第四十三話 ねこねこワンダーランド
文字数 2,081文字
ホテルのチェックインを済ませて荷物を部屋に置き、二人は目的のテーマパークへと向かうべく外へ出た。
鍵はカードキータイプのオートロックとなっており、そのカードキーはフロントに預けている。
「ねこねこワンダーランド……」
ぽつり、と声を洩らしたのは結羽だった。
ホテルから歩いて十五分ほどの所にある遊園地。
そこら中に猫をモチーフとしたアトラクションが点在している。
一番初めに視線が捉えるのは、やはり観覧車だろう。
パステルカラーで彩られた可愛いアトラクション。
夜にはテーマパーク全体がライトアップされて、そこから見下ろす様は絶景だと言う。
移動途中は殆ど眠っていた結羽だが、恭介と手を繋いで少し急ぎ足になっている。
余程楽しみだったのだろうか、と恭介は疑問視しながら相手に手を引かれる形でねこねこワンダーランドへ向かった。
そういえば、相手と一緒にいる時間が長いにも拘らず、好みといえばダンスをすること、好きな食べ物がプリンなどの甘いスイーツということしか把握していなかったことに気付く。
「好きなのか?」
「えっ……別に……」
考える前に口を吐いた疑問に、相手の肩が小さく跳ねて消え入りそうな声で素っ気ない言葉を洩らした。
深い意味はなく、単に相手の好みを知ろうとして出た言葉だったが、結羽は白い頬をうっすら紅に染めて視線を逸らすだけで胸の内は教えてはくれない。
しかし、その表情が答えとなって恭介に伝わった。
好きという気持ちがひしひしと感じられ、とても楽しみにしてくれているのがわかる。
「お前らしいな」
「は? 意味不明」
まともな答えを返さなかったにも拘わらず何故か穏やかな表情を浮かべる恭介に、悪態を吐きながらも繋ぐ手を引くようにして先を急ごうとする相手。
照れ隠しに憎まれ口を叩かれても、愛しい相手であれば可愛いものだ。
そう思いながら、恭介は手を引かれるままにねこねこワンダーランドへと向かった。
少し離れた後方から、あのカップルも同じ目的地へ向かってきているということには気付いていない。
────────
「お、まだ開園時間前だな」
ねこねこワンダーランドの駐車場を抜けると、広い入場口を閉じる門の前には十数人が待っているのが見えた。
二人はその後ろで立ち止まり、他の人と共に門が開くのを待つ。
「恭介、最初はお土産屋さんから」
「ん? あぁ、わかった」
唐突に提案されるも、こうしたテーマパークに来ることがない恭介は、どういった流れで動くのがいいかわからず頷くことしか出来なかった。
しかし、相手の横顔は嬉しそうに緩んでいる。
そんな様子を見つめながら、ここを廻る主導権は相手に持って貰うのが賢明だと思いつく恭介だった。
暫くして、場内に明るい音楽が流れ始めた。
開園時間がもうすぐそこまで来ているらしい。
門を見つめていると、係員が門の鍵を手動で開けていく。
そうして、今度はアナウンスが流れ始めた。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。ねこねこワンダーランドへようこそ! 可愛い猫ちゃんの世界を、心行くまでお楽しみ下さい!」
明るい女性の声が、各所に設置されたスピーカーから響き渡り、同時に門が自動的にゆっくりと開いていく。
「恭介、行こ」
短く紡がれた誘いの言葉に頷き、門の奥で一日券を切って貰うと、二人は一日券用のケースが付いたリストバンドを手首に着け、手を繋いで園内へと入って行った。
一歩踏み込めば、そこはパステルに彩られたメルヘンな世界が広がっている。
「……スゲェな」
現実離れした光景に、思わず呟いてしまった。
観覧車はもとより、ジェットコースターやメリーゴーランド、コーヒーカップなど、誰もが一度は目にしたことのあるアトラクションが沢山ある。
実際に目にするのが初めての恭介は、つい足を止めて辺りを見渡した。
驚きに満ちたその様子を、手を繋いだままの相手が暫く見つめて、ふふっと笑みを洩らす。
「恭介、遊園地初めてだっけ?」
「あぁ、初めてだ」
幼い頃から育児放棄気味だった両親は、遊びになど連れ出してはくれなかった。
自分の遊び相手は、いつも結羽だったから。
「…………」
過去の記憶が嫌でも脳裏に蘇ってしまい、恭介の表情が少し翳った。
見兼ねた結羽は、黙って繋ぐ手をぎゅっと強めに握り返した。
気付いて恭介の視線が向くと、顔が背けられてしまう。
「それって、俺と一緒が、初めてってことでしょ? ……最高じゃない?」
顔すら向けてくれない相手が紡いだ、精一杯の励ましの言葉だった。
──……ごめん。
相手が来たがっていた場所に来て憂鬱な気持ちになってしまったことを心の中で詫びて、恭介も改めて手を握り返す。
「……そうだな、最高だ」
そう答えると、綺麗な赤い瞳がチラッと恭介を見遣って、優しく細められた。
「ん……お土産屋さん、行こ」
促す言葉に頷いて、手を引かれるままに土産店へと向かう。
目的の店へ入ると、そこには様々な猫のお土産が所狭しと並んでいた。
遊園地に入場して間もないところだが、恭介は、早くもここで結羽に振り回されることとなる。
鍵はカードキータイプのオートロックとなっており、そのカードキーはフロントに預けている。
「ねこねこワンダーランド……」
ぽつり、と声を洩らしたのは結羽だった。
ホテルから歩いて十五分ほどの所にある遊園地。
そこら中に猫をモチーフとしたアトラクションが点在している。
一番初めに視線が捉えるのは、やはり観覧車だろう。
パステルカラーで彩られた可愛いアトラクション。
夜にはテーマパーク全体がライトアップされて、そこから見下ろす様は絶景だと言う。
移動途中は殆ど眠っていた結羽だが、恭介と手を繋いで少し急ぎ足になっている。
余程楽しみだったのだろうか、と恭介は疑問視しながら相手に手を引かれる形でねこねこワンダーランドへ向かった。
そういえば、相手と一緒にいる時間が長いにも拘らず、好みといえばダンスをすること、好きな食べ物がプリンなどの甘いスイーツということしか把握していなかったことに気付く。
「好きなのか?」
「えっ……別に……」
考える前に口を吐いた疑問に、相手の肩が小さく跳ねて消え入りそうな声で素っ気ない言葉を洩らした。
深い意味はなく、単に相手の好みを知ろうとして出た言葉だったが、結羽は白い頬をうっすら紅に染めて視線を逸らすだけで胸の内は教えてはくれない。
しかし、その表情が答えとなって恭介に伝わった。
好きという気持ちがひしひしと感じられ、とても楽しみにしてくれているのがわかる。
「お前らしいな」
「は? 意味不明」
まともな答えを返さなかったにも拘わらず何故か穏やかな表情を浮かべる恭介に、悪態を吐きながらも繋ぐ手を引くようにして先を急ごうとする相手。
照れ隠しに憎まれ口を叩かれても、愛しい相手であれば可愛いものだ。
そう思いながら、恭介は手を引かれるままにねこねこワンダーランドへと向かった。
少し離れた後方から、あのカップルも同じ目的地へ向かってきているということには気付いていない。
────────
「お、まだ開園時間前だな」
ねこねこワンダーランドの駐車場を抜けると、広い入場口を閉じる門の前には十数人が待っているのが見えた。
二人はその後ろで立ち止まり、他の人と共に門が開くのを待つ。
「恭介、最初はお土産屋さんから」
「ん? あぁ、わかった」
唐突に提案されるも、こうしたテーマパークに来ることがない恭介は、どういった流れで動くのがいいかわからず頷くことしか出来なかった。
しかし、相手の横顔は嬉しそうに緩んでいる。
そんな様子を見つめながら、ここを廻る主導権は相手に持って貰うのが賢明だと思いつく恭介だった。
暫くして、場内に明るい音楽が流れ始めた。
開園時間がもうすぐそこまで来ているらしい。
門を見つめていると、係員が門の鍵を手動で開けていく。
そうして、今度はアナウンスが流れ始めた。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。ねこねこワンダーランドへようこそ! 可愛い猫ちゃんの世界を、心行くまでお楽しみ下さい!」
明るい女性の声が、各所に設置されたスピーカーから響き渡り、同時に門が自動的にゆっくりと開いていく。
「恭介、行こ」
短く紡がれた誘いの言葉に頷き、門の奥で一日券を切って貰うと、二人は一日券用のケースが付いたリストバンドを手首に着け、手を繋いで園内へと入って行った。
一歩踏み込めば、そこはパステルに彩られたメルヘンな世界が広がっている。
「……スゲェな」
現実離れした光景に、思わず呟いてしまった。
観覧車はもとより、ジェットコースターやメリーゴーランド、コーヒーカップなど、誰もが一度は目にしたことのあるアトラクションが沢山ある。
実際に目にするのが初めての恭介は、つい足を止めて辺りを見渡した。
驚きに満ちたその様子を、手を繋いだままの相手が暫く見つめて、ふふっと笑みを洩らす。
「恭介、遊園地初めてだっけ?」
「あぁ、初めてだ」
幼い頃から育児放棄気味だった両親は、遊びになど連れ出してはくれなかった。
自分の遊び相手は、いつも結羽だったから。
「…………」
過去の記憶が嫌でも脳裏に蘇ってしまい、恭介の表情が少し翳った。
見兼ねた結羽は、黙って繋ぐ手をぎゅっと強めに握り返した。
気付いて恭介の視線が向くと、顔が背けられてしまう。
「それって、俺と一緒が、初めてってことでしょ? ……最高じゃない?」
顔すら向けてくれない相手が紡いだ、精一杯の励ましの言葉だった。
──……ごめん。
相手が来たがっていた場所に来て憂鬱な気持ちになってしまったことを心の中で詫びて、恭介も改めて手を握り返す。
「……そうだな、最高だ」
そう答えると、綺麗な赤い瞳がチラッと恭介を見遣って、優しく細められた。
「ん……お土産屋さん、行こ」
促す言葉に頷いて、手を引かれるままに土産店へと向かう。
目的の店へ入ると、そこには様々な猫のお土産が所狭しと並んでいた。
遊園地に入場して間もないところだが、恭介は、早くもここで結羽に振り回されることとなる。