001 深緋! 不可避!! 浮花秘!!!
文字数 2,769文字
高校生活も二年目を終えて、三年目に向けた春休みも半ば。
本日もバイトからあがり、作業場がある雑居ビルの蛍光灯が物暗く照らす狭いエントランスを出た畔戸紡 と来銷州繰 の前に、アトロポス・常上深緋 が、ゆら~り立ち塞がるように現れた。
<紡‐イメージイラスト>
<繰‐イメージイラスト>
<深緋‐イメージイラスト>
「うわ! ……えぇっ深緋? 何でいるわけ、ブッ魂消るじゃんっ」
「やめてってばホントに~。繰は一瞬ゾンビかと思って、この世の終わりを嘆いちゃったじゃなぁい。帰国するんなら一言教えといてくれたらよかったのにぃ」
呑んだ息を吐き出すみたく率直な紡の物言いに、いつもどおりフォロー気味の言葉を添えた繰だった。
が、SNSで絶やすことなくやり取りはし続けていたものの、深緋とこうして直接対面するのも二年半ぶりなので、二人には至って当然の反応と言える。
「フフ~、そんな風にビックリさせようと思って。実は来月からガッコもまた一緒なの、リアルでもリアルによろしくねっ、お二人さん」
深緋は満面、喜びを込めて笑う。
けれども、相変わらず、ギリシャ系のメリハリが強すぎる目鼻立ちが顔に射す影を深くしてしまって、どうにもつくり笑いにしか見えない。
それには早 、紡も普段の調子をとり戻し、「マジにっ? オチャメすぎにもほどがあるでしょが!」と、当然ない人目など憚ることなく声高にツッコみを入れる。
「でしょ~」
「ウ~ン、でも帰って来る時期を間違えたんじゃん? ウチの制服、あんたの顔には全っ然っ似合わないよ。ワタシら純然たる現代日本の女子にすらそぐわない、時代錯誤的に古めかしいセーラー服だし」
「そうそう。繰たちの制服姿の画像を完全に忘れてるんだろうけど~、衣替えするまでは、深緋のはっきりした顔を余計に際立たせるだけだわきっと。ホント、どうせなら来年の今頃に帰ってくればよかったのにぃ」
繰も頻りに頷きながら言い足した。
「そんなことは全部ウチのカカに言うの。それにこの顔なら大丈夫。前髪垂らして大きめの眼鏡を掛けちゃえば、際立つ方向をネジ曲げられちゃうぅ」
ただちに頭をふり、長めのウェーヴィーヘアを前垂らしにして見せる深緋に、紡も繰もたじろぐ代わりに、深緋を置き去る感じで歩きだす。
「はいはい。ここは日本なんだからさ、時と場所を考えてやりな。あんたはリアルで薄暗いトコだと、リアルに迫力ありすぎ」
「それ、ほかでやったらリアルにダメッ、もう笑えない年齢だし。せめて、もっとぽっちゃりにならないとムリ~。繰、名前ド忘れしちゃったけど、そういう極ヤバな、TV画面から這い出て来るオバケがいたはずだしぃ」
歯に衣着せぬ紡と繰の窘 めに、「そうなのぉ? ワシントン州だってグロックG19で撃たれちゃうのにっ」と、深緋は本場仕込みのオーヴァーに両手を上げ広げるシュラッグポーズで応える。
「笑う価値なしのギャグも、ツッコんでもらえると思わないようにねっ」
「繰、ケロッグはトラさんが好きぃ」
「コーンフロスティですらないんかーい、って、今の日本はここまで壊滅レヴェルじゃないとダメなわけぇ?」
「わかったからさ、もうその辺にしときなって。レヴェルも何も、繰は昔から壊滅しっぱなしだよ」
「そぉよ深緋~、もう壊滅しようがない無敵な繰を、敵にまわそうなんて考えちゃダメなんだからぁ」
「って言うか、繰こそ画面越しに見るより細すぎなの。二年半で縦にしか伸びてないカンジ。対して紡はますます縮んじゃってるぅ。日本でも、やっぱりこの町って重力加速度の具合が異常なのかも」
二人へルルンと追い次ぎながら戯 らかし返す深緋だった。
「フン、あんたと繰の身長が異常に伸びてるだけじゃん? とにかくもう、リアルでも病んだ戯 れ言は厳禁だよ、それとヘタクソな英語でごまかすのもダメ。当然ギリシャ語なんか完全スルーだから」
「ならワタシだって、それを完全スルー返しだもんっ」
胸を張ってまで減口 を利く深緋には、紡も目を細めながらの呆れモードで口を酸っぱくし続ける。
「ったく。リアルに甘えられると思ったら大間違いだから。都合が悪くなっても、もうワンサイド落ちできないリアルの厳しさを思い知らせてくれよう」
「そうよぉ。郷に入ればゴーゴゴー、繰たちに従え~だもん」
「モォ~何なの二人して? 今日まで戻って来るのをひたひたと内緒にしてた苦労の甲斐が全然ないの。ビックリがその程度なら、もっと喜んでくれたらどうなのっ?」
「喜んで欲しけりゃ、驚かしすぎないことだね」
「繰は、もうチョットしてから、喜んでくるくる~なタイブだしぃ」
「な~んか、つまんないの。大体バイトしてるなんて一言も話題にしなかったでしょ、何やってるわけ? まだ一八時半すぎだっていうのに、こんな人けがなくなっちゃう如何 わしそうなトコでぇ」
「あぁ、気づかなかった? あんたが出てってから、ブチブチにつくられてた幹線道路がつながって、この町も賑わいが様変わりしたんだよ。通り一本違うだけで、こういう寂 れたカンジになるトコは、あちこちにできちゃっててさ」
「繰たちがやってるバイトは~、服の裾なおしやリフォームよ。毎日毎日ひたすら布地を痛めないよう糸をほどくだけの、それはもう如何わしい仕事なんだからぁ、わざわざネットで話題にできるわけないじゃなぁい」
紡と繰の返答に、小首を軽く傾げては戻しつつ刻みに頷く深緋だった。
「確かにね。ま、裾なおしやリフォームと言うには如何わしそうなの……けど、この辺は二年半前だって寂れてたの。知ってなければ、紡のカカに聞いただけで来られるわけがないぃ。アタシの他所者 あつかいだって厳禁なんだからっ」
「はいはい。一円でもほかに使いたいってのに、しょうがないね。一区切りつけるためにも、リアルな再会を祝して乾杯でもしとこっか」
そう紡が肯 うと、待っていたかのように繰がノっかる。
「ウンウンッ。チョット行った公園の入口広場にぃ、繰が最近ドハマりしてるホット・パブリノが入ってる自販機があるわよ~」
「何それ? 繰の好みじゃなくアタシが好きな飲み物にして。ラムネか梅ソーダがいいの、ホットなら、断然きな粉入りタンポポ茶っ」
「相も変わらない奴ぅ、アメリカ行ってた意味ないじゃん」
紡は、数歩ばかりだが、開きだした二人との距離など全く気にせずに路地へと曲がる。
「ウンウン。繰も嬉しいよぉ、深緋がミッキーにもバービーにもフォースのダークサイドにも毒されなくて~。ではでは繰が早速、繰たちの最新ブームを叩き込んであげちゃうぅ」
繰は驚きや喜びに先んじて込み上げてくる嬉しさから、歩調はそのままターンをクルクル入れだした。
繰の壊滅状態が本調子となった証拠と言える。
本日もバイトからあがり、作業場がある雑居ビルの蛍光灯が物暗く照らす狭いエントランスを出た
<紡‐イメージイラスト>
<繰‐イメージイラスト>
<深緋‐イメージイラスト>
「うわ! ……えぇっ深緋? 何でいるわけ、ブッ魂消るじゃんっ」
「やめてってばホントに~。繰は一瞬ゾンビかと思って、この世の終わりを嘆いちゃったじゃなぁい。帰国するんなら一言教えといてくれたらよかったのにぃ」
呑んだ息を吐き出すみたく率直な紡の物言いに、いつもどおりフォロー気味の言葉を添えた繰だった。
が、SNSで絶やすことなくやり取りはし続けていたものの、深緋とこうして直接対面するのも二年半ぶりなので、二人には至って当然の反応と言える。
「フフ~、そんな風にビックリさせようと思って。実は来月からガッコもまた一緒なの、リアルでもリアルによろしくねっ、お二人さん」
深緋は満面、喜びを込めて笑う。
けれども、相変わらず、ギリシャ系のメリハリが強すぎる目鼻立ちが顔に射す影を深くしてしまって、どうにもつくり笑いにしか見えない。
それには
「でしょ~」
「ウ~ン、でも帰って来る時期を間違えたんじゃん? ウチの制服、あんたの顔には全っ然っ似合わないよ。ワタシら純然たる現代日本の女子にすらそぐわない、時代錯誤的に古めかしいセーラー服だし」
「そうそう。繰たちの制服姿の画像を完全に忘れてるんだろうけど~、衣替えするまでは、深緋のはっきりした顔を余計に際立たせるだけだわきっと。ホント、どうせなら来年の今頃に帰ってくればよかったのにぃ」
繰も頻りに頷きながら言い足した。
「そんなことは全部ウチのカカに言うの。それにこの顔なら大丈夫。前髪垂らして大きめの眼鏡を掛けちゃえば、際立つ方向をネジ曲げられちゃうぅ」
ただちに頭をふり、長めのウェーヴィーヘアを前垂らしにして見せる深緋に、紡も繰もたじろぐ代わりに、深緋を置き去る感じで歩きだす。
「はいはい。ここは日本なんだからさ、時と場所を考えてやりな。あんたはリアルで薄暗いトコだと、リアルに迫力ありすぎ」
「それ、ほかでやったらリアルにダメッ、もう笑えない年齢だし。せめて、もっとぽっちゃりにならないとムリ~。繰、名前ド忘れしちゃったけど、そういう極ヤバな、TV画面から這い出て来るオバケがいたはずだしぃ」
歯に衣着せぬ紡と繰の
「笑う価値なしのギャグも、ツッコんでもらえると思わないようにねっ」
「繰、ケロッグはトラさんが好きぃ」
「コーンフロスティですらないんかーい、って、今の日本はここまで壊滅レヴェルじゃないとダメなわけぇ?」
「わかったからさ、もうその辺にしときなって。レヴェルも何も、繰は昔から壊滅しっぱなしだよ」
「そぉよ深緋~、もう壊滅しようがない無敵な繰を、敵にまわそうなんて考えちゃダメなんだからぁ」
「って言うか、繰こそ画面越しに見るより細すぎなの。二年半で縦にしか伸びてないカンジ。対して紡はますます縮んじゃってるぅ。日本でも、やっぱりこの町って重力加速度の具合が異常なのかも」
二人へルルンと追い次ぎながら
「フン、あんたと繰の身長が異常に伸びてるだけじゃん? とにかくもう、リアルでも病んだ
「ならワタシだって、それを完全スルー返しだもんっ」
胸を張ってまで
「ったく。リアルに甘えられると思ったら大間違いだから。都合が悪くなっても、もうワンサイド落ちできないリアルの厳しさを思い知らせてくれよう」
「そうよぉ。郷に入ればゴーゴゴー、繰たちに従え~だもん」
「モォ~何なの二人して? 今日まで戻って来るのをひたひたと内緒にしてた苦労の甲斐が全然ないの。ビックリがその程度なら、もっと喜んでくれたらどうなのっ?」
「喜んで欲しけりゃ、驚かしすぎないことだね」
「繰は、もうチョットしてから、喜んでくるくる~なタイブだしぃ」
「な~んか、つまんないの。大体バイトしてるなんて一言も話題にしなかったでしょ、何やってるわけ? まだ一八時半すぎだっていうのに、こんな人けがなくなっちゃう
「あぁ、気づかなかった? あんたが出てってから、ブチブチにつくられてた幹線道路がつながって、この町も賑わいが様変わりしたんだよ。通り一本違うだけで、こういう
「繰たちがやってるバイトは~、服の裾なおしやリフォームよ。毎日毎日ひたすら布地を痛めないよう糸をほどくだけの、それはもう如何わしい仕事なんだからぁ、わざわざネットで話題にできるわけないじゃなぁい」
紡と繰の返答に、小首を軽く傾げては戻しつつ刻みに頷く深緋だった。
「確かにね。ま、裾なおしやリフォームと言うには如何わしそうなの……けど、この辺は二年半前だって寂れてたの。知ってなければ、紡のカカに聞いただけで来られるわけがないぃ。アタシの
「はいはい。一円でもほかに使いたいってのに、しょうがないね。一区切りつけるためにも、リアルな再会を祝して乾杯でもしとこっか」
そう紡が
「ウンウンッ。チョット行った公園の入口広場にぃ、繰が最近ドハマりしてるホット・パブリノが入ってる自販機があるわよ~」
「何それ? 繰の好みじゃなくアタシが好きな飲み物にして。ラムネか梅ソーダがいいの、ホットなら、断然きな粉入りタンポポ茶っ」
「相も変わらない奴ぅ、アメリカ行ってた意味ないじゃん」
紡は、数歩ばかりだが、開きだした二人との距離など全く気にせずに路地へと曲がる。
「ウンウン。繰も嬉しいよぉ、深緋がミッキーにもバービーにもフォースのダークサイドにも毒されなくて~。ではでは繰が早速、繰たちの最新ブームを叩き込んであげちゃうぅ」
繰は驚きや喜びに先んじて込み上げてくる嬉しさから、歩調はそのままターンをクルクル入れだした。
繰の壊滅状態が本調子となった証拠と言える。