073 ヒョウ柄は海外だと富の象徴シック&エレガンス
文字数 2,281文字
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同、一四時五八分二一秒──盛相は、瑠沙から聞き込んだ状況報告から、尾脊が乗り替えたと思しきクルマが駐まるコインパーキングに張りついていた。
盛相よりも遥かに怪奇‐妖麗に装束 き立てた近隣コスプレイヤーたちもが、この日とばかりに挙 っている上、校門で受けるセキュリティーチェックも簡易なモノなのだが、やはりどうにも盛相には敷居が高い。
自ずと盛相の足は領会堂高校を敬遠してしまうものの、三人からの招待をすっぽかすわけにもいかずに、結局は高校に寄らず離れずで周辺を彷徨 くしかなくなる。
そこで瑠沙と鉢合わせたことは、盛相にとってまさに僥倖 でしかない。
なぜか頼めば、嫌そうな顔もせずにホホイと引き受けてくれる瑠沙から、クルマの画像データまでの情報をもらい、現場へ急行。
その現物がスーパーカー然と放つ豪猛さに暫 しく見惑わされたあと、盛相はパーキングの出入口脇で別段身を隠すこともなく待ち伏せに入っていた。
尾脊の顔は、繰から、七人もでひしめき撮った集合写真で見せられていた盛相だったが、中塚見帆照を騙ったモノとはまるで印象の違う瑠沙がくれたピン写のお蔭で、誤認することなく尾脊の前に立ちはだかれる確信も得ている。
だが、それも、まだまだ時間的に先のことになるだろうと放念しきっていたところへ、人が近づいて来る気配が感じられた。
足音や話し声から一人ではなく、おそらく紡が推測したとおり二人。
角を曲がって姿を現したのは、ヒョウ柄のタンクトップにパンチングレザーの黒シャツを羽織り、幾重にも裂けて両素脚はほぼ丸晒しの赤いスキニージーンズという、意表も甚だしきパンキッシュスタイルだったが、紛れもなく尾脊麻未。
そして横には、鉄錆色の汚し加工が施されたタキシードでピッチピチに正装した見るからにコミットマッチョな丸剃り男を連れている。
銀無垢の蝶ネクタイやら耳輪から耳たぶを埋め尽くすピアス、凶器も同然とハメたリングにゴーグル型のサングラスなども、カネに任せた柄の悪さを標榜していた。
一見して、二人から親昵さなどまるで感じられないが、サイズは大きく違うおそろいのイカツいエンジニアブーツが唯一、ようがましい関係性を物語る。
一歩二歩と近づいて来る毎に、純然たる日本人ではなく、二メートルに届かんばかりの身長に、筋肉だけで一〇〇キロはありそうなことが明らかとなったその丸剃り男から、早速因縁をつけられだした盛相は怯むことなくスマホ操作を開始。
──「尾脊麻未さん、と言うより、尾脊麻未さんの体に入れ替えをされている誰かさんですよね? ──オレは名告るほどの者ではないんですが、チョットだけ本人に戻ってもらえませんか。話があるんですけど」
「んだオラァ。何、俺様を無視してフザケた真似こいてんだモブが~っ」
丸剃り男が思いのほか早く入れてきた踏みつけタイプの蹴りを、盛相は腹でまともに受けて吹っ飛んだ──。
けれども、スグ様立ち上がりスマホへ返答の入力を始める。
──「悪いけど、オレに暴力は通用しないんだ。──ナイフでもあるなら、どうぞ刺してみるといい。傷がつかなければ、あんたも犯罪者にはならずに済むんだから」
「こいてろっ。こっちにも、モブを幾らボコり斃そうがキレイにモミ消してくれるデモネス、帆照がいるんだ。そんなの全く脅しになりゃしねぇぜっ」
二発目は回し蹴り。盛相は狙われた首から顎を避けるために自ら額を突き出し、結果、蹌踉 け倒れたが、スマホと口元を覆うマスクは死守。
またもスグに入力作業にかかった。
──「脅しではなく、ムダだと言っているだけ。ただの人間のあんたには用がないんだ、わかってくれないかな? ──それに帆照は偽名だよ、あんた信用されていないんだな」
「黙れモブが、ムダも信用も関係ねぇっ、帆照には誰も近づけないってのが俺様の役目だ!」
お次は力任せなパンチの連打。
これも、盛相はスマホを握った手で口元をカヴァーし、もう一方の手でスマホもガードするのみ。
メリケンサックよりもタチが悪そうなシルヴァーアクセで惨烈化された拳が、盛相の両眼窩やミゾオチを何度も襲う──。
ところが、盛相はパンチを受けるたびに押されてヨロヨロと後退するだけ。
途中からはクリーンヒットしているにもかかわらず、その目を閉じもしなくなる。
勿論、盛相に出血は全くなく、傷一つできず、それには丸剃り男も手を止めて、呼吸を整えずにはいられない。
──「もうそろそろ、理解してもらえたかな?」
「……ガチでかこいつ……帆照っ、ヤベェぜ、こっちに御同類が出やがった」
丸剃り男の怯みから、尾脊の顔ばせや態度といった気ぶらいが今までとはガラリ、まさしく豹変を遂げた。
「同類じゃないわ……私のチカラも通じないっ、けど神とも違う……何なの一体?」
自分の体へと意識を戻した尾脊の第一声から、盛相は≪深緋の祈りが効いているんだ。今のオレをどうにかできるのは、やっぱり彼女たちしかあり得ないな≫と、湧き立つ思いからホクホク頷く。
──「自分の体に戻ってくれたようだね。初めまして尾脊麻未さん、実物はしっかり今どきの十代だな」
「あなた何者? ……私の仲間にでもなりたいわけ?」
尾脊のこの口ぶりに、盛相は殊のほか物悲しさが感じられてくる。
親交が結べるのであれば、それが一番と考えている盛相ではあるものの、仲間になろうという気持だけは更更ない。
しかしながら、尾脊が、この丸剃り男からして本当に仲間にしたかったともまるで思えない盛相には、否定を示すふるまいなど眉を寄せることすら憚られてしまう。
同、一四時五八分二一秒──盛相は、瑠沙から聞き込んだ状況報告から、尾脊が乗り替えたと思しきクルマが駐まるコインパーキングに張りついていた。
盛相よりも遥かに怪奇‐妖麗に
自ずと盛相の足は領会堂高校を敬遠してしまうものの、三人からの招待をすっぽかすわけにもいかずに、結局は高校に寄らず離れずで周辺を
そこで瑠沙と鉢合わせたことは、盛相にとってまさに
なぜか頼めば、嫌そうな顔もせずにホホイと引き受けてくれる瑠沙から、クルマの画像データまでの情報をもらい、現場へ急行。
その現物がスーパーカー然と放つ豪猛さに
尾脊の顔は、繰から、七人もでひしめき撮った集合写真で見せられていた盛相だったが、中塚見帆照を騙ったモノとはまるで印象の違う瑠沙がくれたピン写のお蔭で、誤認することなく尾脊の前に立ちはだかれる確信も得ている。
だが、それも、まだまだ時間的に先のことになるだろうと放念しきっていたところへ、人が近づいて来る気配が感じられた。
足音や話し声から一人ではなく、おそらく紡が推測したとおり二人。
角を曲がって姿を現したのは、ヒョウ柄のタンクトップにパンチングレザーの黒シャツを羽織り、幾重にも裂けて両素脚はほぼ丸晒しの赤いスキニージーンズという、意表も甚だしきパンキッシュスタイルだったが、紛れもなく尾脊麻未。
そして横には、鉄錆色の汚し加工が施されたタキシードでピッチピチに正装した見るからにコミットマッチョな丸剃り男を連れている。
銀無垢の蝶ネクタイやら耳輪から耳たぶを埋め尽くすピアス、凶器も同然とハメたリングにゴーグル型のサングラスなども、カネに任せた柄の悪さを標榜していた。
一見して、二人から親昵さなどまるで感じられないが、サイズは大きく違うおそろいのイカツいエンジニアブーツが唯一、ようがましい関係性を物語る。
一歩二歩と近づいて来る毎に、純然たる日本人ではなく、二メートルに届かんばかりの身長に、筋肉だけで一〇〇キロはありそうなことが明らかとなったその丸剃り男から、早速因縁をつけられだした盛相は怯むことなくスマホ操作を開始。
──「尾脊麻未さん、と言うより、尾脊麻未さんの体に入れ替えをされている誰かさんですよね? ──オレは名告るほどの者ではないんですが、チョットだけ本人に戻ってもらえませんか。話があるんですけど」
「んだオラァ。何、俺様を無視してフザケた真似こいてんだモブが~っ」
丸剃り男が思いのほか早く入れてきた踏みつけタイプの蹴りを、盛相は腹でまともに受けて吹っ飛んだ──。
けれども、スグ様立ち上がりスマホへ返答の入力を始める。
──「悪いけど、オレに暴力は通用しないんだ。──ナイフでもあるなら、どうぞ刺してみるといい。傷がつかなければ、あんたも犯罪者にはならずに済むんだから」
「こいてろっ。こっちにも、モブを幾らボコり斃そうがキレイにモミ消してくれるデモネス、帆照がいるんだ。そんなの全く脅しになりゃしねぇぜっ」
二発目は回し蹴り。盛相は狙われた首から顎を避けるために自ら額を突き出し、結果、
またもスグに入力作業にかかった。
──「脅しではなく、ムダだと言っているだけ。ただの人間のあんたには用がないんだ、わかってくれないかな? ──それに帆照は偽名だよ、あんた信用されていないんだな」
「黙れモブが、ムダも信用も関係ねぇっ、帆照には誰も近づけないってのが俺様の役目だ!」
お次は力任せなパンチの連打。
これも、盛相はスマホを握った手で口元をカヴァーし、もう一方の手でスマホもガードするのみ。
メリケンサックよりもタチが悪そうなシルヴァーアクセで惨烈化された拳が、盛相の両眼窩やミゾオチを何度も襲う──。
ところが、盛相はパンチを受けるたびに押されてヨロヨロと後退するだけ。
途中からはクリーンヒットしているにもかかわらず、その目を閉じもしなくなる。
勿論、盛相に出血は全くなく、傷一つできず、それには丸剃り男も手を止めて、呼吸を整えずにはいられない。
──「もうそろそろ、理解してもらえたかな?」
「……ガチでかこいつ……帆照っ、ヤベェぜ、こっちに御同類が出やがった」
丸剃り男の怯みから、尾脊の顔ばせや態度といった気ぶらいが今までとはガラリ、まさしく豹変を遂げた。
「同類じゃないわ……私のチカラも通じないっ、けど神とも違う……何なの一体?」
自分の体へと意識を戻した尾脊の第一声から、盛相は≪深緋の祈りが効いているんだ。今のオレをどうにかできるのは、やっぱり彼女たちしかあり得ないな≫と、湧き立つ思いからホクホク頷く。
──「自分の体に戻ってくれたようだね。初めまして尾脊麻未さん、実物はしっかり今どきの十代だな」
「あなた何者? ……私の仲間にでもなりたいわけ?」
尾脊のこの口ぶりに、盛相は殊のほか物悲しさが感じられてくる。
親交が結べるのであれば、それが一番と考えている盛相ではあるものの、仲間になろうという気持だけは更更ない。
しかしながら、尾脊が、この丸剃り男からして本当に仲間にしたかったともまるで思えない盛相には、否定を示すふるまいなど眉を寄せることすら憚られてしまう。