第106話 ご飯の炊き忘れ

文字数 1,235文字

「ヨネ子ちゃん……」

 湖上でのフサ子さんの言葉を思い出して、私は眼の前のレプレプ星人に質問した。

「ヨネ子ちゃんは無事だったんですか? 過激派に拘束されたって、フサ子さんが」
「それは虚言です」
「え?」

 眉根を落としたモヒカン男は、静かに首を振った。

「騙されたのですよ。あなたも、フサ子もね」
「騙された」

 にゅーんという音とともに、白い床から白い椅子が生えてきた。私をそこへ座らせると、和田さんが説明を続けてくれる。

「フサ子がかつて所属していた過激派側の組織。この組織はヨネ様によって解体され地球から追放されていましたが、一部の残党が私達の目を逃れて日本に残っていたことは本当です。この男、見覚えありませんか?」

 和田さんが白衣のポケットから一枚の写真を取り出した。そこに写っていた人物を、確かに私は知っていた。

「昼間会いました。イカタコ亭で、フサ子さんと一緒にいた……」

 あのスーツ姿のイケメンだ。

「フサ子の元上司ですよ。ヨネ様を拘束したなどと根拠のないネタでフサ子を操り、あなたと秋月くんを危険に晒したのです」

 やっぱりあの時、フサ子さんが元気がなさそうに見えたのは気の所為ではなかったのだ。あの時には既に、ヨネ子ちゃんが拘束されたと聞かされていたのだろう。

「ヨネ子ちゃんは過激派に拘束なんて、されてなかったんですね?」
「もちろんです」
「ヨネ子ちゃんはボクと一緒に、マイム・マイム会合に参加してたんですよ」
「あ、やっぱり?」

 八幡ちゃんはニコニコ顔で、「うんうん」と頷いている。

「ボクたちおそろいで鬼のコスプレしたんですよ。ボクは赤鬼で、ヨネ子ちゃんは青鬼。ヨネ子ちゃんの虎柄のワンピースも、ボクが仕立てたんです!」

 えっへんと胸を張って自慢げなパカパカ星人を見ていたら、私は「ふふふ」と笑いだしてしまった。すごく怖い目に遭った気がするのに、些細なハプニングに思えてくる。

「マイム・マイム踊ってたの?」
「はい。夜が更けて、参加するエイリアン達が続々と来場していた頃でしたよ。『小河内ダムに大量の時間球が浮いている』と報告したエイリアンがいたんです。そのエイリアン、ポロポロ星人って言うんですけどね。モモンガに擬態した彼女が会場に向かっている途中で見つけたんですよ」
「そうなんだ!」

 なるほど。どうして今私と秋月くんがここにいるのか、察しがついてきた。

「そもそも何もなければ、小河内ダムに時間球が浮いてるなんてこと、ありえませんからね。あの湖は時が止まってますから。しかも見つかった時間球は大量だというではありませんか。収集ついでに、皆で様子を見に行こうということになったんです」
「それで私と秋月くんを見つけてくれたの?」
「そういうことです! いやー、ビックリしちゃいましたよ。湖の真ん中で悠里ちゃんが気絶してるし、一馬くんがバタ足してるんですもの」

 まるで夕飯のご飯を炊き忘れた話をするかのように、八幡ちゃんは「ビックリしたなぁ、ほんとに」と説明を締めくくったのだった。
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