005 パー担当はクルクルと呼ばれています
文字数 2,497文字
▼ ▼ ▼
新学年の始業日を迎えた三人は、既に高校からのお知らせメールで同じクラスになることがわかっていることもあって、登校中の話題も、フリマサイトで売りきった自分たちの製品に関してが中心となっていた。
「それ、もう盛り上がり禁止ぃ。次ぎのデザインにはどれがグーかよりも、買いのがしたサイトユーザーたちからのリクエストに、どこまで応えるかを決めないと~。ここで疎かにしちゃったら、お得意さんなんてできないよぉ」
「おっと、繰がらしくもなく、パーっとワタシらを掌上に運 らすようなこと言いだしたぁ。天気予報は雨の心配ナシだったけど、ナポリタン味のガリガリ君がドシャ降るかもっ。これも深緋が戻った余燼 じゃん?」
「なら、応えてあげるユーザーはアタシがチョッキリと裁断するの。けど、オーダーにはどこまでも応えることにしなくちゃダメ、だから二人とも覚悟するようにっ」
深緋は、スグ右隣を歩く繰だけでなく、左隣で半歩先を行く紡へも、差し指をドビシッと向ける。
「はいはい。その前に、帰ったらスグ、そのお下がり制服の繕 くりをしなくちゃね。袖も肩裄 から長そうだしさ」
「ゴメンね~。繰たち、部活は一年の一学期も続かずに辞めちゃったから、先輩いなくってぇ。もう少し待てば、もっと程度が良いのを送ってくれるOGが現れてくれるかもだから」
「ま、それも日本へ戻って来ることをワタシたちに内緒にしてたバチだね。しっかり儲けが出るようになったら新調してあげるから、ガマンしな」
「ウンウン、送ってくれることを切に祈るの──」空に向けて勢い良く、薬指を立て加えたスリーピースサインを突き上げる深緋だった。
「……それはいいけどぉ、繰たち何の話をしてたんだっけ~?」
「そうだったのっ。でねでね、Tシャツにプリントする図柄とロゴのデザインなんだけど、これからの時期はTシャツだろうって言う、その案自体を変えるべきだとひらめいたわけなのアタシはっ」
「まぁね。さすがにTシャツを縫いあげるのは高くつくから、無地の既製品を買ってプリントだけをするしかないけどさ。それでも品質にこだわると儲けが出なくなるんで、できれば布地からつくれる物に越したことはないよ」
「儲からないと、次をつくる費用が出ない~。ひらめくも何も、案を変えられたらいいと思うくらい繰だってしてたよぉ」
「ウ~、またしてもアタシを見縊ってるの二人してっ。代案までひらめいたに決まってるでしょうが」
繰のお株を奪うように深緋がクルンと回って不平を訴えた。
「Vネックなら首まわりの仕上げを安あがりにしても製品にできる、ってのは却下だけど。この国ではトレンドが過ぎ去ったばっかだから、もうすんなりは売れないよ。Tシャツで、少しでもブランドロゴが広められればという狙いから遠退くじゃん」
「そうね~、今年はフツウの丸首が伸びたみたいなダルダルのUネックが推されてるもん。あれを手づくりするのも難儀だわぁ」
紡も繰も見縊ったつもりはないものの、コストや採算など三歩進めば忘却の彼方となる深緋には、フテりを見せるたびにきっちり見縊っておくに越したことはない。
それで深緋がムキになってくれれば、逆にこぐらからずに済む可能性も高められるというもの。
「だからTシャツ自体をやめるの。Tシャツ同様の気軽さと、肌触りと通気性と吸汗性と速乾性をもつ布地を使うことはやめないで、半袖のフワッとした──」
「おはよークルクル。急いでは来たんだけど、もう出たあとだって管理人さんから言われちゃって焦ったよぉ。チョット早すぎじゃない?」
ブレーキ音を鳴らして止めた自転車から、飛び降りるようにして繰と並び立ったのは、二年次に繰のクラスメイトだった一人。
「モニモニ~。どしたのしずくちゃん、繰に何か急用?」
「メッセージ見たから。近所の卒業生のが合いそうなんで制服もらったんだけど、今日渡すにしても早い方がいいんじゃないかって今朝起きてからグワ~ッと思って。でも、もう要らなかったりするのかなぁ?」
しずくは制服姿の深緋に目をやりつつ、持参の制服を仕舞い入れた紙袋を自転車の前カゴからとり出した。
その紙袋へ抱きつくように繰は受けとる。
「ありがと~。要る要る全然っ、深緋は活発発だから、一年間だけでも一着で足りるわけないもん」
「……そうなの? ならよかったけど」
「ウンウン。あ、こやつが当のアトロポス・常上深緋ねっ、ギリシャとイタリア系アメリカと日本の血が鬩 ぎ合ってるややこしい奴なの、迷惑な時は容赦なく知らん顔しちゃって~」
繰の紹介に与 った深緋が、ほぼ真顔ながら一応ニコやかに応じる。
「カリメーラ、日本では常上深緋でいいの。制服もエフファリストーなの、それに見るに見かねたら救いの手を差し伸べて。さもないと、この国自慢の重力波望遠鏡と量子コンピュータ‐システム群を、ささやかでも重大なダメージでオシャカにしてやるの」
ボストンタイプの太縁メガネと垂らした前髪で、顔容 を半分近く隠そうとしていながらも、後頭部ではうねりの入った長いアッシュグレーの髪を丁寧に纏められた深緋から、際離れさせないようにとの繰の配意を見て取るしずくだった。
「……な~る、だいぶややこしそう。私は佐久間敷 しずく、クラスは隣だけど体育や選択科目で一緒になったらよろしくね」
「ウンウン、どうぞよろしくなの。今のアタシの感謝の気持分のラッキーが、しずくに訪れることを祈ってるの」
今度はしっかりとニンマリ笑って見せる深緋に対し、その後ろで色添う紡の呆れ顔から「話は違うけど、あれから誰かに続報聞いた?」と、しずくは繰へ向けて話題を変えた。
「続報? って何のぉ」
「あの二人のお葬式が、家族だけでパパッと済まされちゃった理由とかよ」
「……誰ぇ二人って?」
「え~っ! 桶取と木幡だってば、大故小智のトリマキみたいだった。テストの成績トップテンが貼り出されるたび、クルクルに聞こえるように嫌味言ってたじゃないのよっ」
繰は両眼をクルンと回した一思案のあと、顔まで小さく円を描くように回す。
けれどもその表情は、やはり≪思い当たる節がまるでない~≫のまんま。
新学年の始業日を迎えた三人は、既に高校からのお知らせメールで同じクラスになることがわかっていることもあって、登校中の話題も、フリマサイトで売りきった自分たちの製品に関してが中心となっていた。
「それ、もう盛り上がり禁止ぃ。次ぎのデザインにはどれがグーかよりも、買いのがしたサイトユーザーたちからのリクエストに、どこまで応えるかを決めないと~。ここで疎かにしちゃったら、お得意さんなんてできないよぉ」
「おっと、繰がらしくもなく、パーっとワタシらを掌上に
「なら、応えてあげるユーザーはアタシがチョッキリと裁断するの。けど、オーダーにはどこまでも応えることにしなくちゃダメ、だから二人とも覚悟するようにっ」
深緋は、スグ右隣を歩く繰だけでなく、左隣で半歩先を行く紡へも、差し指をドビシッと向ける。
「はいはい。その前に、帰ったらスグ、そのお下がり制服の
「ゴメンね~。繰たち、部活は一年の一学期も続かずに辞めちゃったから、先輩いなくってぇ。もう少し待てば、もっと程度が良いのを送ってくれるOGが現れてくれるかもだから」
「ま、それも日本へ戻って来ることをワタシたちに内緒にしてたバチだね。しっかり儲けが出るようになったら新調してあげるから、ガマンしな」
「ウンウン、送ってくれることを切に祈るの──」空に向けて勢い良く、薬指を立て加えたスリーピースサインを突き上げる深緋だった。
「……それはいいけどぉ、繰たち何の話をしてたんだっけ~?」
「そうだったのっ。でねでね、Tシャツにプリントする図柄とロゴのデザインなんだけど、これからの時期はTシャツだろうって言う、その案自体を変えるべきだとひらめいたわけなのアタシはっ」
「まぁね。さすがにTシャツを縫いあげるのは高くつくから、無地の既製品を買ってプリントだけをするしかないけどさ。それでも品質にこだわると儲けが出なくなるんで、できれば布地からつくれる物に越したことはないよ」
「儲からないと、次をつくる費用が出ない~。ひらめくも何も、案を変えられたらいいと思うくらい繰だってしてたよぉ」
「ウ~、またしてもアタシを見縊ってるの二人してっ。代案までひらめいたに決まってるでしょうが」
繰のお株を奪うように深緋がクルンと回って不平を訴えた。
「Vネックなら首まわりの仕上げを安あがりにしても製品にできる、ってのは却下だけど。この国ではトレンドが過ぎ去ったばっかだから、もうすんなりは売れないよ。Tシャツで、少しでもブランドロゴが広められればという狙いから遠退くじゃん」
「そうね~、今年はフツウの丸首が伸びたみたいなダルダルのUネックが推されてるもん。あれを手づくりするのも難儀だわぁ」
紡も繰も見縊ったつもりはないものの、コストや採算など三歩進めば忘却の彼方となる深緋には、フテりを見せるたびにきっちり見縊っておくに越したことはない。
それで深緋がムキになってくれれば、逆にこぐらからずに済む可能性も高められるというもの。
「だからTシャツ自体をやめるの。Tシャツ同様の気軽さと、肌触りと通気性と吸汗性と速乾性をもつ布地を使うことはやめないで、半袖のフワッとした──」
「おはよークルクル。急いでは来たんだけど、もう出たあとだって管理人さんから言われちゃって焦ったよぉ。チョット早すぎじゃない?」
ブレーキ音を鳴らして止めた自転車から、飛び降りるようにして繰と並び立ったのは、二年次に繰のクラスメイトだった一人。
「モニモニ~。どしたのしずくちゃん、繰に何か急用?」
「メッセージ見たから。近所の卒業生のが合いそうなんで制服もらったんだけど、今日渡すにしても早い方がいいんじゃないかって今朝起きてからグワ~ッと思って。でも、もう要らなかったりするのかなぁ?」
しずくは制服姿の深緋に目をやりつつ、持参の制服を仕舞い入れた紙袋を自転車の前カゴからとり出した。
その紙袋へ抱きつくように繰は受けとる。
「ありがと~。要る要る全然っ、深緋は活発発だから、一年間だけでも一着で足りるわけないもん」
「……そうなの? ならよかったけど」
「ウンウン。あ、こやつが当のアトロポス・常上深緋ねっ、ギリシャとイタリア系アメリカと日本の血が
繰の紹介に
「カリメーラ、日本では常上深緋でいいの。制服もエフファリストーなの、それに見るに見かねたら救いの手を差し伸べて。さもないと、この国自慢の重力波望遠鏡と量子コンピュータ‐システム群を、ささやかでも重大なダメージでオシャカにしてやるの」
ボストンタイプの太縁メガネと垂らした前髪で、
「……な~る、だいぶややこしそう。私は
「ウンウン、どうぞよろしくなの。今のアタシの感謝の気持分のラッキーが、しずくに訪れることを祈ってるの」
今度はしっかりとニンマリ笑って見せる深緋に対し、その後ろで色添う紡の呆れ顔から「話は違うけど、あれから誰かに続報聞いた?」と、しずくは繰へ向けて話題を変えた。
「続報? って何のぉ」
「あの二人のお葬式が、家族だけでパパッと済まされちゃった理由とかよ」
「……誰ぇ二人って?」
「え~っ! 桶取と木幡だってば、大故小智のトリマキみたいだった。テストの成績トップテンが貼り出されるたび、クルクルに聞こえるように嫌味言ってたじゃないのよっ」
繰は両眼をクルンと回した一思案のあと、顔まで小さく円を描くように回す。
けれどもその表情は、やはり≪思い当たる節がまるでない~≫のまんま。