043 三本でも矢は命中精度が大事かと
文字数 2,334文字
「……どしたのさ深緋? まるで中学の頃みたいじゃん。二年半離れていようが、やっぱり克服できなかったってわけ?」
ようやく追い着いた紡が、深緋の背中を人差し指でウリウリと小突きながら言う。
それはむしろ、女子中学生が、通勤途中で気分を悪くしたOLを介抱しているかのよう。
「ウルサいのっ……認めてやるわよモォ~、紡と繰がいてこそのアタシなんだってことは。だから、この呆れるほど一直線な通りの、どの辺が怪しいかだけでも教えるの」
「もう充分だよ、この通り沿いだってことさえわかれば」
「……スカタァ。いつもそうなの紡はっ、一人で先にわかっててぇ」
「とりあえず在校生の家はないから。あとは、ガッコの全名簿をこまかく索って、関わる奴が住んでるか調べればいいさ」
「じゃっ、挑発者は生徒じゃないってこと?」
「そこまでは、まだ何ともだね」
「……また、いっつもそう。全部わかってる風な口を利いといてイマイチなのっ」
「お互い様じゃん。でもって、その名簿にアクセスできる権限も、繰がクラス委員になったからなんで感謝しときなね。ワタシたちはまぁ、ガチでトリニティーな宿命なんじゃん?」
「……宿命とか大嫌いっ。大体、あらゆる運命を須らく確定してやるのはアタシたちでしょ。そのフィニッシング、裁断を担うアタシが宿命なんかに足を引っ張られたらダメダメなのっ」
「いいじゃん別に。確定しきれないのは何もあんたがダメだからってわけじゃないんだしさ。それに大体、宿命と運命は全くの別モノだし」
「エ~ッ、そうだったの?」──深緋はしゃっきり立ち上がる。
「デスティニーやらフェイトやら、一緒くたにされる語訳とかで混同してるんだろうけどさ。宿命ってのは、生まれもたされた全部のことで、それでどう生きてくことになるのかを運命って考えるのが穏当だよ。思いどおり運命を裁断できたり、できなかったり、それもあんたの宿命じゃん?」
「……つまりアタシ一人で裁断しきれないのは、アタシのせいじゃないわけだなっ。裁断できなかった時は、紡か繰のどっちかが先に失敗ってるからだったわけで、となれば間違いなくパーの繰が原因に決まってるの」
「その、何事もスグ自分に都合好く考えられる宿命のせいで、ワタシに心底から呆れられるのもあんたの運命だね」
紡は、露骨なまでの一顰一笑 を深緋へして見せた。
「……チョビにクセしてぇ、ダシしかとれなそうな繰より喰えないのっ。煮ても焼いても、ますます縮んで食べるトコなんてなくなりそうだし」
「それがワタシのもち味だしさ」
「ゥウ……そう言うトコ好き~、頭から齧ってやりたいぃ」
「ったく。繰がいつも悪いってことはないけどさ、おそらくあんたが裁断しきれない時は、繰のノりが実質的によくない時なんだと思うんだよね。ってことはさ、ワタシらが決めてしまえる運命のカギを握ってるのは、繰とも言えちゃうんだし」
「フン。紡がそんな意識誘導を今ここでしなくたって、繰が大事なのも決まってることなの。その上で繰がクルクル不安定だと口惜しんでるんでしょうが、って言うか、あのパーをほったらかしにしてて大丈夫なわけ? 急に心配になってきたのっ」
「なら大丈夫でしょ。あんたが繰を心配する時は、決まって取り越し苦労だから」
「フ~ンだ。それじゃぁアタシはミッション・ベータへ移行するの、T2の自宅前へ到着したら連絡を入れるっ」
「好きだねぇアンタはつくづく。でも、素冠由々が家を出る時間はその日の気分次第ぽいってこと、忘れてないだろうね? 不発に終わるだけかもよ」
「だから本名で呼んじゃダメッ、T2なのT2!」
「いいけどさ、その別人メイクを落として制服へ着替える時間を失念せずに、ターゲット2の尾行チェックを愉しまなくちゃダメだからねっ。こんなことで遅刻したら、繰に何かと言われ続けるよ。繰はあのパーっぷりで無遅刻‐無欠席なんだからさ」
「モォ~、これはミッション。乖離 を皮肉ってガンバるエージェントのアタシと繰だけでしょ」
「どこが指揮官だか? ワタシもこうして現場に出てて、あんたの認識との乖離をガマンしながら、ごっこ遊びにもつき合ってあげられるようガンバってるんだけど」
「ガンバりが足りないのっ、イチイチ冷めちゃって全然愉しめない~。とにかくアタシはT2の捕捉へ急行するぞ。断じて遅刻などするものか、繰の皆勤賞をのがすくらいなら自主退学して、紡と繰も道連れの放校処分に陥れてくれるぅ」
「まったく。繰よりもあんたの方が遥かに心配、って言うか、どうにも不安だよイチイチ……なら、そのメイクが崩れない程度で急ぎな。ワタシは繰の様子をチェックしてから、あんたにつなぎなおすからさ」
「了解しとくの。どおだ紡ぅ、手がかかるアタシは、繰より遥かにイチイチ愛 おしいだろ~」
「あんたねぇ、さっきからワザとやってるなら殴るよグーで、マジガチにっ」
深緋の了承など端から期待していない紡は、断りを入れた時点で渾身の左ストレートを見舞ってみるも、予想していたとおり深緋はひらりと飛び退き、それを弾みに突っ走りだした。
「相変わらず腰が入ったグーなパンチだったのっ。惜しむらくは、リーチと重さもチョビのままだけど~」
深緋はそう嬉嬉とした捨て台詞で駆け去っていく。
──その後ろ姿を、寸秒見送ってから紡は回れ右。
「ウザいったらないねぇイチイチ、それに頼りにもイマイチならないんだから。繰を朔日松愛芽にぶつけた時点で、挑発者が警戒してるに決まってるじゃん。マークを素冠由々へ変えたところで、今日はもう尻尾を出すとは思えないっての……」
そう独り言ちつつ、紡も速めのジョギングで引き返しだした。
ようやく追い着いた紡が、深緋の背中を人差し指でウリウリと小突きながら言う。
それはむしろ、女子中学生が、通勤途中で気分を悪くしたOLを介抱しているかのよう。
「ウルサいのっ……認めてやるわよモォ~、紡と繰がいてこそのアタシなんだってことは。だから、この呆れるほど一直線な通りの、どの辺が怪しいかだけでも教えるの」
「もう充分だよ、この通り沿いだってことさえわかれば」
「……スカタァ。いつもそうなの紡はっ、一人で先にわかっててぇ」
「とりあえず在校生の家はないから。あとは、ガッコの全名簿をこまかく索って、関わる奴が住んでるか調べればいいさ」
「じゃっ、挑発者は生徒じゃないってこと?」
「そこまでは、まだ何ともだね」
「……また、いっつもそう。全部わかってる風な口を利いといてイマイチなのっ」
「お互い様じゃん。でもって、その名簿にアクセスできる権限も、繰がクラス委員になったからなんで感謝しときなね。ワタシたちはまぁ、ガチでトリニティーな宿命なんじゃん?」
「……宿命とか大嫌いっ。大体、あらゆる運命を須らく確定してやるのはアタシたちでしょ。そのフィニッシング、裁断を担うアタシが宿命なんかに足を引っ張られたらダメダメなのっ」
「いいじゃん別に。確定しきれないのは何もあんたがダメだからってわけじゃないんだしさ。それに大体、宿命と運命は全くの別モノだし」
「エ~ッ、そうだったの?」──深緋はしゃっきり立ち上がる。
「デスティニーやらフェイトやら、一緒くたにされる語訳とかで混同してるんだろうけどさ。宿命ってのは、生まれもたされた全部のことで、それでどう生きてくことになるのかを運命って考えるのが穏当だよ。思いどおり運命を裁断できたり、できなかったり、それもあんたの宿命じゃん?」
「……つまりアタシ一人で裁断しきれないのは、アタシのせいじゃないわけだなっ。裁断できなかった時は、紡か繰のどっちかが先に失敗ってるからだったわけで、となれば間違いなくパーの繰が原因に決まってるの」
「その、何事もスグ自分に都合好く考えられる宿命のせいで、ワタシに心底から呆れられるのもあんたの運命だね」
紡は、露骨なまでの
「……チョビにクセしてぇ、ダシしかとれなそうな繰より喰えないのっ。煮ても焼いても、ますます縮んで食べるトコなんてなくなりそうだし」
「それがワタシのもち味だしさ」
「ゥウ……そう言うトコ好き~、頭から齧ってやりたいぃ」
「ったく。繰がいつも悪いってことはないけどさ、おそらくあんたが裁断しきれない時は、繰のノりが実質的によくない時なんだと思うんだよね。ってことはさ、ワタシらが決めてしまえる運命のカギを握ってるのは、繰とも言えちゃうんだし」
「フン。紡がそんな意識誘導を今ここでしなくたって、繰が大事なのも決まってることなの。その上で繰がクルクル不安定だと口惜しんでるんでしょうが、って言うか、あのパーをほったらかしにしてて大丈夫なわけ? 急に心配になってきたのっ」
「なら大丈夫でしょ。あんたが繰を心配する時は、決まって取り越し苦労だから」
「フ~ンだ。それじゃぁアタシはミッション・ベータへ移行するの、T2の自宅前へ到着したら連絡を入れるっ」
「好きだねぇアンタはつくづく。でも、素冠由々が家を出る時間はその日の気分次第ぽいってこと、忘れてないだろうね? 不発に終わるだけかもよ」
「だから本名で呼んじゃダメッ、T2なのT2!」
「いいけどさ、その別人メイクを落として制服へ着替える時間を失念せずに、ターゲット2の尾行チェックを愉しまなくちゃダメだからねっ。こんなことで遅刻したら、繰に何かと言われ続けるよ。繰はあのパーっぷりで無遅刻‐無欠席なんだからさ」
「モォ~、これはミッション。
愉しむ
とか、コマンダーの紡が言ったらダメなのっ。言っていいのは、命令と現場の「どこが指揮官だか? ワタシもこうして現場に出てて、あんたの認識との乖離をガマンしながら、ごっこ遊びにもつき合ってあげられるようガンバってるんだけど」
「ガンバりが足りないのっ、イチイチ冷めちゃって全然愉しめない~。とにかくアタシはT2の捕捉へ急行するぞ。断じて遅刻などするものか、繰の皆勤賞をのがすくらいなら自主退学して、紡と繰も道連れの放校処分に陥れてくれるぅ」
「まったく。繰よりもあんたの方が遥かに心配、って言うか、どうにも不安だよイチイチ……なら、そのメイクが崩れない程度で急ぎな。ワタシは繰の様子をチェックしてから、あんたにつなぎなおすからさ」
「了解しとくの。どおだ紡ぅ、手がかかるアタシは、繰より遥かにイチイチ
「あんたねぇ、さっきからワザとやってるなら殴るよグーで、マジガチにっ」
深緋の了承など端から期待していない紡は、断りを入れた時点で渾身の左ストレートを見舞ってみるも、予想していたとおり深緋はひらりと飛び退き、それを弾みに突っ走りだした。
「相変わらず腰が入ったグーなパンチだったのっ。惜しむらくは、リーチと重さもチョビのままだけど~」
深緋はそう嬉嬉とした捨て台詞で駆け去っていく。
──その後ろ姿を、寸秒見送ってから紡は回れ右。
「ウザいったらないねぇイチイチ、それに頼りにもイマイチならないんだから。繰を朔日松愛芽にぶつけた時点で、挑発者が警戒してるに決まってるじゃん。マークを素冠由々へ変えたところで、今日はもう尻尾を出すとは思えないっての……」
そう独り言ちつつ、紡も速めのジョギングで引き返しだした。