第20話 冒険者としての厳守事項

文字数 1,961文字

 カウンターの上でギリアムが手を叩いた。すると“パン!”という小気味良い音とともに身分証が四枚出て来た。

「さあ、君達の身分証もできたようだ。そうだ! 後でもいいから自分たちが身に着けている物を一つ、ギルドへ持ってきてくれないかな。ギルドの紋章を刻まなくちゃならないんだ。それを終えたら君達も立派な冒険者だ」

 ギリアムが四人に身分証を渡し、それから急に思い出したように自分の頭を叩いた。「ごめん、最後にもう一つ大事な事を言うのを忘れていた」

「まだあるのか? 大事な事とやらは」ロッコが苛立たし気に言った。
「うん、最も重要な事なんだ。魔法について。もし君達がダンジョン内で魔法の巻物や魔導書を見つけ、そしてもしそれを売って換金しようと思ったら、まずギルドへ持って来て欲しいんだ。僕達がそれを適正な価格で買い取る。なぜそのような事になっているのかというとだね、違法な魔術の売買や横流しを防ぐためなんだ」ギリアムがシルヴィアを見つめる。

「君も分かっていると思うけど、魔法の乱発は僕達が住む世界に深刻な影響を及ぼす。マナ不足による生態系の崩壊もその一つだね。これによってある取り決めがなされたんだ。魔法を使う者は王国の宮廷魔術師やギルドの者に限られるってね。これについては君達エルフ、各森の長老達にも確認はとってある。魔法を一日に唱える回数も決めておこうかなんて話もあちら側から出たんだが、それには僕達人間側から反発があってね。揉めに揉めた挙句、とにかく魔法を扱う者を制限するという事で決着がついたんだ」

「各森の? エルフは国を持たないの?」マーサがシルヴィアに訊いた。

「エルフは国を持たないの。最初の統一国家が滅びて以降はね。フィス=ナートの王国魔術師であったインフィナドが、人間に魔法を教えた罪で国を追放されたのがきっかけで、国が分裂しちゃったの。それ以来、各地に散らばってみんな好き勝手にやってるわ。それぞれ異なる考えのもと、エルフの文化を守りながらね」

「どういった人達がいるの?」

「北には、統一国家フィス=ナートの教義を守りながら、極寒の中、厳しい環境に身を置いて生き抜くことを決めた白い肌を持つシルバーエルフがいるわ。西の島々には、温暖な気候の中、魔法に頼らず自然と共に生きていこうと決めたグリーンエルフがいる。自ら闇神リリスを信奉して地下で暮らすことに決めたダークエルフっていう奴らもいるわ」

「あなたは?」

「私達は光神ルシフェルを信奉しているの。自分たちをオーラムエルフって呼んでいるわ。主にロクス大陸の中央地帯と南方地帯で暮らしているんだけど……」シルヴィアが悲しそうに目を伏せた。

 ギリアムが話を引き継いだ。「南は、王国ブリガンドの宮廷魔術師の魔法で全て消滅してしまった。彼らが住んでいた森を含め全て、跡形もなく」

「もう元には戻らないのね」
「無理だろうね。そこを戻すだけのマナがない。先程も言ったと思うけれど、マナがない場所では生命を維持するのは不可能なんだ」

 マーサは改めて胸が締め付けられる思いがした。大きな爆発の後で炎に飲み込まれた大地。そこに住んでいた生命を一瞬にして焼き尽くすほどの灼熱の炎。彼らは痛みを感じずに死んでいけただろうか。そして果たして生き残りはいるのだろうか。街の外で見たあの四人。彼らはもしかしたら南の地の出身なのかもしれない。ドルイド僧とウッドエルフは森の住人、それにトロールは山や丘で暮らす生き物だ。彼らが人間の街に降りて来ること自体、不自然な物を感じる。もしかしたら自分たちの住む場所を追われた人達なのかも……。

 うなだれるマーサを見てギリアムがもう一度手を叩いた。「ほら、肩を落とさないで。そういう事が起きないようにするのが僕達の役目でもあるんだから。とにかく、そういう事もあって、魔法は厳重に管理されなきゃいけないと思うんだ。だから使わない巻物があったらここに持って来て欲しいんだ。魔術書は特に。勘違いしないで欲しいんだけど、他人の魔術書を使って魔法は覚えられないからね。魔術書はその持ち主のみが身につけた知識の集積みたいなものだから。簡単には他の人がそれを扱えるようには出来ていないんだ」

「だったら、なぜ?」
「僕達魔術師の中には、特級魔術師という者がいる。僕のマスターのような。彼らにとっちゃ話は別だ。彼らは簡単に魔術書から他者の知識を抜き出せるし、残念ながら邪悪な考え方をする奴もいて、それを自分の物にして悪用したりもする」

 マーサ達四人は顔を見合わせた。

 念を押すようにギリアムが彼女達を見た。「君達はやらないだろうとは思うけど、ギルドの中にはそういった物を横流しする奴らも結構いてね。見つけ次第、そういった輩は身分証を剥奪され、厳正な処罰を受ける。いいね、忘れないでくれ」

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