015 ゆ~るぃ分業制のポカはクリティカル
文字数 2,242文字
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放課後は、掃除当番からハズレてくれたために、三人はいっこかわ帰路を急ぐ。
繰が一言の難癖もつけらず無投票でクラス委員に認められ、紡と深緋も易易と皐月祭実行委員の任に就くこと自体は、目論見どおり叶ってはいるのだけれども……。
段取りの素っ飛ばしまではなかったものの、イニシアティヴだけはにぎり固めてしまえと、深緋が実行委員としての力量を見せつける狙いで、生若 な担任を爆笑連発でチョボクりまわした挙句に、≪女子ウケ必至のイケてるスーツを仕立てて担任を見違えさせてやるの!≫とまで高息を吐き散らしてしまっていた。
それも、一晩で縫いあげる口約の上、仕立て代まで仕上高払いでかまわないと独断で言い破っているため、紡も繰も、とにかく捻出できる金額で要件を満たせる服地が入手できるかに気がもめているという次第──。
市内だけでなく近隣まで足を延ばしても、片手の指ですら余る軒数しか店がないことが何よりの不安材料。ほぼジョギングに近い速足にならざるを得ない。
「チョット待つ、モ~繰まで速すぎなのっ。スーツの一着くらいチョチョイでしょうが、それも今の時季の服地なら、厚さ的にも手触り的にも一番扱い易いんだし」
「その服地が、これから手に入るかどうかが最大の難題なんじゃないのよぉ。いくら何でも今日スグは、無鉄砲撃ちまくりすぎ~」
「まったくだよ。仕立てるだけなら楽勝さ、だけど担任が実際に着用した姿からクラスの多数決で代金の支払いが決まるとなれば、焦らずにはいられないじゃん。二万って額でさえ厳しめなのに、ムダな骨折りなんかしてるヒマはないんだからねっ」
「なぁ~んだ、何をあたふたしちゃってるのかと思えば。服地なら繰んチにあるのがバッチリなの、繰のカカがお仕立て券付きでもらったまま、二年半以上クローゼットの隅に忘却し果ててるヤツ。あれを使っちゃわない手はないの、二万円も丸儲けだぜぃ」
「……あ~。言われれば、使えそうなのが確かにあったかも~。けど、よく憶えてたわよね、って言うかママのクローゼットにまで勝手に侵入してくれたわけぇ?」
「勝手ではなく責任感なの。以前にアタシたちがつくってあげたコたちが、なおざりにされてないかを確認するのは職責でしょ」
「エ~ッ……ただの屁理屈じゃないのそれぇ?」
「解釈の問題なのっ。朝でも夜でも休みの日でも、勝手に門を開けて不倫議員の敷地内へワサワサ取材に押しかけたって、職務だから記者やレポーターが不法侵入にならないのと一緒。どうせバレても激怒られるのは繰だし」
「何が解釈よぉ。でも完全に思い出したわっ、あの服地ならマジでバッチリ~。織り的にこの時節に合わせた何かを仕立てても、ママには色も風合いも堅苦しすぎちゃうけど、担任のスーツなら、かなりいい仕上がりになるんじゃなぁい?」
たちまち歩調を緩める繰に倣い、紡の歩きぶりにも一安堵が露呈していた。
「繰が頷くならイケそうじゃん。まったく、これがあるから深緋の奔放をビシバシできないんだよねぇ。けどいいわけ? きっと二万じゃ足りない服地でしょ」
「いいよ~全然。きっと深緋の言うとおり忘却の彼方にされてる一つで、気に入らないけどポイするのも勿体なくて仕舞いっぱなだけだもん。バレた時には、ちゃんと申し開いて二万円を差し出せば、受けとらずに納得もしちゃうから大丈夫~」
「頼もしい限りじゃん、繰は繰で豪放なお育ちでさ。やっぱ、両親がひっぱりダコの離婚弁護士と消化器外科医だと違うよねぇ」
「あらぁ。紡だって存外、粗放な家庭環境の影響でしょぉ? 矢尻ごまかな小ギレ者にまではネジくれきらずに~」
しっかりきり返すこと自体が珍しい繰なのに、珍しく紡の図星まで指してしまう。
「……ネジくれきれたらワタシ一人でやっていけたんじゃん? けどさ、ネジくれきれないお蔭か、せいなのか? 繰と深緋を危険に巻き込むことにもなるんだよね──走れ二人とも全速力! 深緋、繰のバッグを持ってやりなっ」
紡は駆け出しながら言いつけた。
「ななな何なの突然っ?」戸惑いながらも反射的に深緋は繰のバックを掻き攫 う。
「ダッシュは鬼ムリ~ッ、繰は超長距離タイプなのにぃ」
「必死こきなっ、角のコンヴィニまでだから。ゴメン気づけなくてさ、怪人フードマスクに待ち伏せされてた──」
「何だとぉ! ここはアタシに任せて先に行けっ。お供えなど要らんぞ二人とも、アタシの分まで黒毛和牛を堪能し倒しちゃってなの」
深緋は、急ストップの慣性を回れ右の踏ん張りで相殺し立ち止まる。
それを、深緋の声調や鳴らしたクツ音から感じ取った紡も走力を緩めてふり返りつつ「何を言ってんだよ深緋! 厄介をケーサツに押しつけられるチャンスじゃん、黙って走りなっ」と叱り散らすが、その時、繰までが縺れさせた足を回転に変えて回りだし、完全に走るのをやめてしまっていた。
よって、わずか五〇メートル足らずの逃走策にもかかわらず、早早の断念を余儀なくされるばかりか、紡は大急ぎで二人の位置まで引き返さなければならなくなる。
「あ~っ──」この繰の驚きが繰自身の回転を止める──「繰のバックまで武器にする気でしょ深緋? スマホが入ってるんだから絶対ダメっ、担任を採寸する代わりに撮った画像データがダメになっちゃうぅ」
「これだからパーはっ。スマホは肌身離さずもっとくモノなの、さすがのアタシだってバッグ一つだと、繰直伝の
「こんな時に何よそれ~?」
放課後は、掃除当番からハズレてくれたために、三人はいっこかわ帰路を急ぐ。
繰が一言の難癖もつけらず無投票でクラス委員に認められ、紡と深緋も易易と皐月祭実行委員の任に就くこと自体は、目論見どおり叶ってはいるのだけれども……。
段取りの素っ飛ばしまではなかったものの、イニシアティヴだけはにぎり固めてしまえと、深緋が実行委員としての力量を見せつける狙いで、
それも、一晩で縫いあげる口約の上、仕立て代まで仕上高払いでかまわないと独断で言い破っているため、紡も繰も、とにかく捻出できる金額で要件を満たせる服地が入手できるかに気がもめているという次第──。
市内だけでなく近隣まで足を延ばしても、片手の指ですら余る軒数しか店がないことが何よりの不安材料。ほぼジョギングに近い速足にならざるを得ない。
「チョット待つ、モ~繰まで速すぎなのっ。スーツの一着くらいチョチョイでしょうが、それも今の時季の服地なら、厚さ的にも手触り的にも一番扱い易いんだし」
「その服地が、これから手に入るかどうかが最大の難題なんじゃないのよぉ。いくら何でも今日スグは、無鉄砲撃ちまくりすぎ~」
「まったくだよ。仕立てるだけなら楽勝さ、だけど担任が実際に着用した姿からクラスの多数決で代金の支払いが決まるとなれば、焦らずにはいられないじゃん。二万って額でさえ厳しめなのに、ムダな骨折りなんかしてるヒマはないんだからねっ」
「なぁ~んだ、何をあたふたしちゃってるのかと思えば。服地なら繰んチにあるのがバッチリなの、繰のカカがお仕立て券付きでもらったまま、二年半以上クローゼットの隅に忘却し果ててるヤツ。あれを使っちゃわない手はないの、二万円も丸儲けだぜぃ」
「……あ~。言われれば、使えそうなのが確かにあったかも~。けど、よく憶えてたわよね、って言うかママのクローゼットにまで勝手に侵入してくれたわけぇ?」
「勝手ではなく責任感なの。以前にアタシたちがつくってあげたコたちが、なおざりにされてないかを確認するのは職責でしょ」
「エ~ッ……ただの屁理屈じゃないのそれぇ?」
「解釈の問題なのっ。朝でも夜でも休みの日でも、勝手に門を開けて不倫議員の敷地内へワサワサ取材に押しかけたって、職務だから記者やレポーターが不法侵入にならないのと一緒。どうせバレても激怒られるのは繰だし」
「何が解釈よぉ。でも完全に思い出したわっ、あの服地ならマジでバッチリ~。織り的にこの時節に合わせた何かを仕立てても、ママには色も風合いも堅苦しすぎちゃうけど、担任のスーツなら、かなりいい仕上がりになるんじゃなぁい?」
たちまち歩調を緩める繰に倣い、紡の歩きぶりにも一安堵が露呈していた。
「繰が頷くならイケそうじゃん。まったく、これがあるから深緋の奔放をビシバシできないんだよねぇ。けどいいわけ? きっと二万じゃ足りない服地でしょ」
「いいよ~全然。きっと深緋の言うとおり忘却の彼方にされてる一つで、気に入らないけどポイするのも勿体なくて仕舞いっぱなだけだもん。バレた時には、ちゃんと申し開いて二万円を差し出せば、受けとらずに納得もしちゃうから大丈夫~」
「頼もしい限りじゃん、繰は繰で豪放なお育ちでさ。やっぱ、両親がひっぱりダコの離婚弁護士と消化器外科医だと違うよねぇ」
「あらぁ。紡だって存外、粗放な家庭環境の影響でしょぉ? 矢尻ごまかな小ギレ者にまではネジくれきらずに~」
しっかりきり返すこと自体が珍しい繰なのに、珍しく紡の図星まで指してしまう。
「……ネジくれきれたらワタシ一人でやっていけたんじゃん? けどさ、ネジくれきれないお蔭か、せいなのか? 繰と深緋を危険に巻き込むことにもなるんだよね──走れ二人とも全速力! 深緋、繰のバッグを持ってやりなっ」
紡は駆け出しながら言いつけた。
「ななな何なの突然っ?」戸惑いながらも反射的に深緋は繰のバックを掻き
「ダッシュは鬼ムリ~ッ、繰は超長距離タイプなのにぃ」
「必死こきなっ、角のコンヴィニまでだから。ゴメン気づけなくてさ、怪人フードマスクに待ち伏せされてた──」
「何だとぉ! ここはアタシに任せて先に行けっ。お供えなど要らんぞ二人とも、アタシの分まで黒毛和牛を堪能し倒しちゃってなの」
深緋は、急ストップの慣性を回れ右の踏ん張りで相殺し立ち止まる。
それを、深緋の声調や鳴らしたクツ音から感じ取った紡も走力を緩めてふり返りつつ「何を言ってんだよ深緋! 厄介をケーサツに押しつけられるチャンスじゃん、黙って走りなっ」と叱り散らすが、その時、繰までが縺れさせた足を回転に変えて回りだし、完全に走るのをやめてしまっていた。
よって、わずか五〇メートル足らずの逃走策にもかかわらず、早早の断念を余儀なくされるばかりか、紡は大急ぎで二人の位置まで引き返さなければならなくなる。
「あ~っ──」この繰の驚きが繰自身の回転を止める──「繰のバックまで武器にする気でしょ深緋? スマホが入ってるんだから絶対ダメっ、担任を採寸する代わりに撮った画像データがダメになっちゃうぅ」
「これだからパーはっ。スマホは肌身離さずもっとくモノなの、さすがのアタシだってバッグ一つだと、繰直伝の
クルクル連打コノヤロコノヤロ攻撃
に死角ができちゃうでしょっ」「こんな時に何よそれ~?」