第11話 試練の洞窟 四番目の部屋 “美的感覚”

文字数 1,712文字

 直線に延びる通路の先にまた扉が見えた。ヤマトが調べ、鍵が掛かっていない事を確認し、開ける。その先の部屋は逆L字型となっており、こちらから見て右斜め前方には別の扉があった。ここは今までの部屋とは打って変わって、色々と雑多な物でごちゃごちゃとしている。動物の皮や骨、どこから集めてきたのかも分からないガラクタの数々。

「ゴブリン共め」ロッコが忌々しげに呟いた。

 見てみると部屋のそこかしこに、ボロボロのレザーアーマーに身を包んだ緑色の皮膚を持った生き物が数体、こちらを見ていた。その内の一体がロッコの姿を見るやいなや、怒りの叫び声を上げ、床に落ちていた錆びた包丁を掴んで彼に斬りかかってきた。
 
 シルヴィアが弓に矢をつがえ、その一体を見事に打ち抜く。しかしそれを合図に他のゴブリン達も、手にショートソードやら棍棒やらといった思い思いの武器を拾い上げ、マーサ達に襲い掛かってきた。

 七体のゴブリンがマーサ達を取り囲む。ロッコが盾を使いその内の一体を殴りつけた。盾の一撃を受けたゴブリンが顔をぐしゃぐしゃにして後ろへ倒れる。すぐさま彼はその隣にいたもう一体に、スラッシャーの斬撃を食らわせた。そのゴブリンはショートソードを使ってロッコの攻撃を防ごうとしたが、彼の力には敵わず、そのままソードごと叩き斬られてしまった。斧に宿る魔法の力のせいだろうか、あれほど強い衝撃で敵を斬ったというのに刃こぼれ一つしてない。

 ロッコに気を取られているゴブリンに、ヤマトがダガーで斬りつけようとした。しかし彼のその動きを狡賢そうに見ていた別のゴブリンが、手斧でそれを受け止めた。そして威嚇するように彼を睨み、癪に障るような声を出した。「ドワーフ、キライ。ドワーフ、コロス。エルフモ、コロス。オマエ、ハ、クウ」

「気をつけろ! こいつらは馬鹿じゃない。仲間意識もあるし連携もしてくるぞ!」ロッコが三人に聞こえるよう大声を出した。

 マーサの正面に棍棒を持ったゴブリンが立っている。マーサはシールドを前に出し隙がないように構えた。そのゴブリンは明らかに彼女かロッコのどちらを攻撃しようか迷っているようだった。

 マーサがすかさずそのモンスターの胸にメイスを叩きつける。そいつは血を吐きながらひっくり返り、別のゴブリンも巻き込んで床に倒れ込んでいった。藻掻き合って立とうとしているその二体の上から、マーサがさらに力一杯メイスを叩き込む。彼女の一撃が重なり合う二体のモンスターの顔を一緒に潰した。ゴブリン達は低いうめき声を上げながら痙攣を起こして動かなくなった。

 圧倒的な劣勢に追い込まれ、残りのゴブリン達が怯み始めた。マーサ達がじりじりと距離を詰める。追い詰められた彼らは金切り声を上げ、彼女たちが入ってきた扉の外へ、矢のような速さで逃げていった。

「なんて醜い生き物なの。それに臭いし」シルヴィアが顔をしかめながら鼻をつまんだ。

「お前さん、エルフは美しいものだと思っているのか?」ロッコが笑うように言った。
「美的感覚なんてものはそいつの主観でしかない。思い上がらん方がいいぞ」そう言いながら彼も、汚物でも見るかのような目でゴブリンの死体の一つを蹴り上げた。

「少なくとも私は臭くはないわ。それに私のこの美しい髪を見て醜いなんて言う奴がいるかしら」シルヴィアが髪をかき上げながら歌うように言った。

 確かに彼女の髪は美しい。何一つ灯りがないこの洞窟の中でさえ、その長い髪は光り輝いているように見える。それだけではない、毛先の一つ一つから花々の甘い香りも漂ってくる。

「ロッコ、お前の大好きな物があるぞ」ヤマトが部屋の隅を指差した。見てみると金貨が入った革袋が一つ床に転がっていた。

「美しさというのはこういう物の事を言うんだ」それを拾い上げ、ロッコが中身を数える。合計八枚の金貨が入っていた。

「これ、俺が全部貰ってもいいか?」

「駄目よ。ちゃんと四等分しなさい」怒るシルヴィアを見て、ロッコが三人に渋々金貨を二枚ずつ渡して寄こした。「俺ならいい使い道を知ってるのに」

「どうせギャンブルでしょ。あなたお金には目がないくせに、すぐ手放すんだから」シルヴィアがロッコを睨みつけた。

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