第66話 永遠

文字数 753文字

「ねえ、ヴェロス?」
「はい」

「私、今とっても幸せよ」
「はい」

「でもね、その反面、怖くもあるの」
「……」

「この幸せがいつか終わっちゃうんじゃないかって」
「……」

「そう考えるとね、どんどん深みに嵌っていくような感じがするの。失いたくないから後ろばかり見て、今度はそうする事が恐ろしくなって前ばかり見ようとする。そうやって、いつの間にか目の前が見えなくなって、一人ぼっちになったような気がするの」

「……」

「そんな時、私がどうするか分かる?」
「どうするのです?」
「あなたの事を思い浮かべるの」
「……」

「あっ! 今笑ったでしょう」
「いえ」

「いえ、今あなたは確かに笑ったわ。どうせ、子供っぽい奴だとでも思ったんでしょう。……でもね、そうすると、すごく気持ちが落ち着くの。木々のざわめきの中に、貴方の声が聞こえるような気がして。静かに揺れる湖の水面に、あなたの顔が見えるような気がして。あなたがいない時なんかは、よくそうするのよ。迷惑かしら?」
「いえ、光栄です」

「きっと、永遠ってそういうものなんだわ」
「……」

「だから、だからね……、もし、もしもよ。もし、私に何かあったら……」
「そうならないようにするのが、私の務めです」
「いいから聞いて。もしそうなったら、私の事を思い出して欲しいの。そよ風の中に私の声を聞いたとしたら、それは私。流れゆく雲に、私の面影を見たとしたら、それも私。いい? 約束して」
「サプリナ様はお疲れなのです。どうか、そのような事を口にするのはお辞め下さい」

「いいから約束して」
「……はい」

「よろしい。それからもう一つ。もし、前も見えなくなって、一人で泣いているような者がいたとしたら、その者の手を握って上げて欲しいの。あなたは一人じゃないと言って。そうするのは当然の事でしょう? だって、私達は――」

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