第5話 マナの色

文字数 961文字

「ねぇ、シルヴィア。色って何なの?」ヤマトに促されながら部屋を出る途中で、マーサはシルヴィアに色について聞いてみることにした。

 シルヴィアが得意げにフフンと鼻を鳴らす。「神に仕える神官でも知らないことがあるのね。いいわ、教えてあげる。色について知るには、私達とマナの関係性について知る必要があるわ。死後、私達がどうなるか知っているわね」

 シルヴィアに訊かれマーサは頷いた。「もちろん。大体のところは。人は自分の体の中に魂とマナの両方を持っている。私達は生まれながらにして使命を持っていて、それが果たされるまでは本当の意味で死ぬことができない。短いその人生の中で使命を果たせなかった者は、次に生まれてくる新しい生命にその魂を宿しそれを果たそうとするのよね」

 シルヴィアは“正解”と言わんばかりに満足そうに頷き話を続けた。

「魂は神の御許に返り、また彼の御手によって返される。だけどマナは違う。マナは生物が死んでもこの世界に残り続ける。そうやってこの世界のあらゆる生命活動を維持し続けるのに使われるの。この世界のあらゆる所にマナは存在する。それを取り込むことで私たちは生きていられるの。簡単に言えば活力ってやつね」

「そしてそれには色がついているのね?」

「ええ。風や木や花々、大地の香りの中にさえ、それは存在しそれぞれ異なる色を持っている。それは生前宿っていた者が抱いていた感情といった物なのかもしれないわ。喜びや怒り、悲しみや恐れ、等といった物ね。私達魔道に携わる者達は、その色を見極め触れることで初めて魔法が使えるようになるの。調理師が食材を見定めるように、吟遊詩人がその楽器の音を調律するようにね」

「だがそれには重大なリスクを伴う。なぜなら……」前方に目を据えたまま歩いていたヤマトが口を挟んだ。
「なぜならそれは、この世界を循環するマナの枯渇へと直結してしまう。魔術師達が魔法を使いすぎると、必然的に世界は生命を維持する機能を失ってしまうからな」

 シルヴィアは少し驚いたように彼を見た。「あなた意外と物知りなのね」
 ヤマトは肩をすくめた。「考えてみれば誰でもわかることさ」

 そう言う彼の声からは感情を読み取ることができなかったが、ランタンの光の中でちらりと見えるフードの下の顔から、彼の魔術師に対する侮蔑の表情が見て取れた。

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