第108話 方向音痴

文字数 980文字

「それと悠里さん。あなたは既に時間球を見ることのできる目をお持ちだったので、別の贈り物をさせていただきました」
「え? 私にも?」
「もちろんです」

 和田さんは、じっと私の目を覗き込んできた。

「――――あ」
「悠里?」

 心配そうな秋月くんの声が聞こえる。そしてそんな彼の声と同時に、頭の中で和田さんと八幡ちゃんの声が響き渡っていた。

(悠里ちゃんも何か言ってみてください。頭の声で)
(私達の声は確かに聞こえていますよね? 返事をしてみてください。考えるだけでできるはずです……あなたの思念を、私と八幡さんに飛ばすのです)

「えっと。もしかして……私にくれた贈り物って」

(テレパシーを使えるようにしてくれたの?)
(その通り!)

「えー‼」

 突然大声で叫んだので、秋月くんが身体をビクつかせた。

「心の声、ダダ漏れじゃん!」

 確かにさっき湖で寒くてピンチだった時、テレパシーを使えたらいいなとは思ったけれど。考えたことが何もかも聞こえてしまっていたら、それはちょっと恥ずかしい。

「大丈夫です。テレパシーを使うことを確実に意識の中で決めてからでないと、思念が他者に飛ぶことはありません」
「そうなの?」
(手紙を封筒に入れて、宛名を書いて切手を貼るイメージを持つといいですよ。平気ですよ、悠里ちゃん。今に慣れますから)
(そっか。良かった)
「そうそう、その調子です」
「あ」
(ほんとだ。結構簡単かも)
「悠里?」
「秋月くん、私ね」
(テレパシー使えるようになっちゃった!)
「悠里さん、今の私に飛ばしましたよ」
「あれっ」
「ふふふ。悠里ちゃん、もうちょっと練習が必要かも知れませんね」
「ま、まじか……ねえ、変なメッセージ飛ばしちゃっても、聞かなかったフリしてね……?」
(承知しました)
(おっけー!)
「悠里」
「あっ、秋月くん。私さぁ」
(テレパシー使えるんだよ!)
(悠里さん、良かった。目が覚めたのですね。お元気そうで本当に良かった)
「あっ。ヨネ子ちゃん! って、私今、ヨネ子ちゃんにテレパシー送ったの?」
「悠里。さっきからどうしたんだ?」
「悠里ちゃん。やっぱり結構練習しないと、ダメかも知れません。思考が方向音痴すぎます」
(そんなぁ……)

 むぐぐと口を抑える私を見て、八幡ちゃんが「頑張りましょう!」とガッツポーズを作っている。和田さんと三人のレプレプモヒカン達は、控えめにクスクス笑ったのだった。
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