072 オヤジギャグは逆に冷めたい時イイの

文字数 2,430文字

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 尾脊麻未が、情報科目の実習助手‐中塚見帆照としての存在を消すことができたのは、繰がクラス委員の立場も利用して聞き込んだ結果、教職員を含めた全校の九割強止まりであることが確認済み。

 それは、尾脊が作業室での計画を頓挫させて逃げ出した際に、クラスへ戻るや深緋が問うた「中塚見帆照センセを知ってる人っ?」に、肯定の意を示した三年D組三八人の中でも、教室の後方(しりえ)に席がある七人が大いに手懸かりとなってくれた。

 その、教室内の境目を起点に、ライシーアムまでの距離を用いた地図の縮尺から計算。尾脊が魔力を広範囲に及ぼして認識や記憶を操作する場合には、半径一五〇メートル程度が限界であることも割り出せている。

 加えて、瑠沙と慈恵の証言から、一対一での意識の交換はかなりの遠距離まで可能だが、遠くなるほど入れ代わった先で意識がボヤけてしまい、体も思いどおりに動かせなくなってしまう。
 その状態では、なり代わってできることも限られてきて、至極単純で力も必要としない動作しかできない上、他人の体からさらに魔力を使うこともできないという尾脊の魔力の特徴が判明していた。

 そうした情報から紡と深緋は、再び尾脊が接近して来るその際には、単独ではなく必ずや自分の分身として使うために、人間もしくは人間同様に意識交換が可能な悪魔の協力を得ているに違いないと予想。

 紡が探察する尾脊の意識から距離の遠さを感じられているにもかかわらず、尾脊が近くに存在するためには、尾脊の体に意識を入れ替えられた者が尾脊の指示どおりにやって来てから、意識を元へ戻せばいい。
 しかも離れた尾脊の拠点側とこちら側に複数の協力者を配せば、尾脊は自在に意識を交換しまくり、紡たちには、瑠沙みたくあちらこちらと瞬間移動をしまくっているように感知されてしまうだろうとまで思い至っている。

 瑠沙が撮影したクルマは二人乗りなので、ほかに仲間がいる可能性から、瑠沙に再びコインパーキングとその一帯を確認してもらったが、とりあえず同じ県外地域のナンバープレートを付けた悪魔懸かっているクルマは見当たらず終い。

 よって尾脊は、もう一人と二名で来ていることが推断できた。
 大体、逃亡から一週間程度の内に、何人もがそう容易く意識を交換されることを受け容れて尾脊に協力するとは思えない。

 そもそも高が腹癒せの返報に、そこまで大がかりにする必要などない、という紡の読みに繰も賛同したため、興に乗じて深緋が唱えた

を想定しての対応は完全に棄却された。
 まずもってそんな対応力など、各クラスの公認コスプレイヤーたちが出場ゲート前に集合し終え、お披露目行進のスタートを今か今かと待っているこの片時の間に整えるなんてことは絶対にムリ。

 もう全ては、挑発者の正体を尾脊だとあばく以前に固まっていた初一念、自分たちの実力でたたき出した結果を、入れ替えられるより先に裁断‐確定してしまうだけ。 
 そう決意をあらためて、それもスマホ越しのグループ通話を介し、紡と繰からなんとな~く固めなおさせられる深緋だった。

「……ねぇねぇ紡、配置は首尾好く大看板をはさんだ隣同士なんだし、今からだってアタシだけでも自由にしといた方がいいんじゃないの~、マジガチでさぁ? この船を加宮へパスする役目は、瑠沙にやってもらえばいいだし」

「しつこいね。もうこっちの通話からぬけて気球チーム間の通話につながりな。ここであんたが浮き足立たせる真似をしてどうすんのさ」

「それは全然、心配要らないみたいなの。監視と操縦の両チームは、もうアタシのことなんか関係ナシで、本番中の対応をこまかく再確認し合ってるようだから~」

「あっそ。けどさ、クラスのことにまで悪魔の手を借りるわけにいかないじゃん。瑠沙に劣らぬ凄ワザでパスができるのも、あんたしかいないんだし」

「そこは神ワザ、否、女神ワザと言うの。でも~、アタシがじっとしてるの一番ダメなのわかってるクセにぃ」

「それを起爆力にするんだよっ、尾脊の横槍を完固と弾き飛ばして優勝を確定しな」

「ヒャ~、なんて傲‐慢次郎なのぉ紡ってば」

「与謝野‐不遜なあんたが言うなっ」

「Oops……まぁ、出場ゲート前でもう全クラスのコスを見ちゃってる繰が、さっきから何も言おうとしないんだから問題ナシなの。我がクラスを超える出来映えはないってことが、既に確定しちゃってるわけだし~」

「ル~ッ。そんなつもりで繰は、この三人だけのグループ通話で黙ってたわけじゃないもん」

「あ、ちゃんと生きてたの。回りたくなったら、近くの誰かかゲートにでもしがみつくのだぞっ。周囲からの冷笑とともに(こら)えるように」

「イ~だ。もう緊急事態が起こるまでは黙るからぁ、深緋と紡も話すのお終いにしてっ。こっちから通話を聞きながら二人を見てると、かなり失礼なカンジ。集まって来たお客さんたちに背中を向けて、スマホで堂堂とサボっちゃってるみたいぃ」

 その指摘を最後に繰はまた沈黙。紡も深緋との会話を纏めにかかる。

「とにかく船を加宮へパスしたら自由にしていいから、それまでは深緋も堪えな」

「アイアイ……」

「それから動いても同じだよどうせ。尾脊がガチに邪魔してこようが、魔力を効果的に使える位置は決まってると言える上に、トラックをとり巻いてる観客に紛れて近寄るしかないのが幸いして、このグラウンドにいる三分の一くらいは、意識操作のレンジからハズレるんだしさ」

「そうなんだけどぉ。なんかどうにも、今だにパンテルが遠くにカンジられちゃってるのが、アタシを()けなベイビーにしてくれるの~。紡だってそうなんでしょ?」

「てか、あんた全然余裕じゃん。尾脊のカンジが遠いせいで意識をあんたにまで充分まわせないんだから、煩わすんじゃないよまったく」

「エヘ~。それじゃぁ紡、繰、カリ・ティーヒ。ゲート・オープンまで一〇〇秒をきったの」

 深緋は紡たちとの通話をきって、手早く気球チームにつながりなおす。
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登場人物紹介

とりあえず、業界関係者の間でバズるまではウザ苦しいくらい凝り詰めたモノをつくりまくるしかないよ



畔戸紡《くろと・つむぐ》設定⇒ 身長153㎝ コーヒーは香りが好きで飲んでいるだけ、こだわりがあるのも香りのみ 明察秋毫で流行するかも兆しである最先端情報から一目で見ぬく 何事もよく見えてしまうために一歩も二歩も退いたポジションで責任をのがれ、ヤル気のないことは一切しない 可能性がトントンだと、のちのち責任を問われる決断もしない 受けているストレスも多くシニカルにならざるを得ないキャラ


繰はつくれれば何でもいぃ、紡が選んで深緋が決めたんなら間違いないし~


来銷州繰《らけしす・りーる》設定⇒ 身長174㎝ 両利きの器用さがアダとなって混乱しがち マジメな善いコなので逆に自分がなくホンワカしちゃってるカンジ 隙だらけで親しくしてくれる者と疎む者とに二分してしまう難儀さがある 紡か深緋がノせないとヤレる気にならないためできないしできるとも思わない 表裏がない清純無垢と言うより善くも悪くも我欲なくスクスク育っちゃっているキャラ 

どんなデザインだろうがチョチョイなの、アタシのアルティメットな巧緻性で仕上げてくれるぅ


アトロポス・常上深緋《とこしなえ・ふかひ》設定⇒ 身長168㎝ 幼い頃に家出した父親を捜すために母親とチョクチョク海外暮らしを繰り返している サーヴィス精神が旺盛すぎて、絶えず笑いをとろうと基本的にフザケている ヤリたいことをヤリたいようにヤリまくるので、ヘタにかかわるとドップリ巻き込まれるウザクサいキャラ   

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