第11話

文字数 2,637文字

 数日が過ぎ、レゴーと呼ばれる場所へ行く前にレド村へ寄ることとなった。たしかクーティカさんの住んでいる村だ。グマと似たような街並みとなっており、グマほどではないがそれなりの大きさの村となっている。ここは犬人の村なのか、道を行きかう人のほとんどは犬の顔をしている。そうは言っても犬種は様々だが。
「誰かと合流するのか?」
「そうだ。犬人は下位種のため通常は弱いが、中には強い奴もいる。ほら、来たぞ」
 向こうからスキップでやってくる犬人がいる。柴犬だ。クーティカさんとは違った愛らしさがある。俺と同じくらいの身長だろうか。それ以外に目につくのは腰に下げた剣と、胸の圧倒的な主張力だ。これが人間だったら別の感情も生まれていただろうが、犬人だから、でかいな程度にしか思うことはない。
「やっほー、ココア。元気してた?」
 快活な少女の声が飛ぶ。ただ、少女と言うのはおかしいかもしれない。俺は犬人の年齢がパッと見ただけではわからない。ただ、声色からそう判断しただけだ。顔もおそらくニコーっと笑っているのだろう。
「はぁ、お前はいい加減敬語を覚えたらどうだ?」
「いいじゃん。ココアはそう言うの気にしないでしょ。むしろ敬語嫌いじゃん」
「お前は俺たち狼人相手はおろか、ポチ様にすら敬語を使わんだろう」
「うん! ポチ様笑ってたじゃん!」
 まるでいいことをしたんだと言わん態度だが、恐らくダメなのだろう。ココアが大きなため息をついている。
「それで、そっちのー……んんん??」
 柴犬顔の犬人が眉を曲げながらこちらを覗き込んでくる。
「見たことない種族だ」
「こいつは優真と言う。種族は人間らしい。優真、この犬人はイリュと言う。こう見えて狼人以上の強さを持つ剣士だ」
 ココアの言葉を聞いてイリュは目を見開く。
「人間? 人間ってあの人間? 絶滅したんじゃないの?」
 やはり、この子も人間を絶滅したと思っている。心の中にある希望がどんどんすり減っていく。だが、獣人にだけそう伝えられていると言う可能性もまだある。ポチと話せば何か手がかりがあるかもしれない。
「ああ、その人間だ。恐らくエネルギー構成子の扱いに長けている。これから俺たちはレゴーの地を取り返しに行く。他の部隊も一緒だ。たぶんこいつがいれば何とかなると思う」
 イリュは、えー、と明らかに嫌そうな声を上げる。
「レゴーって虫人がたくさんいるところでしょ。あたし死ぬのは嫌なんだけど」
「大丈夫だ。こいつはこう見えて単騎で蜂人二十体弱を屠っている。いくら蝉や蜂どもが群れたところでこいつには勝てんだろうよ」
「ほへー、蜂人二十体か。あたしもその数はきつそうだなぁ」
「……狼人は一対一でもようやく勝利をもぎ取れるってレベルなんだがな」
 どうやらこのイリュという犬人は相当に強いらしい。
「とりあえずよろしく! イリュって言うの! 犬人だよ!」
 イリュがにんまりと笑顔を向けてくる。
「優真だ。よろしく頼む」
 そのあと、俺らは馬車に揺られてレゴーと言う土地へ移動を開始した。馬人がいるのに動物の馬が馬車を引いているのはいいのかと思ったが、別に普通のことらしい。これは人間が、サルを自分たちとは違う種族と思うのと似た感覚のように聞こえた。
 山間を進んでいくこととなったが、針葉樹林が生えそろう山々はそれだけで一つの絵になっている。そして、それには飽き足りず、自然を体現する川や湖が俺の視界を飽きさせない。それに、この景色を美しく足らしめているのはこの視覚情報だけではない。皮膚を撫でる風とそこに含まれる匂い、そして口に含まれてくる未知の香りが原因であろう。
 道を進みながら、レゴーの地がどういう場所なのかをココアが説明してくれる。
「レゴーはかつて俺たちの領土だった場所だ。虫人の猛攻にあって今は占領されている。レゴーはグマ、ミル、キカンダのいずれにも通じている戦略上重要な拠点だ。防衛上ここは何としてもおさえておきたい。だが、相手もそれがわかってか、かなり防備を厚くしていてな。奪還作戦が何度も組まれているが、いずれも失敗に終わっている」
「奪還は無理だって言われてるんだよ。だってレゴーって天然要塞だもん」
 イリュは自分の剣を手入れしながら補足してくれる。狼人が鋭い爪で戦うのに対して、イリュは武器を持って戦うらしい。
「レゴーは切り立った崖の中にある。虫人たちが空から縦横無尽の攻撃ができるのに対して、俺たちは地上でしか戦えない」
 空軍力の差。これは大きな差となるだろう。だが、俺は遠距離攻撃に長けているし、ミオに教えてもらった飛行魔法がある。重力魔法を応用することで俺は普通に空を飛ぶことができる。この異世界で目覚めたばかりの頃、俺は三キロも歩かされたが、なぜ教えてくれなかったんだとミオに聞いたら「聞かれなかったからです」と一蹴された。
 くそ、ポンコツAIめ。
 何にしても、ここ数日練習した感じではどの魔法もかなり簡単に習得できた。詠唱魔法により空間子の感覚を掴むことで、ほとんどの魔法も無詠唱でできるようになっている。飛行魔法に至っては小走り感覚で飛ぶことができるようになっているのだ。むしろ、戦闘で試すのが楽しみで仕方がない。
「なら基本的に空の奴らは俺が迎撃するよ」
「ああ、もともとそのつもりだ。俺たちは近接戦闘が得意なやつは多いが、遠距離攻撃は苦手でな」
 重要な説明は終わったのだろうか。ここぞとばかり聞きたいことを聞いていく。
「ところで人間はどうして絶滅したって言われているんだ?」
 この問いにイリュとココアは顔を見合わせる。
「んー、あんまり知らないなー。機械種と激しく争ったって聞いているけど。あと恐竜種」
 機械? それに……恐竜?
「人間は劣等種だ。俺たちを相手に生存競争を生き残るのは難しい。だから天使様の庇護を受けていたと聞く。だが、機械種と恐竜種の猛攻にあい敗退したらしい」
「住んでた場所とかだいたいの位置とかもわからないのか?」
「天使様の地は東の方にあると聞く。これが終わったら行くのか?」
「是非そうさせてほしい。もしかしたら少しは生き残りがいるかもしれないし」
「そうだな。そのあたりもポチ様に聞くといい。きっと取り計らってくれるはずだ」
「あたしもついていきたいなー。そっち行ってみたいんだよね。旅は道連れって言うし♪」
「……お前、それ言葉の使い方が間違っているぞ」
「にょ? そうなの?」
 そんな感じで雑談をしながらレゴー攻略のための前哨基地に到着した。
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