第8話 第2章 青天の霹靂
文字数 1,783文字
二年後の二〇一八年夏、偶然にもリングス株式会社の月例会議で東京に向かった時に、
堀川好美に再会することになる。
好美とのもともとの出会いは二〇〇二年の夏だった。丸幸不動産でマンション開発の成熟期に世田谷成城での開発、モデルルーム含む販売開錠受付をしていたのが好美だった。
小畠は四〇歳、好美は二十五歳だった。
あくまでも受付のスタッフとして従事してくれていた。仕事が終わった後に関係者皆でカラオケに行ったり食事に行ったりもしていた。
川畠も歌うことが大好きだったのでよく便乗していた。
東北秋田出身の色白で奇麗可愛いを絵にかいたような女性で皆に人気高い女性だった。
再会は東京の有楽町だった。
有楽町にある星乃珈琲店の常連だった川畠は定例会議前にモカのブラックコーヒーを愉しむ。
しばらくすると声がけする女性の声があった。
「川畠さんじゃないですか?」
席前に佇む女性は紛れもない堀川好美さんだった。
「堀川さんだね。久しぶりだね。何とも偶然にも会えるなんて。」
「川畠さんとはもう十六年もお会いしてないんですね。びっくりです!お変わりないのですぐにわかりましたよ。スーツ姿で。三つ揃えも今は珍しいし」
好美も高揚していた。
「時間あるならお茶を御馳走しましょう!」
「ありますあります!有難うございます。」
お茶を御馳走した後、会議後に待ち合わせてフランス料理店で積もる話を語り合い、意気投合した。川畠も再会を心底楽しんだ。
好美は、十六年の穴埋めをするかのように雪崩のように語った。
秋田で実家の酒蔵の手伝いをしていたことや新しい新酒純米大吟醸酒「鼓小町」の発売準備で東京有楽町に出向いていたことを皮切りに、日本酒ソムリエ資格証も見せてくれた。
「私、頑張ったんですよ!小畠さんに言われた言葉を信じて。」
目をかがやかせて好美は川畠を見つめた。
「よく頑張ったんだね。そう言えば話していたね。お父さんの後継がいないから大変だって。家族は君と妹さんの姉妹だったよね。」
「そうですよ。父も半ば諦めていたようでした。私が継ぐって六年前に話した時は大反対されました!お嫁に行きなさいって。」
「養子でお婿さん候補募れば問題解決じゃなかったんじゃないのかな?」
「川畠さん、結婚は政略じゃ続きません!」好美は少し怒って言葉を速攻返してきた。川畠は体勢をと整えて話を切り替えた。
「それは大変失礼したね。申し訳ない。君のような素敵な女性は引手数多だったろうと思ってね。ところで僕が君に言った言葉が気になるよ。教えてくれるかな?」
好美はすぐに機嫌を直して答えた。
「何事もポジティブシンキング、前向きな姿勢が運を引き寄せるんだよって。あと、人生は一度きり、精一杯悔い無いように生きるべきって。」
「そう、四十歳の僕はそんなかっこいいこと言ってたんだね。でも今でもそう思っているけどね。」と言って川畠も笑顔で答えた。
「川畠さん奥様お元気されていますか?おなじ大学の後輩の綺麗な奥様!」
少し白ワインを飲んで、川畠は好美に顔を向けた。
「実は二年前に病気で亡くしたんだ。」
「えっ。」好美はグラスをテーブルに置き直した。
「そんなことって。なんてこと。」
暫く、沈黙の時が流れた。
川畠は妻を思い出しながら話した。
「妻とは先輩後輩からのスタートだったけどすぐに形勢逆転でしっかり
手綱をにぎられていたよ。およそ皆そういうもんだと思うけれどね。
しっかり子供も育て上げてくれた。今はアニメの世界に夢中なんだけどね。
僕もまだまだこれからだ。前向きに生きることが僕らしい生き方なんだって今も言い聞かせてるよ!」
少し涙目で好美は言った。
「今夜は飲みましょうね!私もいっぱい話したいし。先ず奥様に献杯!」二人はグラスを合わせた。
その後、好美とはラインでやりとりを続けていた。
東京出張時には東京駅で待ち合わせして、逢瀬を繰り返した。
好美の父親が突然の病で逝去していたことでいよいよ好美が酒造会社を運営して行くことが必至となったが、常務だった妹婿が全てを継承することを承諾してくれたことが二人の将来を後押しした。
なんとも出会いからたった一年後、二〇一九年春、川畠は好美に結婚を申し込んだ。
年齢差が気にならなかったわけではないが、好美との再会に運命を感じていた。
五十六歳が四十一歳を第二の人生の伴侶にした。
同時に、埼玉に仕事都合で転居した。