第9話 試練の洞窟 三番目の部屋 “エルフの謎かけ”

文字数 2,013文字

 今度は最初に選択した方とは反対の、左の通路を進んで行く。するとマーサ達は小さな円形状の部屋に出た。その中央に宝箱がポツンとある。そしてその宝箱の下には血のような赤い線で描かれた五芒星があり、それぞれの頂点から伸びた線が一本ずつ、部屋に突き刺さった五本の剣と結びついていた。マーサが何気なしにふと振り返ると、こちら側の扉の面に、文字で何か書かれているのに気が付いた。それは今までマーサが見たことのない文字だった。ルーン文字とも違うようだ。

「エルフの古代文字ね」シルヴィアが愛おしそうにその文字を撫でた。
「なんて書かれているの?」

 マーサが訊くとシルヴィアが文字に顔を近づけた。「ちょっと待って。私もこんな古い文字を読むのは久しぶりなの。えーと、何々? “種族の繁栄の道、優しからず。そは、痛みを伴うものなり。植えられし種が見事に咲く時、神は我らに微笑まん”」

 ロッコがもじゃもじゃの髭を搔きむしって唸った。「なんだそれは。謎かけの類か。これだからエルフは……。何でもかんでも物事をややこしくする。女エルフ、解けるのか?」

 ロッコの言葉は無視して彼女は扉を調べ始めた。「エルフというのはね、簡単に答えは示さないものなの。この世界には解明するには難しい謎がたくさんあって、それを解くのが私達の使命なの。あった!」

 彼女は扉の上に隠されていたスイッチを見つけ、それを押してみた。すると扉の下部にはまっていた板がすとんと外れる。四人が顔を突き合わせて下に目を向けると、縦三マス横五マスの文字版が姿を現した。それぞれのマスには同じ古代エルフ文字が書かれていたが、所々抜け落ちている箇所がある。マーサとヤマトは肩をすくめ合い、ロッコはいらいらした様子でまた一つ唸り声を上げた。

「もういいかげんにしてくれ! せっかく宝が目の前にあるというのに」

 シルヴィアが面白そうにロッコを見た。「そんなに焦らないの。解くという行為は答えを出すことがゴールじゃない。答えを導き出す過程をいかに楽しむかにあるの。一応忠告しておくけど、これを解くまで宝箱には触っちゃだめよ。あの宝箱を囲んでいる五芒星の物々しさ。わかるでしょう? 痛い目を見るわよ」

 シルヴィアはそう言って楽しそうに前髪をかきあげ、文字版の文字に触れた。すると彼女が触れてすぐ、文字が微かな光を帯び始めた。「なるほど、一つ一つの文字が呪力に反応するわけね。この盤全体がそうなっているみたい」

 彼女がそうやって調べている横で、ロッコが五芒星の周りを歩き回っている。

「馬鹿なことはするなよ」ヤマトからそう警告を受けてもなおじっとしていることができないのか、ロッコはまだかまだかとシルヴィアの周りを行ったり来たりしていた。

「わかったわ。これ、そこまで難しくないわよ」彼女がロッコにニコリと笑った。

「いい? それぞれ横の段には神の名前が当てはまるの。最初の段にルシフェル、光の神ね。2段目はアクィアラ、水の神。そして最後の段にハーディス、土の神よ。ここまで来たらわかるでしょ?」シルヴィアがマーサに向かってウインクをした。

「わかるのか?」ロッコがマーサを見ながらゴクリと喉を鳴らした。

「そうね……、えーと、エルフ文字に確か“植えられし種が見事に咲く時”ってあったわよね。種を蒔いて花がどう咲くかを示しているのかしら? つまり、日の光、ルシフェル。成長に必要な水、アクィアラ。そして種を蒔く土壌、ハーディス」

 それを聞いてシルヴィアが手を叩いた。

「正解! いい? 最後の文でこうも言っているわ。“神は我らに微笑まん”って。これを書いているのは誰? エルフ文字なんだからもちろんエルフよね。抜け落ちた文字を一つずつ繋いでいくと……、一段目に抜け落ちているのは、三文字目の、フ。二段目は四文字目の、ィ。そして最後の段は、五文字目の、ス。フィス=ナートのフィス。エルフの初代統一国家よ」

 彼女はそう言ってその抜け落ちた箇所の上から、指で文字をなぞり始めた。すると中央の宝箱からカチリという音が聞こえた。錠が外れた音だ。

「ヨシッ!」宝箱に駆け出していくロッコの背中にシルヴィアが声を掛ける。「ねっ! 私がいてよかったでしょ!」
 
 三人がロッコの後を追っていくと、宝箱を我先にと開けたロッコが小さな悲鳴を上げた。

「どうした! 罠か!」ヤマトがすかさず彼に駆け寄る。心配になったマーサとシルヴィアも一緒に走っていった。

 ロッコが宝箱の前でうなだれている。マーサ達三人がその中を覗き込むと、そこには三枚の小さな金貨があるだけだった。

「あれだけ苦労したのに……」余程ショックだったのだろう、彼は持っていたシールドを床に落とし座り込んでしまった。

 シルヴィアがその彼の横でため息をついた。「あなたは何もしなかったでしょう。それに繁栄の道は優しくないって書いていたでしょ? ほら、立って。みっともないことするんじゃないの」

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