第16話  第5章 堕天使の罪 

文字数 1,344文字

川畠は事の展開に驚きを隠せなかった。

「Aさんが言うには、四年前に脳梗塞で三林連太郎が三協薬品グループの傘下として経営する三協総合病院へ入院後に、治療中、塩化カルシウム製剤投薬事故で亡くなっていることが最初の疑いだったようだ。脳梗塞も恭司の事故の後に血圧が上がったことが要因だった。
六年前に伴侶の京子も、病で失っていた連太郎には恭司が残る希望だったんだよ。
 連太郎氏の医療事故は看護師の希釈ミスってことになっているんだが・・・。
三林恭司の自動車事故も司法解剖では最終判断できなかったが、筋弛緩剤の成分が微量検出されているんだよ。但し、本人が服用したかどうかがわからないのがあってね。肩こり他の薬にも入っているからね。全身の損傷が酷いこともあって、はっきりいって解剖結果も不完全だと思うんだ。」
「その二件の事件が何故三男の隆への疑いにつながるんだ?」
「この三男が昔から問題児だったようだ。
 幼い時に両親に甘やかされた典型的な過保護で育った子供だ。
長男が登山事故で亡くなった時に、次男の恭司に時期グループ事業承継の白羽が当たることになるんだが、この三男は研究開発センターに先に会社で従事していたこともあり、面白くなかったんだと思うよ。これだけじゃ動機は不十分だと思うけどね。
 しかも、彼には二件の事件事故の時にはアリバイがしっかりあるんだ。
海外出張しているんだ。警察としてもなんらかの共犯がいるんじゃないかを含めて捜査深耕中ってことだ。」
「三林家はいよいよ隆だけになったら彼の思うままなのか?」
「それはそうでもないんだ。事業はホールディングスが包括経営していて、副社長他役員は譜代の社員が守っている。昔からかれは蚊帳の外。ただ連太郎の個人資産は事前に顧問弁護士に預けた公正証書、遺書の内容で恭司と隆と長兄の嫁、そして財団に相続されているんだ。やはり連太郎は将来を慎重に考えてリスク分散していたんだと思うよ。実質三協財団を創設したのも資産を有効利用するためだったんだ。」
「隆もそれで満足しなかったのか?」
「彼は個人資産の十二パーセント、金額にして数億の資産を手にしたんだけど全て海外のカジノで無くしてるからね!」
「それで、今度は次兄の財産を相続しようとしたのか?」
「次兄の資産は予め弁護士に預けていた公正書類の遺書通り連太郎の個人資産の六十パーセントだから十数億にはなるからね。因みに残存の二十八パーセントは全て三協薬品財団に帰属しているんだ。ここで問題は、次兄の死亡時、第二親等の隆が相続人になるってことだよ。」
「それで第二の疑惑なんだな。今度は次兄を殺害しようとしたのか?洋子さんがいるのに?」
「恭司さんは玲奈さんと離婚した時に誕生している洋子さんを認知しているが、三林家には秘密にしていたんだよ。恐らく知らなかったんだ。」
 川畠は何とも言えない気持ちでいた。
白木玲奈は女優を引退後に、母を介護して、小さなお店を開業し、幸せな結婚をしていたと思っていた。こんな人生があるんだろうかと悲運な玲奈のことを悲しんでいた。

「ここで川畠に調査してもらいたいことがあってね。」
「なんでも言ってくれ。弔い合戦だよ。」

「いずれにしても犯人の悪魔の顔を剥いでやろう!」
二人は亡くなった人たちに改めて献杯した。
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登場人物紹介

川畠真和

主人公  還暦を迎えて再雇用でサラリーマン生活最中に殺人事件に巻き込まれる。自分自身の人生の変遷と事件関係者の人生に交わりが生じていた事がわかった時に、流転の天使の意味を知ることになる。

中山次郎

主人公の友人。元警視庁捜査一課刑事。現在は渋谷区内で探偵事務所を開設させている。ひな祭り殺人事件の被害者、関係者がクライアントだったことから事件に巻き込まれる。

三林洋子

母1人娘1人で生活する25歳の活発な女性。劇団ミルクでアイドルを続けている。3月卒業間近に事件の被害者になってしまう。

川畠好美

川畠真和の妻。元、真和の開発マンションモデルルーム受付スタッフ。秋田酒造メーカーの経営者時代に再会し、結婚にも至っている。真和にとってかけがえ無い存在。

三林玲子

三林恭司の妻であり洋子の母親。洋子の将来をいつも心配している。、世田谷でコーヒーショップを経営しながら洋子を育て上げた。物語の主要な存在でもある。

三林恭司

三林洋子の父親。三協薬品の営業開発室長(取締役)。誠実でかつ実直。三林家の長男が急逝し俳優業を止めて家業を継承している。

吉島あきら

川畠真和の旧友。元丸幸商事の同僚。退社後は不動産会社を経営の傍ら、芸能プロダクションも併せて経営している。川畠とは東京都内で頻繁に飲み歩いていた。

三林連太郎

三協薬品グループ総帥であり創設者。絶対権力を維持しながら事業拡大してきた業界のフィクサーでもある。

浩一、恭司、隆の父親でもある。

三林隆

三林家の三男。幼いころから過保護で育ち、根っからの甘えん坊体質。三協薬品グループ会社の研究開発センター所長職。ギャンブル好き。

小川孝

光触媒コーティング事業会社、アンジェ&フューチャー社長。吉島の後輩でもあり川畠とも面識有。おとなしい性格の反面、ギャンブルとアニメにのめり込んでいる。

安藤裕子

三協財団の理事長。三林浩一の元妻。恭司の相談相手でもあり、かつ連太郎の事業においても参謀として活躍する才女。京都の京辰薬品開発会社の二代目辰巳の長女でもある。

杉尾留美子

介護士。三協タイムサポートに勤務している。横浜関内にあるカジノ「ステイタス」のバニーガール小林佳代の友人でもある。心優しい人柄で友人たちにも好かれている。

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