第二話 友人からの着信
文字数 1,756文字
徒歩二十分程度で一人暮らしの自宅アパートへ到着した。
玄関の鍵を開けて中に入ると手洗いうがいを済ませ、適当に冷蔵庫を漁る。
昨日作った残り物であるかぼちゃの煮物。それが入った深皿を取り出して電子レンジにかけ、炊飯器で炊いた白米を茶碗へ盛り、出来合いの簡単な食事をリビングテーブルに用意して、テレビをつける。
一人暮らし故、淡々と食事が進む。
バックグラウンドミュージック代わりのニュースは、面白味のない事件が毎日のように放送されている。進展のない事件を、毎回似たような内容で繰り返している。
食事が終われば、少し休憩した後にテレビを消してシャワーを浴びる。
毎日繰り返してきた生活。
慣れれば何とも思わない。
食事を終え、暫くテレビを眺めてから、いざシャワーを浴びようとテレビの電源を落としたところだった。
「……?」
スマートフォンのバイブレーションが、テーブルの下で響いている。
珍しいな、と思いつつ画面を確認すると、そこには『西岐 』の文字が。
西岐智哉 。同じクラスの男子生徒で、結羽の通うダンススクールのすぐ近くに住んでいる。
明るく髪を染めてピアスを開け、恭介とは相反するようなノリの軽い性格。連絡先交換も西岐から声を掛けられた。
「……もしもし?」
いきなりなんなのかと訝しむように着信を受ける。
相手側の遠くが、何やら騒がしい。サイレンのような音も聞こえる。少し雑音も混じっている気がした。
「一乃瀬か! お前、すぐ来いよ! 園原が!」
焦りを顕に西岐が言うと、途端に通話が切れた。
電波の影響なのだろうか。
わけがわからないまま、恭介はスマートフォンを片手に部屋を飛び出していた。
鍵を掛けたかどうかも覚えていない。
ただ、結羽に何かあったのではないかという、考えたくもない考えが思考を埋め尽くして、恭介を焦らせる。
駆け足だった速度は、いつしか全速力に変わっていた。
───────
午後八時を回ろうとしていた。
空には依然として暗い雲が広がっている。
現場は、ダンススクールのすぐ側にある、片側二車線の大きな交差点。救急車やパトカー、消防車のパトランプが辺りを騒がしく照らしている。そこで何があったのかを考える余裕すら与えて貰えない程の騒がしさだ。
既に大量の野次馬が集まって恭介の行く手を遮り、状況を飲み込む前に足を止めざるを得なくなった。
救急隊員や警察官が忙しなく動く様子を少し遠目で見つめていたが、交差点の中に、ひしゃげて黒く焦げた、元は車だったであろう焼け跡を見つけた。
「……まさか」
「一乃瀬!」
あれは、結羽の父親が普段運転している車では無いのか、と心の声が口をつきそうになったが、西岐の声が耳に届き、その先を飲み込んだ。
電話を掛けてきた本人に振り返って相手の肩を掴む。
「西岐、結羽に何があったんだ?」
「あの車見たろ? 巻き込まれたらしい」
「……は?」
西岐の言葉に、恭介の眉が釣り上がり、眉間にシワが刻まれる。
今の時間は、まだレッスン中のはず。ダンススクールに被害がないところを見ると、事故に遭っているのはおかしいことだ。
「俺が気付いた時にはもう園原が車の近くに居たんだよ。あの焼けた車が親父さんの車で、赤信号で止まってるところに後ろから追突されてんだってさ。そこで青信号だった左右から追突されて、火が出て、いきなり爆発して、その爆発に園原が……っておい! 一乃瀬!」
結羽が、爆発に巻き込まれた。
そんなの、ただで済むはずがない。
恭介はもはや平常心を失っていた。
西岐の言葉を最後まで聞くことが出来ず、救急車の傍に居た救急隊員に掴みかかった。
非現実的な恐怖が現実味を帯びると、その場にいるのが怖くなってしまうらしい。
「結羽は、結羽はどこにいる!?」
「えっと……ゆう、さんですか?」
「園原だ! 園原結羽! 事故車両の爆発に巻き込まれたって聞いたぞ! 俺は、クラスメイトで幼馴染の一乃瀬恭介だ! 教えてくれ!」
そう。事故現場にも救急車の付近にも、結羽の姿が見当たらない。その事実が恭介の不安に拍車を掛けていた。
切羽詰まった恭介を落ち着けようと思ったのか、救急隊員は両手でしっかりと肩を掴み、真剣な眼差しを恭介の瞳へと向ける。
「その方でしたら、先程病院へ救急搬送されました」
玄関の鍵を開けて中に入ると手洗いうがいを済ませ、適当に冷蔵庫を漁る。
昨日作った残り物であるかぼちゃの煮物。それが入った深皿を取り出して電子レンジにかけ、炊飯器で炊いた白米を茶碗へ盛り、出来合いの簡単な食事をリビングテーブルに用意して、テレビをつける。
一人暮らし故、淡々と食事が進む。
バックグラウンドミュージック代わりのニュースは、面白味のない事件が毎日のように放送されている。進展のない事件を、毎回似たような内容で繰り返している。
食事が終われば、少し休憩した後にテレビを消してシャワーを浴びる。
毎日繰り返してきた生活。
慣れれば何とも思わない。
食事を終え、暫くテレビを眺めてから、いざシャワーを浴びようとテレビの電源を落としたところだった。
「……?」
スマートフォンのバイブレーションが、テーブルの下で響いている。
珍しいな、と思いつつ画面を確認すると、そこには『
西岐
明るく髪を染めてピアスを開け、恭介とは相反するようなノリの軽い性格。連絡先交換も西岐から声を掛けられた。
「……もしもし?」
いきなりなんなのかと訝しむように着信を受ける。
相手側の遠くが、何やら騒がしい。サイレンのような音も聞こえる。少し雑音も混じっている気がした。
「一乃瀬か! お前、すぐ来いよ! 園原が!」
焦りを顕に西岐が言うと、途端に通話が切れた。
電波の影響なのだろうか。
わけがわからないまま、恭介はスマートフォンを片手に部屋を飛び出していた。
鍵を掛けたかどうかも覚えていない。
ただ、結羽に何かあったのではないかという、考えたくもない考えが思考を埋め尽くして、恭介を焦らせる。
駆け足だった速度は、いつしか全速力に変わっていた。
───────
午後八時を回ろうとしていた。
空には依然として暗い雲が広がっている。
現場は、ダンススクールのすぐ側にある、片側二車線の大きな交差点。救急車やパトカー、消防車のパトランプが辺りを騒がしく照らしている。そこで何があったのかを考える余裕すら与えて貰えない程の騒がしさだ。
既に大量の野次馬が集まって恭介の行く手を遮り、状況を飲み込む前に足を止めざるを得なくなった。
救急隊員や警察官が忙しなく動く様子を少し遠目で見つめていたが、交差点の中に、ひしゃげて黒く焦げた、元は車だったであろう焼け跡を見つけた。
「……まさか」
「一乃瀬!」
あれは、結羽の父親が普段運転している車では無いのか、と心の声が口をつきそうになったが、西岐の声が耳に届き、その先を飲み込んだ。
電話を掛けてきた本人に振り返って相手の肩を掴む。
「西岐、結羽に何があったんだ?」
「あの車見たろ? 巻き込まれたらしい」
「……は?」
西岐の言葉に、恭介の眉が釣り上がり、眉間にシワが刻まれる。
今の時間は、まだレッスン中のはず。ダンススクールに被害がないところを見ると、事故に遭っているのはおかしいことだ。
「俺が気付いた時にはもう園原が車の近くに居たんだよ。あの焼けた車が親父さんの車で、赤信号で止まってるところに後ろから追突されてんだってさ。そこで青信号だった左右から追突されて、火が出て、いきなり爆発して、その爆発に園原が……っておい! 一乃瀬!」
結羽が、爆発に巻き込まれた。
そんなの、ただで済むはずがない。
恭介はもはや平常心を失っていた。
西岐の言葉を最後まで聞くことが出来ず、救急車の傍に居た救急隊員に掴みかかった。
非現実的な恐怖が現実味を帯びると、その場にいるのが怖くなってしまうらしい。
「結羽は、結羽はどこにいる!?」
「えっと……ゆう、さんですか?」
「園原だ! 園原結羽! 事故車両の爆発に巻き込まれたって聞いたぞ! 俺は、クラスメイトで幼馴染の一乃瀬恭介だ! 教えてくれ!」
そう。事故現場にも救急車の付近にも、結羽の姿が見当たらない。その事実が恭介の不安に拍車を掛けていた。
切羽詰まった恭介を落ち着けようと思ったのか、救急隊員は両手でしっかりと肩を掴み、真剣な眼差しを恭介の瞳へと向ける。
「その方でしたら、先程病院へ救急搬送されました」