第27話  第8章 天使と堕天使

文字数 2,364文字

  第八章 天使と堕天使

 川畠は中山と待ち合わせしていた。定期的週一で大宮駅東口の割烹「とりいちず」で行う
情報交換をルーティンとしていた。
四月一日金曜日、エイプリルフールだった・・・・。
「少し暖かくなったね。俺は花粉症で大変だけど・・・」
「実は僕もなんだよ。薬飲んでるけど今日は特に酷いよ。」
「でどうだ。新情報はあるのか?」中山は切り出した。
中山には前回会った時に白木玲奈のことを話していた。荒木町の「ライムライト」での出来事も話していたし、天使のレースをプレゼントしたことも情報共有していた。
「プレゼントとしては偉く大切にしていたんだと思うよ。俺も彼女に色々プレゼントしたけど無くしたり、捨てたりされちゃってるのになあ。」
「大切にしてくれていたのは本当に有難いと思うよ。でも救世主とか流転の天使と書かれていることが今も謎なんだよ。」
「何らかの恩義を感じていらっしゃったんじゃないのかな。」中山はいかにも羨ましそうに話した。

「先ずは俺から話すよ。劇団ミルクの情報だ。
洋子さんはやはり一番人気のアイドルだったようだ。握手会なんて凄いらしい。前夜から泊まり込んで整理券貰う人もいたようだからね。」
「今考えるに玲奈さん、いや玲子さんに似た美形で可愛らしい女性だから当然といえば当然だね。元女優の娘だしね。」
「それで分かったことなんだが、メンバーの情報にストーカー被害があったらしい。」
「ストーカーかい?」
「そうなんだ。握手会の事件で夢坂このみ、洋子を助けてくれた男性がいて、どうやらその彼が、その事件以降、横恋慕で、一方的に彼女のナイト気取りで付きまとっていたらしい。」
「ヒーローがストーカーになったんだね。」
「警察にも相談されているのが分かった。母親から相談されていたようだ。」
「玲子さんも心配だったに違いない。」
「一応、上尾警察署の山尾刑事も容疑者として捜査をしている模様だ。しかし、どうやら犯行当日のアリバイが立証されたようなんだ。
三月三日の二十時から翌日の八時までクライアントと箱根でイベント準備に従事しているのが分かった。イベント会社社長の弓田氏からも聴取が完了しているらしい。」
「何のイベントなんだ?」
「環境資材ルネッサンスってイベントらしい。
その容疑者が何とかコーティングって資材開発を鎌倉で経営しているらしいよ。」
川畠はすぐに小川を思い出していた。
「その容疑者はまさか小川っていうんじゃないだろうね。」
「どうして知ってるんだ??小川孝だ。」
「容疑者まで知り合いなのか?」
偶然もここまで重なると怖くなった。
「いったい、どうなってるんだ・・・」
吉島の後輩でよく一緒に飲んでいた若いころの小川を思い出していた。
「よりによって玲奈さんの娘を横恋慕したのか?彼は娘と知らなかったんだろうか?」
川畠は思考を巡らせた。


中山は話を切り替えた。
「川畠に頼んだ件は、進展あったか?」
「やっと関係者から情報を入手したよ。意外な情報だった。
中山に言われたように、警察の捜査ではなかなか知りえないような深い情報網を探ったよ。ご指摘通り、業界関係者、悪友?達からの情報だ。」
「気になるな。どんな情報なんだ?」
「丸幸商事グループの丸幸ケミカルフロンティアの医薬事業部の部長だった工藤監査役から、今の部長の三上が三協薬品研究開発センターの三林所長(隆)と入魂だった情報を入手できた。その三上さんに会ってきたよ。
工藤監査役から僕の情報が入っていたから、安心して会ってくれたよ。
どうやら、ギャンブル仲間だったらしいんだ。」
「情報通りのやんちゃ御曹司って感じだな。」
「そこなんだが・・・」
川畠はピルスナービールをグラスで一口飲んで話した。
「三上からの情報では二年前迄は、よく横浜関内のカジノに通っていたらしい。前に聞いたような感じでギャンブルで借金も多かったし、三林隆がカジノ勧誘で色んな企業人をギャンブル中毒にしていたことも話していた。」

「やっぱりダメ御曹司じゃないか?」
「そうなんだ。ただし二年前から少し様子が変わったらしい。ギャンブルも全くしなくなって、研究開発に真摯に取り組むようになったらしい。三上も疎遠になったようだ。」
「二年前に何かあったのかな?」
「警察は、恐らく捜査の範疇に家族関係者も置いていたはずだよね。」
「その通りだよ。当然、三林隆の犯行時間のアリバイも捜査している。隆もアリバイが成立しているよ。」
「いずれにしても隆に何があったかだな。」
「少し分かったことがある。三協薬品グループ傘下の三協タイムサポートがあるんだが、そこの介護士、杉山留美子と同棲を始めたようだ。」
「そんな情報はどこから?」
「三上と僕が会ったのはカジノがあった関内だったんだが、そのカジノで三上が懇意にしていたバニーガールがいてその友人が杉山だったようだ。
バニーガール達と東京丸の内三友ビル内にあるマキシマムホテルのバンケットで三林開催のクリスマスパーティーをした時にそのバニーガールが酔いつぶれて、迎えに来たのがその杉山留美子だったようで・・
そのパーティーで三林隆が見初めたんだ。それが出会いになった。

「そうなんだ・・」
「三上が言うにはその杉山が介護士をしながら祖母の面倒を見ていると隆が話してくれたようだ。母性あふれる留美子に惹かれたようだ。その後二人が付き合っていたことは聞いていたが、疎遠になってから、留美子の友人だったバニーガール小泉佳代から隆と同棲しているとの情報を聞いたらしい。」
「彼女が改心させたってことか?」
「どうやらそうらしい。研究開発センターの事務長の加藤氏からも丸幸ケミカルフロンティアの三上が情報をとってくれたよ。
 二年前から、見違えるように仕事に邁進しているらしいよ。人が変わったとも言っているようだ。」
中山と川畠は顔を見合わせていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

川畠真和

主人公  還暦を迎えて再雇用でサラリーマン生活最中に殺人事件に巻き込まれる。自分自身の人生の変遷と事件関係者の人生に交わりが生じていた事がわかった時に、流転の天使の意味を知ることになる。

中山次郎

主人公の友人。元警視庁捜査一課刑事。現在は渋谷区内で探偵事務所を開設させている。ひな祭り殺人事件の被害者、関係者がクライアントだったことから事件に巻き込まれる。

三林洋子

母1人娘1人で生活する25歳の活発な女性。劇団ミルクでアイドルを続けている。3月卒業間近に事件の被害者になってしまう。

川畠好美

川畠真和の妻。元、真和の開発マンションモデルルーム受付スタッフ。秋田酒造メーカーの経営者時代に再会し、結婚にも至っている。真和にとってかけがえ無い存在。

三林玲子

三林恭司の妻であり洋子の母親。洋子の将来をいつも心配している。、世田谷でコーヒーショップを経営しながら洋子を育て上げた。物語の主要な存在でもある。

三林恭司

三林洋子の父親。三協薬品の営業開発室長(取締役)。誠実でかつ実直。三林家の長男が急逝し俳優業を止めて家業を継承している。

吉島あきら

川畠真和の旧友。元丸幸商事の同僚。退社後は不動産会社を経営の傍ら、芸能プロダクションも併せて経営している。川畠とは東京都内で頻繁に飲み歩いていた。

三林連太郎

三協薬品グループ総帥であり創設者。絶対権力を維持しながら事業拡大してきた業界のフィクサーでもある。

浩一、恭司、隆の父親でもある。

三林隆

三林家の三男。幼いころから過保護で育ち、根っからの甘えん坊体質。三協薬品グループ会社の研究開発センター所長職。ギャンブル好き。

小川孝

光触媒コーティング事業会社、アンジェ&フューチャー社長。吉島の後輩でもあり川畠とも面識有。おとなしい性格の反面、ギャンブルとアニメにのめり込んでいる。

安藤裕子

三協財団の理事長。三林浩一の元妻。恭司の相談相手でもあり、かつ連太郎の事業においても参謀として活躍する才女。京都の京辰薬品開発会社の二代目辰巳の長女でもある。

杉尾留美子

介護士。三協タイムサポートに勤務している。横浜関内にあるカジノ「ステイタス」のバニーガール小林佳代の友人でもある。心優しい人柄で友人たちにも好かれている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み