078 迷スト~ム!!! フィナーレはやっぱりテンペスト
文字数 2,941文字
「そしてその魔力、今はこの市内を彷徨いてて、地獄も本当に存在するのか? わかったとしても、その時にはどうにもできない気がするし……」
紡は、左手の親指で下唇を弾きだしながらの一沈思。
「…………」スマホ画面の上でスタンバり続けている盛相の両親指も、緊急停止のように微動をストップしてしまう。
「だからこそ、瑠沙も干渉せずにはいられずに、死者が出て、ニャーさんもそんなことになったのかも……」
──「どう言うこと?」
「臆測にすぎないけどさ、ワタシらが運命を確定する際に、関係者へ身のふり方を迫る選択を突きつけるってことを尾脊から聞いて、瑠沙は自分の魔力で地獄へ殞とせるかを試したんじゃないか、とか?」
──「えっと、──紡たちは、紡たちの確定にどう従うかを自分で決めろと突きつけはするから、決まるまでの不安定な間なら、魔力で影響を及ぼせてしまうかもってこと?」
「ゥン……おそらく瑠沙はあの事故の時に、ニャーさんたちの部屋と言うか、マンションの事故が起きた側の全面が見える場所にでもいてさ、深緋の祈りが発動する瞬間を待ちかまえていたんじゃないかな」
──「つまりあの、引き寄せたり投げ搦めたりするチカラで、死の間際にいたオレを引っ張ったってわけ? ──木幡美純さんも?」
「まぁそんなカンジ、あくまで臆測だけどね。だから、本当の事故死は桶取愛花莉だけなのかも……庵土の死も、瑠沙が関与した可能性は充分ありそうじゃん?」
「…………」今度は自分の全意識が思考へ向いて、両親指が止まる盛相だった。
「ツッコんで聞くと、逃げるからさ瑠沙は。自分からゲロるまで真実は待つしかないよ、とり返しはつかないことだし。瑠沙には疚しさもあるカンジだから、それとなく突っついてニャーさんの使い魔にしちゃえばマジで?」
微笑んで見せる紡だけれども、繰や深緋のような無邪気さはないために、盛相の脳裏には全く関係のないことがよぎってしまう。
──「紡って、──違う意味でも学校でモテているのかな?」
「アハ。心配しなくても、全然でしょ勿論」
──「それはそれで勿論心配、──いや、大きなお世話だったホント」
「あいにく運命の女神だったもんだからさ。とにかく自分らの運命を堅如磐石 にできないことには、空回るか、恥ぃおフザケにしかならないでしょ?」
──「二人がいないから、よりキッツく聞こえちゃうけどねぇ」
「ま、ワタシらはとにかく根源的に、
──「紡も、見上げ果てた女神だな」
……少しばかり放心してしまったからか、盛相の耳に騒然とした噪音が感じられてきて、自然とふり返えさせられる──。
エントランスの外からなのは確かだが、さらに聞き耳を立てるとそれは悲鳴、しかもかなり大勢が近く遠く、広範囲の場所場所で叫び声をあげているように盛相には思えた。
「まったく、あの二人ったら、どうも派手にやらかしちゃってるみたいだねぇ。でもまぁ尾脊が仕掛けてくるだろうって、想定してたほどではなさそうだけどさ」
そうケロリとアイスコーヒー(ミルク&シロップぬき)を味わいだしている紡に、再び放心してきてしまう盛相だったが、エントランス一面のガラス戸越しに、色とりどりの布や制作物の断片が左から右へ勢い良くひろめいて行く様をも視認すれば、ぼんやりし続けてなどいられない。
──「あれって、ガチで深緋と繰が? ──ならもう、そんな悠長にしている場合じゃないだろう紡、早くやめさせないと」
「だからニャーさん、堪え性の繰がガチギレしちゃったら止めるなんてワタシじゃムリ、それも想定内なんだってば一応」
「…………」
「何しろ、ワタシらって女神じゃん? きっと、どうなったって、どうにかなるからさ、って言うか、どうにかにしかならないんだろうけど~」
思わず立ち上がり走りだしていた盛相は、エントランスを飛び出すと、いきなり吹いてくる方向も、強いのか弱いのかもはっきりしない渦巻いては逆巻く風に襲われた。
そして左手に広がるグラウンドの方へと目をやれば、設営されていたゲートや本部テントなどは既に跡形もない。
流れる曲に合わせて輪舞したり、パフォーマンスを披露したり、撮影会をしたりと、とにかく先ほどまでトラック内を疲れも知らず飽きもせずに花めかしていた人人が、一様に地面に這い蹲って、ひたすら強風を凌いでいる。
中には、風を孕 み易いコスゆえに敢えなく吹き飛ばされて転がっているという、凄烈な光景を盛相は突きつけられた。
そして、グラウンドの手前に根延う大イチョウの太幹と、学校敷地内通路をはさんだ東校舎の西端壁面を、それぞれ背にして対峙する深緋と繰の姿も盛相は確認する──。
「まだまだ~っ。貴様のごときヒョロ木偶こそ、シャンゼリゼまで飛ばされてしまえぇ。無論スカしたパリの通りなんかじゃなく、エリュシオンの野の方なのっ」
「もっと喰らっちゃえぇぇ深緋! これでどおよっ、これでどおなのよおぉぉ~っ!!」
無論、盛相にまで深緋と繰の喚声など届きはしない。
喚き合っている当の二人でさえ既に何を発しているか聞こえていないものの、互いの表情だけで女神の狂妄な諍乱はエスカレートの一途を辿るのみ。
クルクル‐タイフーンの出力がさらに高まり、乱気流が盛相をも包み込んで前後左右に嫐 りだす。
その強烈さ、腹這 ってしがみつくグラウンドから剥がされて、転げ回る人もあちらこちらで頻発するほど。
「ウォォオ~! 繰カッケー。もっともっとぉ、どっちかが吹っ飛ぶまで、パーの底力を見せるのだぁ。さもないと、未だに一反木綿 が怖くて白い生地にハサミが入れられないとか、コンニャクを塗り壁の肉だと思えて食べられないことをバラしてやるぞぉ!」
「ルモォ~、いい加減に飛んでっちゃえっ! じゃないと深緋が、全~部深緋のママがやったズルで入国からウチの生徒にまでなったこと、言い触らしちゃうんだからぁ」
けれども、空中へと舞い上げられ、恰も尾の切れた奴凧 みたいにクルクルと回り飛ぶことになったのは、無謀にも止めに入ろうとした盛相だった。
繰の頭上に一筋、何やら薄黒い靄 が立ち上りだしたことに慌てふためいてしまったからだが、それがまさか深緋がフザケて言っていた超凝集したスーパーセルとやらの兆しならば、今に雷撃クルクル‐ビームの発射まであり得るし、おそらく乱射となるに違いない──。
重力と浮遊感が鬩ぎ合う刹那に、盛相は女神たちへの信心の甘さをあらためて猛省する。
このまま地面へ打ちつけられて着地した場合の絶痛にも思いが巡れば、これまでとはレヴェルが違いすぎて自分の精神が無事で済むとは到底思えない。
盛相の眩 めく視界のどこかで、瑠沙か明が助けに動いてくれていることを、ただただ願うばかりとなっていく。
ましてや、この随神な乱痴気騒ぎを、女神のチカラが本当に収めてしまえるのかを憂惧するなど、差し出がましいにもほどがあったとも、容赦ない遠心力に盛相は思い知らされていた。
【τελος】
紡は、左手の親指で下唇を弾きだしながらの一沈思。
「…………」スマホ画面の上でスタンバり続けている盛相の両親指も、緊急停止のように微動をストップしてしまう。
「だからこそ、瑠沙も干渉せずにはいられずに、死者が出て、ニャーさんもそんなことになったのかも……」
──「どう言うこと?」
「臆測にすぎないけどさ、ワタシらが運命を確定する際に、関係者へ身のふり方を迫る選択を突きつけるってことを尾脊から聞いて、瑠沙は自分の魔力で地獄へ殞とせるかを試したんじゃないか、とか?」
──「えっと、──紡たちは、紡たちの確定にどう従うかを自分で決めろと突きつけはするから、決まるまでの不安定な間なら、魔力で影響を及ぼせてしまうかもってこと?」
「ゥン……おそらく瑠沙はあの事故の時に、ニャーさんたちの部屋と言うか、マンションの事故が起きた側の全面が見える場所にでもいてさ、深緋の祈りが発動する瞬間を待ちかまえていたんじゃないかな」
──「つまりあの、引き寄せたり投げ搦めたりするチカラで、死の間際にいたオレを引っ張ったってわけ? ──木幡美純さんも?」
「まぁそんなカンジ、あくまで臆測だけどね。だから、本当の事故死は桶取愛花莉だけなのかも……庵土の死も、瑠沙が関与した可能性は充分ありそうじゃん?」
「…………」今度は自分の全意識が思考へ向いて、両親指が止まる盛相だった。
「ツッコんで聞くと、逃げるからさ瑠沙は。自分からゲロるまで真実は待つしかないよ、とり返しはつかないことだし。瑠沙には疚しさもあるカンジだから、それとなく突っついてニャーさんの使い魔にしちゃえばマジで?」
微笑んで見せる紡だけれども、繰や深緋のような無邪気さはないために、盛相の脳裏には全く関係のないことがよぎってしまう。
──「紡って、──違う意味でも学校でモテているのかな?」
「アハ。心配しなくても、全然でしょ勿論」
──「それはそれで勿論心配、──いや、大きなお世話だったホント」
「あいにく運命の女神だったもんだからさ。とにかく自分らの運命を
──「二人がいないから、よりキッツく聞こえちゃうけどねぇ」
「ま、ワタシらはとにかく根源的に、
糸
そのモノを扱うことや、糸から意図
されてそうな生き方しかできない運命なのは確定っぽいからさ。つくる服たちがモテてくれないことにはド~にもならないし、それ以外の運命なんて今のトコ全くピンときてないってことで……」──「紡も、見上げ果てた女神だな」
……少しばかり放心してしまったからか、盛相の耳に騒然とした噪音が感じられてきて、自然とふり返えさせられる──。
エントランスの外からなのは確かだが、さらに聞き耳を立てるとそれは悲鳴、しかもかなり大勢が近く遠く、広範囲の場所場所で叫び声をあげているように盛相には思えた。
「まったく、あの二人ったら、どうも派手にやらかしちゃってるみたいだねぇ。でもまぁ尾脊が仕掛けてくるだろうって、想定してたほどではなさそうだけどさ」
そうケロリとアイスコーヒー(ミルク&シロップぬき)を味わいだしている紡に、再び放心してきてしまう盛相だったが、エントランス一面のガラス戸越しに、色とりどりの布や制作物の断片が左から右へ勢い良くひろめいて行く様をも視認すれば、ぼんやりし続けてなどいられない。
──「あれって、ガチで深緋と繰が? ──ならもう、そんな悠長にしている場合じゃないだろう紡、早くやめさせないと」
「だからニャーさん、堪え性の繰がガチギレしちゃったら止めるなんてワタシじゃムリ、それも想定内なんだってば一応」
「…………」
「何しろ、ワタシらって女神じゃん? きっと、どうなったって、どうにかなるからさ、って言うか、どうにかにしかならないんだろうけど~」
思わず立ち上がり走りだしていた盛相は、エントランスを飛び出すと、いきなり吹いてくる方向も、強いのか弱いのかもはっきりしない渦巻いては逆巻く風に襲われた。
そして左手に広がるグラウンドの方へと目をやれば、設営されていたゲートや本部テントなどは既に跡形もない。
流れる曲に合わせて輪舞したり、パフォーマンスを披露したり、撮影会をしたりと、とにかく先ほどまでトラック内を疲れも知らず飽きもせずに花めかしていた人人が、一様に地面に這い蹲って、ひたすら強風を凌いでいる。
中には、風を
そして、グラウンドの手前に根延う大イチョウの太幹と、学校敷地内通路をはさんだ東校舎の西端壁面を、それぞれ背にして対峙する深緋と繰の姿も盛相は確認する──。
「まだまだ~っ。貴様のごときヒョロ木偶こそ、シャンゼリゼまで飛ばされてしまえぇ。無論スカしたパリの通りなんかじゃなく、エリュシオンの野の方なのっ」
「もっと喰らっちゃえぇぇ深緋! これでどおよっ、これでどおなのよおぉぉ~っ!!」
無論、盛相にまで深緋と繰の喚声など届きはしない。
喚き合っている当の二人でさえ既に何を発しているか聞こえていないものの、互いの表情だけで女神の狂妄な諍乱はエスカレートの一途を辿るのみ。
クルクル‐タイフーンの出力がさらに高まり、乱気流が盛相をも包み込んで前後左右に
その強烈さ、
「ウォォオ~! 繰カッケー。もっともっとぉ、どっちかが吹っ飛ぶまで、パーの底力を見せるのだぁ。さもないと、未だに
「ルモォ~、いい加減に飛んでっちゃえっ! じゃないと深緋が、全~部深緋のママがやったズルで入国からウチの生徒にまでなったこと、言い触らしちゃうんだからぁ」
けれども、空中へと舞い上げられ、恰も尾の切れた
繰の頭上に一筋、何やら薄黒い
重力と浮遊感が鬩ぎ合う刹那に、盛相は女神たちへの信心の甘さをあらためて猛省する。
このまま地面へ打ちつけられて着地した場合の絶痛にも思いが巡れば、これまでとはレヴェルが違いすぎて自分の精神が無事で済むとは到底思えない。
盛相の
ましてや、この随神な乱痴気騒ぎを、女神のチカラが本当に収めてしまえるのかを憂惧するなど、差し出がましいにもほどがあったとも、容赦ない遠心力に盛相は思い知らされていた。
【τελος】