第29話

文字数 2,133文字

「あと二日しか待てないから」
 里奈に突然そう言われた。
 ふつ……か……? そんなの……。
「な、なんでいきなりそんな。もう少し待ってくれよ。手がかりは掴めたんだ」
 彼女の声色がだいぶ本気に見えたため、すがるように彼女に言う。
「待てないわ。これは絶対期限よ」
「なんでだよ。なんで急にそんなこと言うんだよ」
 彼女はツンケンしながらも何だかんだ俺に協力的だった。なのに、今日だけは突き放すように俺に言い放ってくる。だが、言葉とは裏腹、彼女の表情は優しいものだった。
「食料在庫がね、あと二日しか持たないの。今虫人と爬人たちのすべての攻撃を止めているわ。でも二日を過ぎたら死ぬ者が出始める。それを待つことはできないわ」
 在庫……虫人たちの命がかかっている……。
 反論することができなくなり、俺は俯く。彼らに命を懸けろとは言えない。
「優真。あたしね。あなたがあたしに信じろって言ってくれたの、嬉しかったわ。仲間の悪魔はあたしほど本気じゃないの。神人は脅威だけど、戦うことについては疑問に思っている者もいる。獣人との戦争だって正しくないと思っている人もいるわ。だから独りぼっちだなって思ってた。自分一人で神々に戦いを挑まなきゃいけないんだって。でもあなたが本気になって私に向き合ってくれたのはすごく嬉しかったわ」
 胸に手を当てて、自分に呟くように言ってくる。
「この後再び戦争になっても、あなたはあたしの真の敵じゃない。戦争は時として大切な人を奪っていく。もしあなたの大切な人が失われても、あたしはあなたの敵になりたいと思っているわけじゃないってことだけは覚えておいて」
 そんなの……。
「……虫のいい、話だな」
「否定はしないわ。でも獣人と手を取り合えない事情はあなたもわかっているでしょう?」
 顔をしかめることしかできない。里奈との戦闘からもうだいぶ日が経っているのに、結果を全く出せていない自分に言えることは限られている。
「まだ……わからないさ。あと二日ある」
「期待はしていないわ。でも、できなかったとしてもそれもまた一つの結果よ。それに、再び戦争になっても、解決手段が見つかったらいつでも停戦するわ。覚えておいて」
本当は俺も内心では無理なんじゃないかと思い始めている。シミュ構成子というキーワードは得られたが、何をすればいいかもわからない。それにそれが扱えたところで何も成果が得られなかったら次はどうする? 二の矢、三の矢を用意できていない。

里奈と別れて、自室でミオに問いかける。
「なあミオ、シミュ構成子の使い方ってわからないよな?」
『はい、わかりません』
 想像通りの回答であることがある意味清々しい。それに彼女は前にも自分はLシステムしか扱うことができないと言っていた。すでにわかっていたことだ。
「ほかにこの問題に対処する方法ってないよな」
『私では思いつきません。それに、なぜ獣人や虫人の争いを優真様が止めようとしているのかも理解できません。彼らは敵です。同士討ちするのであれば事態を見守るべきです』
 ミオは出会った時からこういう奴だ。異種族に対して高い殺害意欲を持つ。
「ミオってなんで異種族がそんなに嫌いなの?」
『人類と敵対していたからです』
 この世界の過去を俺は知らない。ポチの話からすると神人が好き勝手に異種族たちを生み出して、その余波を受けて人類は衰退してしまったのだろう。今の獣人と虫人のように、きっと人類も異種族たちと争っていたと考えるのが自然だ。その結果絶滅してしまったと。いや、人類絶滅という結論を出すのはまだ早い。獣人や虫人たちが知らないだけで、どこかでひっそりと暮らしているという可能性だってあるのだ。希望は持っておきたい。
「でも、異種族と争ったから人類は絶滅したかもしれないんだろ? なら争いを無くすことに主眼を置いた方が本当は賢いじゃないの?」
『そうは思いません。争いを無くすことは人類も達成できなかった命題です。達成されないと仮定する方が自然かと思います。その場合、争いを無くす努力よりも、争いに勝つ努力をした方が生存の可能性が高いです。そのために優真様の神人化が行われております』
 そう言えば、すっかり忘れていたが、ミオ的には俺は神人らしい。この件もあとでだれかに相談しといた方がよさそうだ。結局誰にも話せていない。だが、それを話したところで問題が解決するとも思えない。このまま、何もできずに終わるんだろうか……。
「はぁ……シミュ技術ってどこに行けばわかるんだろうな」
 何となしに独り言を呟いたつもりだった。
『タワーを探索し、アーカイブを得て下さい。構成情報を認識できるようになるはずです』
「……え?」
 俺は顔を上げる。
『アーカイブには人類に関する情報と優真様の神人機能に関する情報が保存してあります。ここのタワーのアーカイブにシミュ構成子に関する情報があるかはわかりませんが、世界中にあるいずれかのアーカイブには保存してあるはずです』
「……。おお、おおお。そうだったのか!」
 思わぬヒントが得られた!
「なんだよ。それならそうと早く言ってくれよ」
『聞かれませんでした』
 ミオがいつも通りの返答を返してくるが、別に構わない。ようやく前に進めそうなんだ。
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