076 飄飄と魅かす ヒョウだけにねっ
文字数 2,421文字
その明は軽く片手を上げながら速やかに三人へと近づき、二言三言交わしてから入れ違うようにエントランスへ向かう。
≪全国屈指の難関学部進学率を誇る男子校生でなければ、女子からの人気が邪魔すぎて勉強どころじゃないんじゃないかな?≫などと思いながら明を見送る盛相は、駆け寄せて来た深緋に一気呵成とリアルへ引き戻される。
ヒネり向けていた体を戻し、居住まいまで正す盛相だった。
「聞いてよニャースカ、まんまとパンテルにしてやられちゃったのっ」
──「聞きたいから落ち着いて、とにかく座りなよ」
「それが、落ち着いてなんかいられない話なんだからぁ」
盛相には、テーブルの上に明が用意しストローまで刺してくれていた健康茶のブリックパックが目に入り、今度は自分がと深緋へ注文聞きをする──「何か飲むかい?」
「それは罰として繰に奢ってもらうの。同じクラス委員のクセして、イヤな予感すらしなかったんだよっ。そんなだから、必殺ワザをお見舞いする前にやられるの」
──「できるだけ、順を追って話してくれないかな? ──審査員特別賞だったことは、もう明くんから聞いたから、そうなった理由をオレにわかり易いように」
「その理由はさ、
「も~、目に入れても痛くなかったらどうしてくれよう、あのパーめがぁ」
物憂げに見せつつも深緋が繰よりも先に自販機前へと到着しそうな素直さで向かってくれたため、盛相も空かすことなく紡に問いなおす。
──「どう言うことかな? ──その、コスト意識の欠如が重大だとか?」
「審査されない分のコスは自腹もOKだけど、当然その金額は少ない方が好ましくてさ。上限もあって、それを超えたらコストを度外視してるアウト判定になるわけ」
──「それでアウト? どうして紡がいてそんなミスを? ──でも、審査員特別賞をもらえたわけだから、完全なアウトではなかったってこと?」
「あは……自腹額はさ、クラスの模擬店で今日の昼までにあげた利益を補填できるから、ウチのクラスのコスはそれを見込んだ費用をかけてたわけ。だから見込みどおり全く自腹は斬ってないことを示すために、昼過ぎに生徒会の会計が主導する実行委員会の部会へ、繰が遅れずに収支報告書を出しに行ったまでは問題なかったんだけど……」
実行委員会の会計部会室には、三年A組のクラス委員であり前生徒会で副会長だった大故小智がヘルプ要員を務めていた。
その急務による大故の代行者として三年A組の実行委員の一人が、サロン・ド・メの準備期間で仲好くなった素冠由々を伴い、収支報告書を提出に来ていたというわけだった。
そんな重大な事実を、繰が部会室で実際に大故と素冠の二人を目にしておきながら、忙しさのあまり全く気に留まらなかったことが致命的な大失態。
紡も、襲来があるとさえ思わず警戒する余裕もないことから怠っていた昼時分の間に、油断をついた尾脊が大故か素冠のどちらかと意識を入れ替え、三年D組の収支金額を大幅に上乗せして審査表原票の参考データ欄へ書き込んでいたという次第だった。
──「そんなチョロすぎる手口で? ──ホント、時既に遅しだな」
道理で、
「ホントだよねぇ。尾脊はもっと派手に、衆人環視の真っタダ中で仕掛けて来るとばっか思ってたもんだからさ。チョコチョコ魔力が近くにカンジられたのも、単なる本番前のジャブだろうって、我ながら完全にナメちゃってたんだよね」
──「そのチョコチョコの一つで、まんまと金額の改竄をされちゃったわけだ?」
「そ。もう、両手バンザイのアッパレなまでに裏をかかれちゃったわ~」
──「どうしてだろう? なんか紡っぽくない清清しさを感じるな。そう言ったのが繰なら、深緋でもまだわかるんだけど」
紡はクックと笑い入る。そんな中、繰がクルリ~ンとテーブルへ来着いた。
「だって、肉を斬らせて実をしっかりとれたからぁ。繰たちの狙いは最初から、審査員に呼ばれてたファッション業界の御意見番でもある方方に、実力を認めてもらうことだったでしょ。審査員特別賞が何よりの証拠だもん」
──「そう言う話ではあったけど、──イヤ、繰が凹んでいないなら、いいんだ全然」
「ゴメンねニャーさん。だけどぉ、チャンピオンの座はのがしても番組オファー数が爆発的に増えちゃう芸人さんみたいなカンジ~? とでも言うのかしらぁ」
着席する前に繰が一回りできたのは手ぶらゆえ。
紙コップの飲み物は三つとも、あとから来た深緋が危なげなく持っていた。
「パーが何をほざいてるっ。全てはアタシが審査員どもを足止めしてる間に、紡が審査の参考にしたコストと実際の収支の数字が違うことを見つけて、らしくもなく喚き散らして喰い下がったからだろうが」
「ほざいてるのはどっちよ~。金賞のクラスが発表されるのを待ちきれなくて、先に審査結果の確定を祈っちゃったのは誰っ? それで金額の転写ミスとして証明されたにもかかわらず、もう結果は変えようがないって、ガチガチな流れになったんじゃないのっ?」
「まぁ飲め、このアイスミルクティーをっ。自腹でも、アタシが運んで来たから間違いなく未知の乳脂肪成分チチデカクナールがアップしてるの」
「モォ~ッ! 繰をいつまでもオチョクリ詰るくらいならぁ、紡にも逆ツッコみを入れておくべきでしょっ。喰い下がるのをピッタンコとやめなければ、審査員の全員から慰めの言葉をもらえたかもなのに~。佐藤ギャルドンだけじゃなく、タエコ=ド・ブーゲンヴィルにも声をかけてもらいたかったぁ」
「あんなマイナー重鎮どもから慰められて喜んでたら、お先真っ暗なのっ」
≪全国屈指の難関学部進学率を誇る男子校生でなければ、女子からの人気が邪魔すぎて勉強どころじゃないんじゃないかな?≫などと思いながら明を見送る盛相は、駆け寄せて来た深緋に一気呵成とリアルへ引き戻される。
ヒネり向けていた体を戻し、居住まいまで正す盛相だった。
「聞いてよニャースカ、まんまとパンテルにしてやられちゃったのっ」
──「聞きたいから落ち着いて、とにかく座りなよ」
「それが、落ち着いてなんかいられない話なんだからぁ」
盛相には、テーブルの上に明が用意しストローまで刺してくれていた健康茶のブリックパックが目に入り、今度は自分がと深緋へ注文聞きをする──「何か飲むかい?」
「それは罰として繰に奢ってもらうの。同じクラス委員のクセして、イヤな予感すらしなかったんだよっ。そんなだから、必殺ワザをお見舞いする前にやられるの」
──「できるだけ、順を追って話してくれないかな? ──審査員特別賞だったことは、もう明くんから聞いたから、そうなった理由をオレにわかり易いように」
「その理由はさ、
収支報告書に基づく重大なコスト意識の欠如
だったんだよね──」言葉をはさんできたのは紡、テーブルに着きながら深緋に顎で指図もする──「奢らせたんだから、あんたも手伝って来な。繰が無事に三つも運べるはずがないじゃん?」「も~、目に入れても痛くなかったらどうしてくれよう、あのパーめがぁ」
物憂げに見せつつも深緋が繰よりも先に自販機前へと到着しそうな素直さで向かってくれたため、盛相も空かすことなく紡に問いなおす。
──「どう言うことかな? ──その、コスト意識の欠如が重大だとか?」
「審査されない分のコスは自腹もOKだけど、当然その金額は少ない方が好ましくてさ。上限もあって、それを超えたらコストを度外視してるアウト判定になるわけ」
──「それでアウト? どうして紡がいてそんなミスを? ──でも、審査員特別賞をもらえたわけだから、完全なアウトではなかったってこと?」
「あは……自腹額はさ、クラスの模擬店で今日の昼までにあげた利益を補填できるから、ウチのクラスのコスはそれを見込んだ費用をかけてたわけ。だから見込みどおり全く自腹は斬ってないことを示すために、昼過ぎに生徒会の会計が主導する実行委員会の部会へ、繰が遅れずに収支報告書を出しに行ったまでは問題なかったんだけど……」
実行委員会の会計部会室には、三年A組のクラス委員であり前生徒会で副会長だった大故小智がヘルプ要員を務めていた。
その急務による大故の代行者として三年A組の実行委員の一人が、サロン・ド・メの準備期間で仲好くなった素冠由々を伴い、収支報告書を提出に来ていたというわけだった。
そんな重大な事実を、繰が部会室で実際に大故と素冠の二人を目にしておきながら、忙しさのあまり全く気に留まらなかったことが致命的な大失態。
紡も、襲来があるとさえ思わず警戒する余裕もないことから怠っていた昼時分の間に、油断をついた尾脊が大故か素冠のどちらかと意識を入れ替え、三年D組の収支金額を大幅に上乗せして審査表原票の参考データ欄へ書き込んでいたという次第だった。
──「そんなチョロすぎる手口で? ──ホント、時既に遅しだな」
道理で、
もう近づかない
の一言を尾脊があっさり口にしたはずだと、盛相は低く唸りだす。「ホントだよねぇ。尾脊はもっと派手に、衆人環視の真っタダ中で仕掛けて来るとばっか思ってたもんだからさ。チョコチョコ魔力が近くにカンジられたのも、単なる本番前のジャブだろうって、我ながら完全にナメちゃってたんだよね」
──「そのチョコチョコの一つで、まんまと金額の改竄をされちゃったわけだ?」
「そ。もう、両手バンザイのアッパレなまでに裏をかかれちゃったわ~」
──「どうしてだろう? なんか紡っぽくない清清しさを感じるな。そう言ったのが繰なら、深緋でもまだわかるんだけど」
紡はクックと笑い入る。そんな中、繰がクルリ~ンとテーブルへ来着いた。
「だって、肉を斬らせて実をしっかりとれたからぁ。繰たちの狙いは最初から、審査員に呼ばれてたファッション業界の御意見番でもある方方に、実力を認めてもらうことだったでしょ。審査員特別賞が何よりの証拠だもん」
──「そう言う話ではあったけど、──イヤ、繰が凹んでいないなら、いいんだ全然」
「ゴメンねニャーさん。だけどぉ、チャンピオンの座はのがしても番組オファー数が爆発的に増えちゃう芸人さんみたいなカンジ~? とでも言うのかしらぁ」
着席する前に繰が一回りできたのは手ぶらゆえ。
紙コップの飲み物は三つとも、あとから来た深緋が危なげなく持っていた。
「パーが何をほざいてるっ。全てはアタシが審査員どもを足止めしてる間に、紡が審査の参考にしたコストと実際の収支の数字が違うことを見つけて、らしくもなく喚き散らして喰い下がったからだろうが」
「ほざいてるのはどっちよ~。金賞のクラスが発表されるのを待ちきれなくて、先に審査結果の確定を祈っちゃったのは誰っ? それで金額の転写ミスとして証明されたにもかかわらず、もう結果は変えようがないって、ガチガチな流れになったんじゃないのっ?」
「まぁ飲め、このアイスミルクティーをっ。自腹でも、アタシが運んで来たから間違いなく未知の乳脂肪成分チチデカクナールがアップしてるの」
「モォ~ッ! 繰をいつまでもオチョクリ詰るくらいならぁ、紡にも逆ツッコみを入れておくべきでしょっ。喰い下がるのをピッタンコとやめなければ、審査員の全員から慰めの言葉をもらえたかもなのに~。佐藤ギャルドンだけじゃなく、タエコ=ド・ブーゲンヴィルにも声をかけてもらいたかったぁ」
「あんなマイナー重鎮どもから慰められて喜んでたら、お先真っ暗なのっ」