、僕は杉本先生に「事件の解決」を約束することになった。そして、そのままバイクでまっすぐと家に向かった。
 家に帰ると、麻衣が料理を作って待っていた。今日のメニューはハンバーグだ。
「あら、帰ってきたのね。犯人は取り逃したの?」
「いや、取り逃してない。むしろ、捕まえるところまであと一歩といったところだ」
「なるほど。その犯人、アタシに教えてほしいな」
「麻衣は『遠藤』ってヤツを知っているか?」
「ああ、知ってるわよ。確か――遠藤雄作ってヤツと同じクラスだったのは覚えてる。きょうだいでもいたの?」
「同級生の中にいたんだ。名前は遠藤直也っていうんだけど、ソイツが今回の一連の事件の犯人なんだ」
「マジか」
「マジ」
「それで、どうやって追い詰めんのよ」
「遠藤直也は尼崎でロボットの製造会社を経営していて、明日、新製品の発表を中学校の体育館で行うんだ。それで、警察に協力して一気に追い詰めるのよ」
「ふーん、アンタにしてはやけに策士じゃん」
「まあ、杉本先生の入れ知恵なんだけど」
「アッハッハ、面白いわね。結局、いつの時代も頼りになるのは先生なのね」
「そうだな」
 僕がハンバーグに口をつけた瞬間だった。テレビのアナウンサーが、ニュース速報を読み上げていた。しかし、そのニュース速報は僕にとって事件を振り出しに戻してしまう話だった。
「――先ほど入ってきたニュースです。兵庫県警によると、兵庫県豊岡市の中学校の敷地内で、実業家である遠藤直也さんの遺体が発見されました。遠藤さんの遺体は、右腕、左腕、右脚、左脚、胴体、顔の6つに分割された状態で、兵庫県警では一連の殺人事件との関係性について調べているところです」
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  • Phase 01「僕」という存在

  • 1
  • 2
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  • Phase 02 山奥の地方都市

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  • 5
  • 6
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  • Phase 03 見立て

  • 8
  • 9
  • 10
  • Phase 04 追憶の中学2年生

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  • 12
  • 13
  • 14
  • Phase 05 フランケンシュタインの怪物

  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • Phase 06 オール・リセット

  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • Final Phase 僕の遅すぎた青春

  • ***
  • 参考資料

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