第2話 第1章 ひな祭り
文字数 1,871文字
「ひな祭り殺人事件が上尾市内で起きたんだって!」大宮の社内でも持ちきりの話題になった。川畠はひそかに話に同調することに終始していた。
三林洋子さん、二十五歳、若すぎる死だったこと、夢あるこれからの世代の死は痛すぎることがずっと頭を離れなかった。
また個人携帯の電話が鳴った。今度は見覚えある番号だった。
友人でもある中山次郎からの電話だった。
「久しぶりだね!感染症もあるから昼間時間作ってくれるかなあ。コーヒー御馳走するよ。
いつもの軽い口調の次郎だった。
大宮駅東口の商業施設内のドトール珈琲の店で待ち合わせした。
「川畠、元気でなにより!また少し瘦せたんじゃない?」
「一年前に敗血症で生死をさ迷ったからね。食事療法もあって十五キロ痩せただろ。」
「そうだったな。大変だったな」
「お互いいい年齢だからな。気を付けないと」
中山次郎は東京にいたころの友人、元警視庁の刑事だったころからの付き合い、飲み仲間だった。今は探偵事務所を渋谷で開設して民事中心の探偵業を続けている。友人になった経緯は
後述する。
「ひな祭り殺人事件のことで聞きたいことがあってね。」
「中山に関係ある事件なのか?それに何故僕に事件のことを聞くんだ?」川畠は疑問に感じていた。
「最後に通信した相手が川畠ってことを上尾警察の元同僚から聞いてね。実はこの三林って子は俺のクライアントだったんだよ。偶然に驚くよ。」
「こっちが驚くよ!凄い偶然なんだな。」
「さいたま市と上尾市内は隣同士だからね。」
「それでも渋谷のしかも中山の探偵事務所のクライアントを僕が保護して、重ねて殺人事件ってどうなってんだか。」川畠は続けた。
「大体、一時的に人の保護にかかわっただけなのに、殺人事件になったってことで驚いてるのはこっちの方なんだよね。」
「でも被害者から電話が入ったんだろう。」中山が言葉を返した。
「恐らく一時保護のお礼の電話だと思うよ。倒れた自分に付き添って病院まで行ったことだろうけど・・・」
「そこなんだけど、彼女のメモが見つかってね。川畠の携帯電話番号と一緒にメモ書きが書かれてあったようでね。」
「何て書いてあったんだよ。」
「救世主、流転の天使って書かれてあったんだってさ。」
「流転の天使?」
「警察からは聴取があっただろう。聞かなかったのか?」
「一切聞かされてないよ。」
「三林洋子さんって北部バスの中で初対面だったんだろう?ここが謎なんだ!」
川畠はバブル時代からの飲み仲間(悪友?)からの情報にいささか戸惑いを
隠せなかったのもあるし、意味不明のメモ書きの内容に戸惑っていた。
川畠は初対面のはずなんだと心でつぶやいた。
「また何か思い出したらでいいから連絡くれよな!警察からも恐らくまた連絡あると思うしね。」
「殺人事件にかかわってるって思われてるのか?」
「正直、元刑事の俺が考えるに何らかのつながりを鑑みて調査深耕するはずだよ。」
「まいったなあ。しかし。」
今度は川畠が質問した。
「三林さんがクライアントって話したよな。何の調査を頼まれていたんだ?」
「そこは守秘義務があるからね。一般的な身上調査って感じだよ。」
中山とはコーヒーを飲んだ後、その場で別れた。
久々の再会は意外な一幕を開けることになった。
流転の天使って言葉が頭にこびりついた。救世主っていうのは、おそらく現場で保護したことに感謝の意を込めてくれたんだろうと察することができる。しかし「流転の天使」がなんとも謎めいている。
「天使ってがらじゃない」とつぶやいた。
流転の意味をグーグルで検索してみた。
1 移り変わってやむことがないこと。「万物は流転する」
2 仏語。六道・四生の迷いの生死を繰り返すこと。生まれ変わり死に変わって迷いの世界をさすらうこと。「流転三界中」
流転の天使ってなんなのだろうか?
世の移り変わり中の一天使ってことだろうか?やはり保護に対する感謝の言葉?いささか気恥ずかしくなる感じになった。
それよりも助けたはずの女性の死が残念だった。
三月三日 ひな祭り。(考察)
ひな祭りは女の子の健やかな成長と健康を願う意味をもつ日。 中国の上巳の節句が由来とされており、人形に自身の穢れを映して厄を払う流し雛の風習が形を変えて、「ひな祭り」となって現在に伝えられていると言われている。(Google記事抜粋)
こんな厄払いの日に殺人事件って何の因果なのかを考えさせられる。ひな祭りに流転の天使の意味のヒントが隠されているのだろうかと考えたが何も浮かばなかった。
ネットではあらゆる情報が追加されていた。
他殺事件も毒殺や刺殺や多様な情報で錯綜していた。