023 アリはアリ 悪魔の証明とか関係プー
文字数 2,283文字
「ニャースカは? どして急いで引っ越して来ちゃったわけなの?」
盛相は頭 をする間に一思案、そして指を動かす。
──「これまで住んでいたマンションは五階から上は持家だから、加害者遺族と言うのも変だけど、そうスグには出られないはずだ。──亡くなった娘さんを弔う一方で、被害者のオレが同じ所にいるってのは、どうにも複雑だろうと思ってね」
「ン~確かにぃ。被害者の方が顔向けできない元気ピンピンな加害者遺族は複雑に違いないでしょうけど」
──「退院してから、オレ以上に無念さを損害賠償額のつり上げへとすり替えだした実家にも居づらくて。クルマで転転と過ごして部屋には帰っていなかったから、ちょうどよかったし」
「でもでも、被害者が気をまわす必要はないの、ニャースカはネコが好 すぎぃ」
──「だけど、オレも変に噂されたくないから。──どうしてオレがヴェランダへ出て上を見たのか? そんな偶然があり得るのか? 不幸中の幸いではなく、のぞき趣味なら、当然の報いじゃないかと囁かれていたようだし」
「ヴェランダでだったんだぁ? 結構高層のマンションなのに、直接外へ全身や顔を出せる窓があるはずないと思ってたの……ニャースカに当たったサッシも、大間口サイズなら事故発生率も破壊力も充分と言うより、不運じゃ済まない気がしちゃうぅ」
──「それもあってね。──マンションの四階以下は、オレと同世代の入居者が多い賃貸物件なんで、可笑しな都市伝説っぽく、疑惑が飛び火することを考えたら居た堪れないし」
「どうせなら、気をまわさずに、ニャースカも変な噂を広げ廻ってあげれば、もっと複雑怪奇になって愉しいのにぃ」
──「そうなんだよ。──ホント、こんがらせて愉しめるくらい奇っ怪な話でね。助けられた時、まともに話せなくなっていることにすら思い至れなくて、──かまわず喚き散らしたオレが悪いんだけど」
「……ガチに愉しそう。何て喚き散らしちゃったの?」
──「オレは、あの木幡美純の声も聞いた。一三階も離れていたから、おそらく心の、魂の叫びってヤツだ。──だからまだ寒いのにヴェランダへ出て、身を乗り出してまで見上げたりしちまったんだ」
「フ~ン。その時は何て聞こえたの?」
──「嫌だとか、助けてとか、──その程度しか憶えていないな。──それで、オレはあのコを突き落とした犯人が、まだ近くにいると思って訴えたんだ」
「……なら、いたのかも~」
──「唇がすっかりなくなっているから、まともに伝わるはずもない。──それを見聞きしていた野次馬たちの中に、オレがあのコに、ストーカー紛いの行為をしていたんだと受け取るゲスも多かっただけのことだな」
「けどその、アタシと同級生になるはずだった木幡美純は、事故死でしっかりケーサツに片づけられてるんでしょ?」
深緋はまた、シュッと音を愉しんでから水を飲む。
──「そう。事故発生時には、そのコの家族はそれぞれ別の部屋にいて、騒ぎになってから御近所さんに知らされるまで気づかなかったそうだし。──家族の誰かが突き落としたという疑いも、警察がしっかり晴らしているから」
「ガッコでも≪早くも受験ノイローゼからの限りなく自殺に近い事故≫って、ヒソヒソ愉しまれてただけだった。ちゃんと犯人がいるなら、もっと盛り上がってたはずなの」
──「遺書なんかも見つからなかったんだけどな。高校の同級生でも親しくなければそんなモノか、──つくづく人間ってヤツはくだらない。もうやめようこの話は、深緋たちまで愉しんでると思うとガッカリなんで」
「モォ~。ニャースカまで、くだらない人間の勝手な思い込みでガッカリしちゃダメッ。紡は愉しんでないし、繰は厭 わしがってたし、アタシもそのくらいじゃ全然愉しめないの」
──「まあ、そうだな。──ガッカリなんて、そんな風に思うこと自体が無意味だった」
「しかし、奇しくもアタシは奇を衒 って、ちゃんとしてない犯人がいるかも~って奇説を提唱してあげておいたの。だからニャースカは、大湯船に浸かった気分でいればヨイヨイ」
──「それが、──深緋たちの敵と思しき挑発者とやらと、同一人物かもしれないってことかい?」
「ウン。だけど人物かどうかは疑わしいから、ちゃんとしてない犯人と言ってるの。ちゃんとした人間に、そんな犯行は不可能でしょ」
──「その、ちゃんとしていないって、──ひょっとして、見た目は人間の姿形だけど、本当は人間じゃないと言う意味だったりするわけなのかな?」
「そんなカンジだけど、ここで縷縷 ~と言っておくの。さてニャースカ、アタシはちゃんとした人間? 繰はパーだからともかく、紡はどぉ?」
わずかな間だが、考え込だ末に盛相は答える。
──「なるほど。難しいね」
「はたまたニャースカ自身はどう?」
──「オレは人間だよ。──だって、オレには何のチカラもないし」
「死に損なうことができちゃったニャースカだって、既にアタシたち側の存在なの。アタシたちとも違うから、とりあえずバケネコと認定してるだけ~」
──「でも人間としか言いようがない。死に損なって顔を半分削ぎ剥かれようが、オレは、オレだと、自分のことだからよくわかるオレは無論のことだし、──深緋たちだって」
「アタシたちが? 何~」
──「見た目に反して紡はだいぶオトナくれているし、深緋もかなり戯 らけているけど、繰なんか身長が少し高いだけの典型的JKじゃないか。──人間じゃないなら何なんだ一体?」
ここに至って盛相がざっくばらりと呈した疑問に、深緋は、どこか殊更 に謎めかした微笑をただただ浮かべる。
盛相は
──「これまで住んでいたマンションは五階から上は持家だから、加害者遺族と言うのも変だけど、そうスグには出られないはずだ。──亡くなった娘さんを弔う一方で、被害者のオレが同じ所にいるってのは、どうにも複雑だろうと思ってね」
「ン~確かにぃ。被害者の方が顔向けできない元気ピンピンな加害者遺族は複雑に違いないでしょうけど」
──「退院してから、オレ以上に無念さを損害賠償額のつり上げへとすり替えだした実家にも居づらくて。クルマで転転と過ごして部屋には帰っていなかったから、ちょうどよかったし」
「でもでも、被害者が気をまわす必要はないの、ニャースカはネコが
──「だけど、オレも変に噂されたくないから。──どうしてオレがヴェランダへ出て上を見たのか? そんな偶然があり得るのか? 不幸中の幸いではなく、のぞき趣味なら、当然の報いじゃないかと囁かれていたようだし」
「ヴェランダでだったんだぁ? 結構高層のマンションなのに、直接外へ全身や顔を出せる窓があるはずないと思ってたの……ニャースカに当たったサッシも、大間口サイズなら事故発生率も破壊力も充分と言うより、不運じゃ済まない気がしちゃうぅ」
──「それもあってね。──マンションの四階以下は、オレと同世代の入居者が多い賃貸物件なんで、可笑しな都市伝説っぽく、疑惑が飛び火することを考えたら居た堪れないし」
「どうせなら、気をまわさずに、ニャースカも変な噂を広げ廻ってあげれば、もっと複雑怪奇になって愉しいのにぃ」
──「そうなんだよ。──ホント、こんがらせて愉しめるくらい奇っ怪な話でね。助けられた時、まともに話せなくなっていることにすら思い至れなくて、──かまわず喚き散らしたオレが悪いんだけど」
「……ガチに愉しそう。何て喚き散らしちゃったの?」
──「オレは、あの木幡美純の声も聞いた。一三階も離れていたから、おそらく心の、魂の叫びってヤツだ。──だからまだ寒いのにヴェランダへ出て、身を乗り出してまで見上げたりしちまったんだ」
「フ~ン。その時は何て聞こえたの?」
──「嫌だとか、助けてとか、──その程度しか憶えていないな。──それで、オレはあのコを突き落とした犯人が、まだ近くにいると思って訴えたんだ」
「……なら、いたのかも~」
──「唇がすっかりなくなっているから、まともに伝わるはずもない。──それを見聞きしていた野次馬たちの中に、オレがあのコに、ストーカー紛いの行為をしていたんだと受け取るゲスも多かっただけのことだな」
「けどその、アタシと同級生になるはずだった木幡美純は、事故死でしっかりケーサツに片づけられてるんでしょ?」
深緋はまた、シュッと音を愉しんでから水を飲む。
──「そう。事故発生時には、そのコの家族はそれぞれ別の部屋にいて、騒ぎになってから御近所さんに知らされるまで気づかなかったそうだし。──家族の誰かが突き落としたという疑いも、警察がしっかり晴らしているから」
「ガッコでも≪早くも受験ノイローゼからの限りなく自殺に近い事故≫って、ヒソヒソ愉しまれてただけだった。ちゃんと犯人がいるなら、もっと盛り上がってたはずなの」
──「遺書なんかも見つからなかったんだけどな。高校の同級生でも親しくなければそんなモノか、──つくづく人間ってヤツはくだらない。もうやめようこの話は、深緋たちまで愉しんでると思うとガッカリなんで」
「モォ~。ニャースカまで、くだらない人間の勝手な思い込みでガッカリしちゃダメッ。紡は愉しんでないし、繰は
──「まあ、そうだな。──ガッカリなんて、そんな風に思うこと自体が無意味だった」
「しかし、奇しくもアタシは奇を
──「それが、──深緋たちの敵と思しき挑発者とやらと、同一人物かもしれないってことかい?」
「ウン。だけど人物かどうかは疑わしいから、ちゃんとしてない犯人と言ってるの。ちゃんとした人間に、そんな犯行は不可能でしょ」
──「その、ちゃんとしていないって、──ひょっとして、見た目は人間の姿形だけど、本当は人間じゃないと言う意味だったりするわけなのかな?」
「そんなカンジだけど、ここで
わずかな間だが、考え込だ末に盛相は答える。
──「なるほど。難しいね」
「はたまたニャースカ自身はどう?」
──「オレは人間だよ。──だって、オレには何のチカラもないし」
「死に損なうことができちゃったニャースカだって、既にアタシたち側の存在なの。アタシたちとも違うから、とりあえずバケネコと認定してるだけ~」
──「でも人間としか言いようがない。死に損なって顔を半分削ぎ剥かれようが、オレは、オレだと、自分のことだからよくわかるオレは無論のことだし、──深緋たちだって」
「アタシたちが? 何~」
──「見た目に反して紡はだいぶオトナくれているし、深緋もかなり
ここに至って盛相がざっくばらりと呈した疑問に、深緋は、どこか