第28話

文字数 1,832文字

この後、ハチとクロ対里奈の殺害なしの決闘が行われたが、野人二人の圧勝で終わった。一対一ならまだしも、戦力の拮抗している野人と悪魔とでは二対一で勝てる道理はない。
 そして、これが行われたことにより俺は初めてわかったのだが、野人二人の狙いはここで里奈に勝利することで獣人たちのポチ喪失の不満を少しでも和らげることが狙いだったのではないだろうか。里奈の悔しがる顔を見て多くの獣人たちの気が収まっていっているのを俺は感じられた。
 ……もしそうだとするなら。これは俺のために開いてくれているのだろう。今のところ里奈を生かしたいと思っているのはこの地では俺だけだ。里奈を生かしながら獣人たちの気を和らげるために、ハチとクロはわざわざ決闘という手段を取ったのかもしれない。俺は、あとで二人にちゃんと感謝を述べておこうと心のメモ帳に書き留めておく。
「里奈さんの使っているサーベルは分子ディバイダ―って言うの。ハチ様やクロ様は素体能力で平気で受け止めているけど、普通はかすっただけで体を両断されるんだ。ライフルの方も当たったらあたしたちだとまず即死かな」
 イリュがよく理解できないことを言ってくる。
「ちょっと待て、なんだそれは。なぜ俺は生きている」
「そうだぞ。優真、お前の体は一体何でできているんだ。蜘蛛人の時もおかしいと思っていた。蜘蛛人の鎌をあそこまでまともにくらったら普通は体を真っ二つにされるんだぞ」
「え……? いやだってココアやイリュだって手傷を負ってたじゃん」
「あれはかすっただけだ。蜘蛛人の鎌はかすっても大けがをする。お前が異常なんだよ」
 俺は口があんぐりと空いたまま閉じなくなる。
「……俺、いつの間にか人間やめてたのかな」
「俺はお前が話に聞く人間だとは思っていない。人間は非常に貧弱で少し小突いただけで死ぬと聞く。対するお前は素材、エネルギー、空間構成子のいずれも習得しているんだろう? 明らかに人間とは思えない」
 そう言えばミオも出会ったころそのよくわからん構成子を使えとか言っていたな。
「すまん、その構成子ってのがよくわからんのだが」
「ひょえー、優真さん自覚なしで使ってたんだ」
 イリュが若干ワクワクしながら驚いているのに対し、ココアは完全に呆れている。
「お前は本当に常識がないんだな。構成子は全部で4つある。さっき言った三つに加えて、あとはシミュレーション構成子だ。素材構成子は主に体の性能を決める。防御力や身体性能、治癒力を決めているのはこの構成子だ。獣人や野人様、虫人は主にここが優れている」
 俺は知らぬ間にそれを使っていたということだろうか? 何の自覚もないのだが。
「でも優真さんが一番すごいのはエネルギー構成子でしょ」
「ああ。お前が使っているLシステムもその一つだ」
 そう言えばそんな名前だったな。魔法の方が何となく異世界感があっていい。
「エネルギー構成子は攻撃面で優れていることが多い。だが、優真の戦闘スタイルを見るに、応用幅はかなりあるようにも思える。神人は総じてエネルギー構成子は長けていると聞く。山を砕くとか海を割ると言った芸当もできるそうだ」
 ……それが本当なら俺らが一丸となったところで勝てない気がするのだが。
「里奈は?」
「悪魔種は空間構成子に優れる。転移をしたり、五感以外の知覚によって敵の接近を認識することができる。神人にアイハナ様と言う方がいるのだが、その方は空間構成子に非常に長けていて、世界の狭間を垣間見ることもできるそうだ」
「世界に狭間なんてあるのか?」
「知らん。俺も聞いた話だから本当かなんてわからん」
 話が壮大だ。
「最後のシミュ構成子は未来予測をしたり、特定の目的物を演算算出することができる」
 コンピューターのようなものだろうか? いや、ちょっと待てよ。
「それってもしかして虫人に必要な栄養素を割り出したり、人工合成法を算出するとかもできたりするのか?」
「……わからん。シミュ構成子に優れている者は限られているんだ。このあたりだと扱える者がいない。だが、もしかしたら可能性があるかもな」
 おお、こんなところにヒントがあるとは。これまでどこを探しても手がかりの一つも出てこなかっただけに、俺はテンションが上がっていく。
「けど使える人がいないよ? それとも、もしかして優真さん使えるの?」
「うーん、そもそも他の構成子も自覚なしに使ってたからな……。ちょっと自分の理解を進めてみるよ」
 手がかりは掴めた。あとはやってみるだけだ。
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