第14話 第4章 運命の紋紙
文字数 914文字
一九九六年秋、玲奈は病院から笑顔で自宅に帰っていた。
いてもたってもいられなくなって玲子は恭司に
世の中に少しづつ普及しだしていた携帯電話を使って連絡した。
昭和の時代では考えられない通信サービスが既に流行していた。
恭司の折りたたみの携帯電話に着信が入った。
「もしもし、玲子さん?」
「恭司さんお仕事中にお電話してごめんなさい。」
「大丈夫だよ。何かあったの?」
「赤ちゃん、赤ちゃんができたのよ!!」
「妊娠三か月だって!」
声が弾みまくっていた。
恭司は幸せの頂点にいた。
「玲子さん、ありがとう!今日は早く帰るからお祝いしよう!」
天使が舞い降りてきたようだった。
三林恭司は連太郎の息子である前に一人の人間として組織の末端からのスタートを家業に戻る条件としていた。実際入社後は、先ず配送センターのスタッフとして汗を流した。
その後、関連会社の三協薬品販売のセールスで日本保険薬局協会の加盟店への営業に奔走している。三年目に三協薬品営業開発室長として初めて取締役に就任していた。
長兄の浩一のようなカリスマ性は無い自分は、根っからの明るい性格を生かして人望ある経営者を目指そうと誓っていた。
この日は早退して世田谷桜上水の自宅へ向かった。インターフォンで玲子の声を待った。
三回鳴らしても応答なく、フェンス越えに見える玄関ドアも開かなかった。
買い物にでも出かけたんだろうか?と家の鍵を開けてリビングルームに入った。
「玲子さん、いないの??」自分の声がリビングの天井に共鳴するばかりだった。
手を洗って、洋室を覗き込んだ時に、部屋が荒らされていることが分かった。
何が起きたのか全く分からなかった。
幸せの運命の紋紙が織り成す、模様の位置がずれてしまったような音が心に流れた。
紋紙(考察)
紋紙とは、ジャカード織機で織物を製織する際、幅約六~七センチメートル、長さ約四十五センチメートルくらいの段ボールのような厚紙に穴をあけてデザインをデータ化した紙のことです。 ジャカード織物では、経糸を一本一本操って複雑な模様を織り上げます。
この「紋紙」を機械的に操作することによって、経糸が上下に作動し、そこに緯糸を通して文様を織り出すのである。