040 間の悪さって存在を軽くするよね
文字数 2,435文字
さらに繰は、ややつり上げ気味の目でもって嵩高 に訴える。
「ニャーさんまでぇ。繰のどこが鼻で笑えちゃうのか、ガチにわかってるわけ~っ」
──「ゴメン。──つい小ウケただけで、繰を嘲笑 ったわけではないんだ」
「ル~ッ。繰わかるんだからぁ、そんなチッポケなウケ方じゃなかったもん」
──「つまり、入れ替わりをされていそうな、その三人から聞き出せばいいってことかな? 入れ替わられていても、繰たちが近寄ればスグに戻すんだから、そこを同じ悩みで困っているとか、カマをかけてみるとかしてさ」
「ルョ~!」
またも回りだす繰だった、それも繰全力の高速回転……。
──繰が回り果てるまでの間に、紡と深緋は盛相へ問い諮 った上での修正も加え、サクッと挑発者を突き止める作戦を練りなおす。
あらためて繰を突撃隊長に任命し、明日から機を見て朔日松愛芽、素冠由々、大故小智の三人への再突撃を敢行することを、言 を俟 たず繰はほったらかしのまま深緋の一存で決議した。
──「よかったら、ここにある使えそうな物を自由にもって行ってかまわないよ。──ようやく荷ほどきを終えたはいいけど、これまでの、何もないガランとしたカンジの方が気に入っているんで、前の仕事やその関連でそろえた物から処分してしまうだろうし」
盛相は、深緋が興味を示し手にとっていたミラーレスカメラがあった位置から、纏めて置いてあるデジタル機器類を始め、開けっ放しの押し入れの中にとりあえず収納した物まで、室内を指でクルッと差し回す。
「処分するなら、全部アタシが預かるの。使う物はありがたく使わせてもらっちゃうし、使わない物はトリア・ファータの商品を出すついでに、フリマアプリで必要としてる人たちへバッチリ売りぬいてあげるぅ。まずは、あれをもってっていい?」
深緋が指差したのはミラーレスカメラではなく、盛相が仕事で使っていたペン型からAI翻訳機能付きまでのレコーダー各種、集音器やスマホ対応のBTヘッドセットなどをまとめていた部屋の一隅。
少し意外だったことから、盛相の首合点にはややヒネりが入る。
──「かまわないけど。──停学や退学なるような使い方は絶対にダメだからね」
「当たりき車力よ車引き。アリが十 ならイモムシャ二十歳 、ムカデ三十路 で嫁に行くなのっ」
玉響 、茫然としたのち正気づいたように盛相は指を動かす。──「絶対だよ。知らんけど」
「それじゃぁワタシは、深緋がチェックしてたそのミラーレス一眼を、動画撮影用のリグ(装備一式)ごと拝借するよ。サロン・ド・メの準備期間ならお咎めなしだから、クラスで既に何台ももち込まれてるしさ。ワタシたちもいろいろ撮って、ニャーさんにガッコの雰囲気を教えてあげようじゃん?」
──「それはどうも。趣味はないけど、興味はかなりあるかも」
「気をつけるのニャースカ、趣味はチョットした興味の歪みから、どこまでも変質していっちゃうんだから」
──「当たりき車力。──話を変えるけど、フリマアプリでふと思ったことがあるんだ」
「何ニャースカ?
──「いっそのことネットショップを開いてしまってはどうだろう? 名義ならオレのを使ってくれてかまわないし、サイトのデザインも機能面から見映え面は勿論、運営まで手を貸せる。EC事業方面でD2Cの仕事もしていたから」
「オォ~、それもオトナの発想なの。そうしようよ紡、ニャースカに社長の肩書きをあげちゃえば、繰んチの勘違いセレブ管理人どもも警戒心を緩めるぞ。商談と称して堂堂エントランスから入れちゃうぅ」
「……それは全然いいけどさ。ホントにいいのニャーさんは? 名ばかりの肩書きだけで、全然まだ社長に見合うような給料なんて払えないよ」
オトナしやかな目笑で、首を横にふる盛相だった。
──「給料も肩書きも要らないよ。でも任されるからには、やれる限りを全力でやらせてもらうし。──管理人の目をかい潜るのも、愉しくなってきていたんだけどな」
「ヤバいのニャースカ。早くも変質が窺えちゃってるぅ」
──「て言うか、オレなりの冗談だよ」
「わかってるの、アタシもおフザケをカブせただけ~。続けるなら、覚悟の上でかかってこいなのっ」
クソマジメな顔でチャランポランなファイティングポーズまでとって見せる深緋には、盛相も諸手 を挙げないまでも降参の上で、頭を抱えるしかない。
──「三人がつくる物はフリマやクラフト系サイトに出品すると、気安さからクォリティーがもつ本当の価値を逆に下げてしまいそうなんで、見合う販売形態を選んだ方がいいと思っただけなんだ。こまかいことをSNSで対応しているのなら、それはネットショップでかかる手間と同じだし」
「わかりました──」紡は承認してから腕を組んで、小首も傾ける──「その件はお任せするけど、ショップの代表者は名実ともにニャーさんでお願いします。ワタシたちも給料くらい出せるようガンバらなくちゃダメなんだしさ、なっ深緋?」
「アタシと繰は、いつでも全力フル回転でガンバってるの。紡がその気になりさえすれば、ニャースカのエサ代くらいスグでしょスグッ」
──「いや、金銭的なことは本当に心配要らないから。──皮肉にも、辞めた会社で半ば強引に契約させられていた保険が、かなり助けてくれるカンジだけれど、受けとるのに多少気が咎めるモノも合わせれば、三年くらい余裕で暮らせる額が入ってくるんだ」
「じゃぁ、三年後には社長に相応しいエサ代を出すの。だからニャースカ、三年先があるとガンバって信じて必死に生きぬくのだぞっ」
深緋は、盛相の背中をパシッとはたいた惰性に順じ、這い這いで音声レコーダーを物色しに向かう。
──「勿論、信じているけど、信じ続けないとな。三年後の生存が懸かるとなれば、当然オレも、今や既に常時が必死状態にあるわけだから」
そこで、縁起悪くも、回りウダっていた繰がヘナリ~ンと倒れ込んだ。
「ニャーさんまでぇ。繰のどこが鼻で笑えちゃうのか、ガチにわかってるわけ~っ」
──「ゴメン。──つい小ウケただけで、繰を
「ル~ッ。繰わかるんだからぁ、そんなチッポケなウケ方じゃなかったもん」
──「つまり、入れ替わりをされていそうな、その三人から聞き出せばいいってことかな? 入れ替わられていても、繰たちが近寄ればスグに戻すんだから、そこを同じ悩みで困っているとか、カマをかけてみるとかしてさ」
「ルョ~!」
またも回りだす繰だった、それも繰全力の高速回転……。
──繰が回り果てるまでの間に、紡と深緋は盛相へ問い
あらためて繰を突撃隊長に任命し、明日から機を見て朔日松愛芽、素冠由々、大故小智の三人への再突撃を敢行することを、
──「よかったら、ここにある使えそうな物を自由にもって行ってかまわないよ。──ようやく荷ほどきを終えたはいいけど、これまでの、何もないガランとしたカンジの方が気に入っているんで、前の仕事やその関連でそろえた物から処分してしまうだろうし」
盛相は、深緋が興味を示し手にとっていたミラーレスカメラがあった位置から、纏めて置いてあるデジタル機器類を始め、開けっ放しの押し入れの中にとりあえず収納した物まで、室内を指でクルッと差し回す。
「処分するなら、全部アタシが預かるの。使う物はありがたく使わせてもらっちゃうし、使わない物はトリア・ファータの商品を出すついでに、フリマアプリで必要としてる人たちへバッチリ売りぬいてあげるぅ。まずは、あれをもってっていい?」
深緋が指差したのはミラーレスカメラではなく、盛相が仕事で使っていたペン型からAI翻訳機能付きまでのレコーダー各種、集音器やスマホ対応のBTヘッドセットなどをまとめていた部屋の一隅。
少し意外だったことから、盛相の首合点にはややヒネりが入る。
──「かまわないけど。──停学や退学なるような使い方は絶対にダメだからね」
「当たりき車力よ車引き。アリが
「それじゃぁワタシは、深緋がチェックしてたそのミラーレス一眼を、動画撮影用のリグ(装備一式)ごと拝借するよ。サロン・ド・メの準備期間ならお咎めなしだから、クラスで既に何台ももち込まれてるしさ。ワタシたちもいろいろ撮って、ニャーさんにガッコの雰囲気を教えてあげようじゃん?」
──「それはどうも。趣味はないけど、興味はかなりあるかも」
「気をつけるのニャースカ、趣味はチョットした興味の歪みから、どこまでも変質していっちゃうんだから」
──「当たりき車力。──話を変えるけど、フリマアプリでふと思ったことがあるんだ」
「何ニャースカ?
ふと
なんて、聞かないわけにはいかないのっ」──「いっそのことネットショップを開いてしまってはどうだろう? 名義ならオレのを使ってくれてかまわないし、サイトのデザインも機能面から見映え面は勿論、運営まで手を貸せる。EC事業方面でD2Cの仕事もしていたから」
「オォ~、それもオトナの発想なの。そうしようよ紡、ニャースカに社長の肩書きをあげちゃえば、繰んチの勘違いセレブ管理人どもも警戒心を緩めるぞ。商談と称して堂堂エントランスから入れちゃうぅ」
「……それは全然いいけどさ。ホントにいいのニャーさんは? 名ばかりの肩書きだけで、全然まだ社長に見合うような給料なんて払えないよ」
オトナしやかな目笑で、首を横にふる盛相だった。
──「給料も肩書きも要らないよ。でも任されるからには、やれる限りを全力でやらせてもらうし。──管理人の目をかい潜るのも、愉しくなってきていたんだけどな」
「ヤバいのニャースカ。早くも変質が窺えちゃってるぅ」
──「て言うか、オレなりの冗談だよ」
「わかってるの、アタシもおフザケをカブせただけ~。続けるなら、覚悟の上でかかってこいなのっ」
クソマジメな顔でチャランポランなファイティングポーズまでとって見せる深緋には、盛相も
──「三人がつくる物はフリマやクラフト系サイトに出品すると、気安さからクォリティーがもつ本当の価値を逆に下げてしまいそうなんで、見合う販売形態を選んだ方がいいと思っただけなんだ。こまかいことをSNSで対応しているのなら、それはネットショップでかかる手間と同じだし」
「わかりました──」紡は承認してから腕を組んで、小首も傾ける──「その件はお任せするけど、ショップの代表者は名実ともにニャーさんでお願いします。ワタシたちも給料くらい出せるようガンバらなくちゃダメなんだしさ、なっ深緋?」
「アタシと繰は、いつでも全力フル回転でガンバってるの。紡がその気になりさえすれば、ニャースカのエサ代くらいスグでしょスグッ」
──「いや、金銭的なことは本当に心配要らないから。──皮肉にも、辞めた会社で半ば強引に契約させられていた保険が、かなり助けてくれるカンジだけれど、受けとるのに多少気が咎めるモノも合わせれば、三年くらい余裕で暮らせる額が入ってくるんだ」
「じゃぁ、三年後には社長に相応しいエサ代を出すの。だからニャースカ、三年先があるとガンバって信じて必死に生きぬくのだぞっ」
深緋は、盛相の背中をパシッとはたいた惰性に順じ、這い這いで音声レコーダーを物色しに向かう。
──「勿論、信じているけど、信じ続けないとな。三年後の生存が懸かるとなれば、当然オレも、今や既に常時が必死状態にあるわけだから」
そこで、縁起悪くも、回りウダっていた繰がヘナリ~ンと倒れ込んだ。