第17話

文字数 1,316文字

「それで、報告を聞こうか」
ポチは興味深げに身を乗り出す。気分もよさそうだが、当然だろう。あの難所となるレゴーの地をようやく奪還できたのだ。ここ最近獣人は負け続きだった。久々の朗報に、目の前にいる獅子人だけではなくグマの地にいる多くの獣人たちも舞い上がっている。
「優真についてですが、戦闘力は極めて高いです。蜘蛛人を圧倒できるレベルですので上位種に分類しても良いかと思っています。ただ、現状上位種の方々に勝てるかは正直わかりません。と言うのも、彼は戦闘経験が浅いです」
「俺への世辞か? ならばそう言う気遣いはいらん」
「いえ、これはお世辞ではありません。彼の戦闘技術は未完成という印象を受けました。それと、精神面も未熟……というよりも素人のように見えました」
「聞いたぞ。瀕死の蜘蛛人を二匹も逃がしたとか」
 ポチは責める口調ではなく、非常に興味深げにその言葉を発している。
「はい。兵士たちからはかなり不満がでましたが、イリュが何とかおさめてくれました」
「まあ、実際今回の勝利は優真あってものだ、弱肉強食の我らにとって優真やイリュの言葉は無視できんだろう。いずれにしてもこれで確定だ。優真は神々の新たな創造物だ」
 ココアは手に力がこもる。
「珍しいですね。長らくありませんでしたが。ですが、あの強さに対して、あの未熟さはたしかに違和感が大きいです」
「必ずしも未熟と決まったわけではない。神々はああ見えていろいろ考えているからな。なんにしても籠絡する方向で行く。幸い優真は言葉も通じるし見た目も我々に近い。おまけに強いときた。今あいつはどこに?」
「タワー出入りの自由を許可しました。イリュと共に探索しているはずです」
「彼女か。ちょうどいいな」
イリュは心の間合いを詰めるのに長けている。とくに、本人が狙ってやっているわけではないのが一番のポイントだ。このまま優真がイリュへの依存度をあげてくれれば、獣人の陣営に加わってくれる可能性は高まる。
「優真を呼んできてくれ。報酬である人間の話をしてやらねばならん」
「はい」
 返事をしながらも、これを聞くか一瞬迷う。ポチ様にこんなことを聞くのはおかしな話だ。だが、どうしても聞きたくなってしまった。
「ポチ様は、何のために戦っておられるんですか?」
 訝し気な顔を返されるかと思ったが、全くそんなことはなかった。むしろ少し嬉し気だ。
「お前も優真にあてられたか? ……そうだな。昔はいろいろ思っていたが、今はお前たちのためだ。お前らが平和に暮らせる世をつくりたいからだ」
 俺たちの平和のために俺たちを戦わせる……なんとも矛盾している。と思いながらも、その理由がわかっているだけに特段なにも言わない。
「矛盾しているだろう? そう、矛盾しているんだ。だが、この矛盾はどうやっても俺の力では解消できなかった。だからせめて戦うんだ。俺には神々の力はない」
 ポチの顔はどこか遠くを見るような目をしている。諦め、悔しさ、絶望、そんな感情が混ざり合ったような、でもそれでいて前を向いている。
「私たちは、いつも不完全なのですね……」
 ポチはこれに無言しか返してくれない。
「……さあ、優真を連れて来てくれ。もう話すことはないだろう」
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