第18話 クラブサンド

文字数 1,200文字

「無責任だって思います? でもお二人は大丈夫ですよ」

 小さなエイリアンはケタケタと笑う。

「一馬くんはボクの時間収集キットを使いこなせるくらい賢くて、受け入れることが上手いヒトだ。そして悠里ちゃんは今どき珍しいくらいの、マイペースなのんびり屋さん。しかもなかなかのポジティブシンキング! あなた達二人は結構な強力コンビですよ。おそらく今後日本の時間が加速しきって、多くのヒトの時が枯渇しても、お二人はほぼ無傷でいけるでしょう」

 賢いモヒカンが私を見た。秋月くんは今、どんな感情で私ことを見てるんだろう。私の方は、「ああ。やっぱり秋月くんって、宇宙人から見ても賢いんだ」って思ってるだけだけど。

「ふうん」

 秋月くん、さっきまで眉間にシワが寄ってたけど、今はすっかり落ち着いた表情だ。受け入れるのが上手いって、エイリアンに言わしめるだけある。

「時が枯渇した地球でも、俺と悠里は生き残れるって?」
「時の枯渇が起こったからって、人類が突然絶滅するってことじゃないですよ。のんびり屋の多い地域も地球上にはあるし、そういう人々にとっては、時の加速なんて無関係の出来事なんです」
「でも日本じゃ少数派なんだろ」
「そりゃもう」
「へえ。おもしれーじゃん」
「そうかな⁉」

 ついに余裕そうに笑い出した秋月くんだったが、私は思わず突っ込んでしまった。

「いいじゃん。他のヤツらがみんなせかせかしてる横で、俺らはのんびりやっていけるんだろ。そうだな、どうせ俺達だけ時間があるなら、集められるだけ収集してみるか。時間球」
「え?」
「時間って、貴重なエネルギー源なんだろ。説明書に書いてあった」

 秋月くんは長い足を組み替えながらクラブサンドをかじり、コーラで流し込んでいる。

「はい。時は少量で膨大なエネルギーを含んでいます。様々なものに変換できる、本当に便利なエネルギーなんですよ。地球人は単純に『時間』としてしか使いませんけどね」
「色んなエイリアンがこぞって収穫に来るくらいなんだから、その価値は他の種のエイリアンにとっても同じなんだな?」
「もちろんです」

 ニッと笑った秋月くんの顔からは、もう八幡ちゃんへの警戒心も緊張も感じ取れなかった。

「じゃあ(カネ)と同じだな。貯めといて損はない。エイリアンとの取引にも使えそうだ」
「秋月くん、何考えてるの?」

 本当に彼の考えていることが分からない。ただ分かるのは、秋月くんの声が何だか楽しそうということだ。

「時を貯蓄する。俺達で」
「……俺達というのは?」
「俺と、悠里と。八幡、お前も一緒にどうだ」
「ボクですか?」

 八幡ちゃんはキョトンとした顔をしたが、頷く秋月くんを見て、みるみる瞳を輝かせ始めた。

「何か他にやることでもあるのか?」
「何もないです! 地球人観察だけが趣味の、暇パカパカ人ですのでっ!」

 決まりだな、と秋月くんは満足げに笑い、最後の一切れのクラブサンドを、八幡ちゃんに手渡したのだった。
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