074 残酷勝負で天使に敵うわけないってば
文字数 2,334文字
軽く頭をふって気を取りなおした盛相は、甚 も神速 でスマホへ用件を入力。
──「では本題直入、オレはトリア・ファータの社長だとだけ言っておく。でも雇われなんでね、あの三人の仕事に関わる嫌がらせや妨害行為をされると困るんだ」
「社長って……そんなことを言っていたけれど、あなたがそうだったのっ?」
──「今後、絶対にしないと約束してくれなければ、してくれるまで、あんたを追い廻さなくてはならなくなる。──オレは不死身で不眠不休でも動けるから、あんたが意固地になるほど窮地に陥るだろうな」
「んだぁ? 帆照を追い廻すだとっ。ざけんな、くたばりやがれこのバケモンが!」
しかし、今回フッ飛んだのは丸剃り男の方だった。それも凄絶なまでに。
パーキングの金網フェンスに顔から突っ込み、気絶。
ゴーグル型サングラスをひしゃぎ割り、金網をメリ込ませて顔中に菱形を描いた格子模様を浮き立たせていた。
それをやったのは盛相ではなく、瞬間移動で飛んで来た瑠沙。
「……ども~。なんか、ハッチャケてるみたいじゃね麻未? いろんな意味で」
瑠沙は、尾脊たちを先に見つけ尾行して来たにすぎなかった。
尾脊が意識を自身へ戻したために、あくまでも自分と慈恵へのオトシマエとして手を出し、盛相に加勢した格好になっただけ。
「瑠沙……まさか本当にあっち側についた、と言うより、つけたわけ? だって相手は女神じゃないのよっ? 属性が違うのに何で、どうして、一体どうやって?」
「別にぃ、麻未が変にこだわりすぎなんじゃね? それにボクはただ稼ぎに来ただけだぜ」
瑠沙は、既に丸剃り男から掠め尽くしていたシルヴァーアクセの一つを、手玉にとって尾脊へ見せる。
「こだわりは瑠沙たちの方が強いでしょうが、起源が世界最古の宗教観だからって」
「チッチッ。ボクが言ってるのは、そっちのこだわりじゃないし」
「……あ、思い出したわっ。この男が木幡美純の巻き添えを喰った人なのね? 瑠沙がまた、太古からの伝承を試してみようと余計な手出しをして、そんなマスクをさせるハメになったものだから、せめてもの償いのつもり? この人から、あの三人へ取り入っていったわけねっ」
「ウワワッ! 何言ってんだ石頭ヒョウがっ。全然違うもんね、ボクらはもう守ってもらうために、麻未のシステムに合わせなくちゃならない生活はウンザリなだけ~」
そう言いっぱなしにして瑠沙は消えた。
一方、激烈な一蹴り一殴りであっても、単なる外的刺激の連続としか受容されなかった感触が、今や鈍痛となって苛みだしている盛相の中に湧き上がった疑問は、一指弾で群疑となって盛相を混乱の怒濤へ突き落とす。
……尾脊が口にかけた瑠沙のした
けれども、ジンジンと痺れまでともなうニブい痛みが混乱すらも邪魔をして、難儀な思考は一旦停止。
さらには完全なる諦念が爆発的に浮上してきて、混乱を盛相の意識の奥底へと沈め消していってくれる。
それでも、まだ念頭に残っていた尾脊との交渉を、盛相はとにかく再開させるしかなかったが、何よりそのためにここにいる事実へも思い至って、スマホをしっかり持ちなおす。
──「オレが言ったこと、約束してもらえるのかな? 仕事絡みでなければ、幾らでもチョッカイしてくれてかまわないと思うんだ。深緋は喜ぶし、繰も君の消息が知れて安心するし」
「何を言っているのよっ……」
──「尾脊さんの気が向きさえすれば、スグに仲好くやれるはずなんだ。──君の仕事をじっくり解析してみたから。他人のことまでよく考えられる性分なのは、よくわかっているし」
「……ムリ! 私は悪魔なのっ、あんなデタラメな三人なんてゴメンよ。あなたとの約束とか関係なく、もう近づかないわ。そこまでヒマじゃないしっ」
──「本当かい?」
「これまでの面倒をそっちで処理してくれるなら、あれこれとシステム構築して効率化を図らなくてもよくなるし、私も正直ウンザリ。知ったことじゃないわ、もうパンクに悪魔らしく生きているんだからっ」
──「ではそう言うことで、ヨロシクお願いするだけだな」
盛相は軽く息衝くと、チノパンのポケットからICレコーダーをとり出し、録音を止める。
それを尾脊へ差しつけて、言質をしっかり取ったことも知らしめた。
「最悪……きっとあなたみたいなのが天使なんだわっ。大体あのコたち、三位一体だからケンカ別れもできないだけ。一人ずつからデタラメにふりまわされて地獄を見続ければいいのよ、あなたなんかっ」
──「それがきっと、仲の好さや仲間の本質だとオレは思うようになったけどね」
「深意ありげに言おうがムダよっ。そうだわ畔戸紡に言っておいてよ、身の丈に合わないナマイキな胸は、今に煩わしいだけの重荷にしかならないんだからっ、てね」
ブーツのイカツいヒールを踏み鳴らして言い捨てると、尾脊はパーキング内へと歩きだす。それも、まだ絶え入ったままの丸剃り男には一瞥もくれずに。
そして尾脊は慣れきった一連の挙措 でクルマに乗り込み、凄まじく獰猛なエンジンサウンドとエキゾーストノートによる咆哮を上げて盛相を威嚇。
さらには無意味にタイヤも鳴らすパンキーなドライヴィングで、盛相の眼下をすりぬけて行った。
そんな調子で、無事に広い通りまで出られるのか? つい悪魔相手にまで心配をしている自分のお人好し加減に、盛相は嫌気が差してきてならない。
そう緊張感が完全に揺るいだ途端、感じられていた鈍痛も一気にシフトアップ。
激痛化して、蹴られ殴られた体のあちこちを虐 げだし盛相は蹲 らざるを得なくなる──。
遅ればせながら、丸剃り男と差し並んで動けなくなってしまう盛相だった。
──「では本題直入、オレはトリア・ファータの社長だとだけ言っておく。でも雇われなんでね、あの三人の仕事に関わる嫌がらせや妨害行為をされると困るんだ」
「社長って……そんなことを言っていたけれど、あなたがそうだったのっ?」
──「今後、絶対にしないと約束してくれなければ、してくれるまで、あんたを追い廻さなくてはならなくなる。──オレは不死身で不眠不休でも動けるから、あんたが意固地になるほど窮地に陥るだろうな」
「んだぁ? 帆照を追い廻すだとっ。ざけんな、くたばりやがれこのバケモンが!」
しかし、今回フッ飛んだのは丸剃り男の方だった。それも凄絶なまでに。
パーキングの金網フェンスに顔から突っ込み、気絶。
ゴーグル型サングラスをひしゃぎ割り、金網をメリ込ませて顔中に菱形を描いた格子模様を浮き立たせていた。
それをやったのは盛相ではなく、瞬間移動で飛んで来た瑠沙。
「……ども~。なんか、ハッチャケてるみたいじゃね麻未? いろんな意味で」
瑠沙は、尾脊たちを先に見つけ尾行して来たにすぎなかった。
尾脊が意識を自身へ戻したために、あくまでも自分と慈恵へのオトシマエとして手を出し、盛相に加勢した格好になっただけ。
「瑠沙……まさか本当にあっち側についた、と言うより、つけたわけ? だって相手は女神じゃないのよっ? 属性が違うのに何で、どうして、一体どうやって?」
「別にぃ、麻未が変にこだわりすぎなんじゃね? それにボクはただ稼ぎに来ただけだぜ」
瑠沙は、既に丸剃り男から掠め尽くしていたシルヴァーアクセの一つを、手玉にとって尾脊へ見せる。
「こだわりは瑠沙たちの方が強いでしょうが、起源が世界最古の宗教観だからって」
「チッチッ。ボクが言ってるのは、そっちのこだわりじゃないし」
「……あ、思い出したわっ。この男が木幡美純の巻き添えを喰った人なのね? 瑠沙がまた、太古からの伝承を試してみようと余計な手出しをして、そんなマスクをさせるハメになったものだから、せめてもの償いのつもり? この人から、あの三人へ取り入っていったわけねっ」
「ウワワッ! 何言ってんだ石頭ヒョウがっ。全然違うもんね、ボクらはもう守ってもらうために、麻未のシステムに合わせなくちゃならない生活はウンザリなだけ~」
そう言いっぱなしにして瑠沙は消えた。
一方、激烈な一蹴り一殴りであっても、単なる外的刺激の連続としか受容されなかった感触が、今や鈍痛となって苛みだしている盛相の中に湧き上がった疑問は、一指弾で群疑となって盛相を混乱の怒濤へ突き落とす。
……尾脊が口にかけた瑠沙のした
余計な手出し
や償い
とは、果たしてどう言うことなのか?けれども、ジンジンと痺れまでともなうニブい痛みが混乱すらも邪魔をして、難儀な思考は一旦停止。
さらには完全なる諦念が爆発的に浮上してきて、混乱を盛相の意識の奥底へと沈め消していってくれる。
それでも、まだ念頭に残っていた尾脊との交渉を、盛相はとにかく再開させるしかなかったが、何よりそのためにここにいる事実へも思い至って、スマホをしっかり持ちなおす。
──「オレが言ったこと、約束してもらえるのかな? 仕事絡みでなければ、幾らでもチョッカイしてくれてかまわないと思うんだ。深緋は喜ぶし、繰も君の消息が知れて安心するし」
「何を言っているのよっ……」
──「尾脊さんの気が向きさえすれば、スグに仲好くやれるはずなんだ。──君の仕事をじっくり解析してみたから。他人のことまでよく考えられる性分なのは、よくわかっているし」
「……ムリ! 私は悪魔なのっ、あんなデタラメな三人なんてゴメンよ。あなたとの約束とか関係なく、もう近づかないわ。そこまでヒマじゃないしっ」
──「本当かい?」
「これまでの面倒をそっちで処理してくれるなら、あれこれとシステム構築して効率化を図らなくてもよくなるし、私も正直ウンザリ。知ったことじゃないわ、もうパンクに悪魔らしく生きているんだからっ」
──「ではそう言うことで、ヨロシクお願いするだけだな」
盛相は軽く息衝くと、チノパンのポケットからICレコーダーをとり出し、録音を止める。
それを尾脊へ差しつけて、言質をしっかり取ったことも知らしめた。
「最悪……きっとあなたみたいなのが天使なんだわっ。大体あのコたち、三位一体だからケンカ別れもできないだけ。一人ずつからデタラメにふりまわされて地獄を見続ければいいのよ、あなたなんかっ」
──「それがきっと、仲の好さや仲間の本質だとオレは思うようになったけどね」
「深意ありげに言おうがムダよっ。そうだわ畔戸紡に言っておいてよ、身の丈に合わないナマイキな胸は、今に煩わしいだけの重荷にしかならないんだからっ、てね」
ブーツのイカツいヒールを踏み鳴らして言い捨てると、尾脊はパーキング内へと歩きだす。それも、まだ絶え入ったままの丸剃り男には一瞥もくれずに。
そして尾脊は慣れきった一連の
さらには無意味にタイヤも鳴らすパンキーなドライヴィングで、盛相の眼下をすりぬけて行った。
そんな調子で、無事に広い通りまで出られるのか? つい悪魔相手にまで心配をしている自分のお人好し加減に、盛相は嫌気が差してきてならない。
そう緊張感が完全に揺るいだ途端、感じられていた鈍痛も一気にシフトアップ。
激痛化して、蹴られ殴られた体のあちこちを
遅ればせながら、丸剃り男と差し並んで動けなくなってしまう盛相だった。