069 ニンニンッ 神法ハッタリくんの術 

文字数 2,220文字


「スプンタ・マンユってっ、そりゃ慈恵、主神アフラ・マズダーと同一視されてんじゃね?」 
  
「そうよっ。だって神の軍を率いてサタンを斃すミカエルのことだもの。ミハイルは正教の呼び方で、ギリシャ語やロシア語の発音だとか? この深緋ってコはギリシャ系らしいから、スジが通らない話じゃないのよ……」

「ってことは……ド~すりゃいいんだよ?」

「瑠沙こそどうにかしてしてっ。ミカエルに拒否られたら私たち即お終いだわ。天使は残酷だって、カラオケに行くたび唄われる常識も常識なんだからっ」

 慈恵は目の色を変えて瑠沙を急き立てだす。それにつられて瑠沙もまた一段と動揺を見せるあり様。

「えぇとっ……わかったぜ慈恵──」瑠沙は心逸りのままに、左手中指からシルヴァーのアーマーリングをはずして差し出す──「なっ深緋、まずボクのこの指輪をやるから、とりあえず仮契約しといてくれね?」

「ンン? もしかして血迷っちゃってるの二人して?」

「このリングだって、アーサーに聖剣をやった妖精と同じ名前のブランドだぜ、結構プレミアもついてるし。知らんけど、あんたと取引するための流儀には合うはずだ。なっ、今日のところはそう言うことで、とにかく頼む、お願いっ」 

 さらに透かさず、そのアーマーリングへ手を出そうともしない深緋に代わり慈恵がとって、半ば強引に深緋に握らせた。

「ハイッ、これで仮契約は一応成立ってことよ、女神は女神のプライドに懸けて絶対に契約違反できないんだからね。ハイハイ瑠沙、速やかに離脱離脱っ」

  慈恵は臆面もなく瑠沙へ飛びかかり、全身でガッチリとしがみつく。

「コアラかよ、ったく。じゃ、スマホをゲットし終えたらまた。本契約の話はその時に──」瑠沙は紡と繰へも一瞥をくれてから、慈恵にとり縋られていない左腕を投げ伸ばす──「とにかくカレシのミーカーイールはぬきでなっ」

 そう深緋に言い残して瑠沙たちは忽然と消え去った──。

「ヘェ~。魔力の縄を自分より重い壁とか建物へ投げ打てば、見える範囲でも見分けられないほど遠くまで、逆に瞬間移動になるってわけね。便利だけど、確かに防犯カメラが最大の敵だね。録画を見返されたら言いのがれが辛労そうじゃん?」

 余談で場の正常化を図ろうとした紡だが、深緋もさらに輪をかけた余談で返す。

「やれやれなの。アタシいつの間にかカレシもちになっちゃったぁ、これにてパーのモテ期はアディオ~、今後は完全なるチョッキリ時代の到来なの」

 紡は軽く溜息を吐き、歩調もいつもどおりの登校速度へと立てなおしながら言う。

「どうするのさ? その指輪と呼ぶにはイカツすぎなヤツ」

「これぇ? どうせ盗品なの。内側にヒントになりそうなイニシャルやメッセージが刻まれてるから、持主を探してあげればいいでしょ。名告り出てくれさえすれば、ニセ者かどうかはスグわかるんだし」

 そうは答えるものの、深緋は自分の左手中指にハメてもみて、満更でもない表情を見せていた。

「大体さ深緋? ソロモンの指輪って、人が神力を指輪の形で授かる異説じゃん。生まれながらに授かってるワタシらには、今さら天使なんぞが現れて指輪をくれる道理がないし。それもソロモンの指輪は悪魔だけじゃなく天使も使役できるんだから、ワザワザ異教の女神に使役されに出て来やしないっての」

「だからぁ、それこそがアタシたちが授かってる神力の一端、ソロモンの知恵も同然のチカラなの。悪賢さとも言うんだけど~、話は忍忍(にんにん)と最後まで聞いてあげたし、あの二人が勝手にガチビビりしたんだから、嵩に懸かっとくのは正攻法でしょ」

「ったく。悪賢さとしか言わないっての、それもアンタ固有のね」

「瑠沙と慈恵を従わせるのは、一筋縄じゃいかないに決まってるの。けどゾロアスターの悪魔には、ああ言っとけば、ガチに極悪なことをする気になれないはずぅ。だから繰、ウッカリでも口を滑らせてバレたら、唇にミシンをかけちゃうからなぁ」

「エェ~ッ、繰そんなウッカリさんじゃないもん。深緋こそ、なんか悪魔たちよりタチが悪すぎぃ。女神の風上に置けないから、繰たちの前も歩かないでっ」

「オッと、それは当然なの──」深緋はムーンサルトで繰と紡の背後へと跳ね飛んだ──「クルクル‐タイフーンが完成するまで、アタシが後ろから支えてあげちゃう。繰はいつでも安心して発動していいぞっ、ガマンは便秘の原因にもなるの」

「……そう言うことじゃないってばぁ」

「いいから行く行くぅ」

 深緋は早速、伸ばした両手で繰の背中を押し支えて先へと促す。

「モォ~。深緋は愉しくて仕方がないんでしょうけど、繰はそんな気分じゃないんだからぁ」

「今朝はいつもより早く出てるし、紡んチで道草もしてないけど、二悪魔出たなら三も四もあり得るの。無事ガッコへ辿り着けるかわからんぞ。警戒を厳となせ紡っ」

「まぁそうかも。仲間とまでは言えないにせよ、存外あの尾脊が世話を焼いてた悪魔連中は多そうじゃん?」

「どんな連中がいるのか? 考えるだけでワクつくの」

「瑠沙は調べないとはっきりしないけどさ、たぶん慈恵の魔力はゾロアスター教の魔王アーリマンの愛人ジャヒー、女悪魔で最高位のモノだよ。そんなのが尾脊を頼ってたわけだから、ほかに大物がウジャラケててもおかしくないし」

 そう紡が所懐を述べたあとは、普段よりも明らかに粛然と三人は登校ルートを進んで行く。

 だが、何事もなく辿り着いた校門前で、しっかりと次の遭逢(そうほう)が待っていた。
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登場人物紹介

とりあえず、業界関係者の間でバズるまではウザ苦しいくらい凝り詰めたモノをつくりまくるしかないよ



畔戸紡《くろと・つむぐ》設定⇒ 身長153㎝ コーヒーは香りが好きで飲んでいるだけ、こだわりがあるのも香りのみ 明察秋毫で流行するかも兆しである最先端情報から一目で見ぬく 何事もよく見えてしまうために一歩も二歩も退いたポジションで責任をのがれ、ヤル気のないことは一切しない 可能性がトントンだと、のちのち責任を問われる決断もしない 受けているストレスも多くシニカルにならざるを得ないキャラ


繰はつくれれば何でもいぃ、紡が選んで深緋が決めたんなら間違いないし~


来銷州繰《らけしす・りーる》設定⇒ 身長174㎝ 両利きの器用さがアダとなって混乱しがち マジメな善いコなので逆に自分がなくホンワカしちゃってるカンジ 隙だらけで親しくしてくれる者と疎む者とに二分してしまう難儀さがある 紡か深緋がノせないとヤレる気にならないためできないしできるとも思わない 表裏がない清純無垢と言うより善くも悪くも我欲なくスクスク育っちゃっているキャラ 

どんなデザインだろうがチョチョイなの、アタシのアルティメットな巧緻性で仕上げてくれるぅ


アトロポス・常上深緋《とこしなえ・ふかひ》設定⇒ 身長168㎝ 幼い頃に家出した父親を捜すために母親とチョクチョク海外暮らしを繰り返している サーヴィス精神が旺盛すぎて、絶えず笑いをとろうと基本的にフザケている ヤリたいことをヤリたいようにヤリまくるので、ヘタにかかわるとドップリ巻き込まれるウザクサいキャラ   

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