第18話 第6章 地上の天使
文字数 2,442文字
三協薬品と言えば超大手企業であり、厚生労働省大臣は亡き三林連太郎が後援会長でもあったことから誰もが知るフィクサー企業であった。
「三林様でしたか?是非乾杯させていください!」小川も心が躍った。
ギャンブル話で盛り上がりも再燃した。
その日の二次会は銀座の光源ビル内のカウンターバーになった。「プレシャス」に入った。
「いやあ、今夜は楽しい時間だ。小川さんとは同年代だし話が合うよ。」
環境資材メーカーの仲間達とは散会して、二人きりの二次会が始まった。
「こちらこそです。三協薬品の御曹司に会えるなんて感激ですよ。お父様、お兄様大変でしたね。」
「不幸続きの中、同族戦士は僕一人になってしまいましたからね。」と苦笑いしながら隆は話した。
「お兄さんの事故は報道で知りました。グループ代表だったから大変だったでしょう!」
「そうでもありませんよ。蒼々たる役員達がいますし、現在は前副社長の大田原さんが代表です。」
「隆さんは後を継がれないんですか?」
唐突にお酒の勢いで小川は三林に質問した。
「いえいえ、僕は研究開発センター所長止まりの平取締役ですから。
自社の持ち株も他の取締役より少ないですしね。何より財団理事長が今や権威ですよ。」
「そんなものなんですね。私たちのような人間には計り知れない世界ですよ。」
三林は話を本題に切り替えた。
「小川さんはステイタスカジノを御存じでしょうか?」
「ステイタスカジノ?初耳です!」
「横浜の会員制カジノのお店の名前です。選ばれた方のみ登録できるんです。まさにステイタス!」
「合法なんですか?」
「もちろんですよ。メンバーも社会的地位の高い方ばかりですからね。」
「高嶺の花のような場所ですね。」
「小川さん、近々に機会作りますからご一緒しませんか?」
「そんな、私なんてメンバーになれませんよ。」
小川は嬉しい誘いながら戸惑いをみせた。
「私の紹介、メンバーの紹介があれば保証が認められるんです。大丈夫ですよ!」
「いやあ、それは願ったり叶ったりです。ぜひご一緒させていください!」
隆はバーテンダーにアードベッグのウィスキーのダブルを二つ注文しながら言った。
「ギャンブル最高!乾杯!」
IR推進法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)が成立したのは
二〇一六年十二月のことである。
IR整備の目的は、国のIR施設区域整備推進本部によると、「観光振興に寄与する諸施設」と「カジノ施設」が一体となった施設群を、民間事業者が整備することによって、集客と収益を通じた観光地域振興と、新たな財政への貢献を図ろうというものだった。
主体は「観光振興に際する施設」で、ホテルや国際会議場・国際展示場(MICE施設)、レストラン、ショッピングモール、劇場や水族館といったエンタテイメント施設などで構成され、事業者はこれらを一体的に整備・運営することが求められていた。
立地先として、大阪府・市、横浜市、北海道、長崎県、和歌山県などが声を上げました。しかし、新型コロナの感染拡大を機に、申請期間が延期となり、それを受けて北海道は、一転して誘致に慎重な姿勢を示すようになり、そんな中で動き出したのは横浜市だったのである。
経済効果はIR建設時では、直接効果として約四千七百億円~約一兆千九百億円、全体効果として約六千七百億円~約一兆八千億円、開業後の事業運営時はそれぞれ年間約四千九百億円~約九千百億円、約七千七百億円~約一兆六千五百億円としています。これを元にした増収額は年間約六百億円~約千四百億円になると試算されていた。
横浜市関内駅から海側に向かった相生町にある古いモダンデザイン建築のビル内地下にその
カジノがあった。店の名前は「ステイタス」カフェバーの明記があった。
小川は関内が初めてなので、関内駅北口前のモールにある銀座コージーコーナーで三林隆と待ち合わせした。
「いよいよ初陣ですね!」
「ワクワクしてます!」
ギャンブル依存症の典型のような二人だった。
入店すると、バーテンダーに三林がオレンジのルーレットチップを渡すと、別部屋に入り通路を経て、カジノの両開きドア前のガードドアマン二人に合図した。
「いらっしゃいませ!ようこそステイタスへ」ドアマンが扉を開けた。
天井も壁もオレンジカラーの広々したスペースにルーレット、バカラエリアがあり、またラウンジも併設、オレンジの部屋の生える黒い上下のバニーレディーが接客している。
小川は入るなり、場に飲み込まれた。
「さあ、先ずはルーレット、監禁に行きましょう!」ショータイムの幕が上がった。
初陣で勝ってしまうと蟻地獄に陥る。小川も典型的なカモになってしまっていた。
三林はこのカジノを元広域暴力団の新生会の傘下だった右翼皇政会の元会長、氏原との共同事業として運営していたのだった。
中小企業の社長達を主軸にカジノ誘因をして、蟻地獄に落としていたのだ。
隆自身も莫大な借金があったので、氏原に恐喝されていた中での共同事業だった。
一九九一年五月十五日公布された暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)は反社会勢力の組織を分断、壊滅に近い状況にもっていった。
加えて、指定暴力団の代表者等に対する民法の不法行為責任についても特則が設けられ、凶器を使用して指定暴力団同士の抗争または指定暴力団内における抗争により他人の生命、身体または財産を侵害したときは指定暴力団の代表者等は無過失責任を負うことになる。
まさに反社会勢力は四面楚歌になったのだ。
しかし、悪は地下に潜ってゆく。
氏原も右翼と言っても新生会あっての組織だったこともあり、収入源を絶たれて、結局貸金業の会社を立ち上げて、事実上解散したのである。それでもやはり貉は貉、貸金業傍らにオレオレ詐欺の元締めを元団員にさせていた。
三林隆は貸金での焦げ付きの情報を利用して近づいたのだ。
腐っても三林薬品の御曹司の肩書は勧誘には十二分に有効だったのだ。
ステイタスカジノはドル箱になっていた。