第20話 帝都観光奇譚

文字数 1,292文字

「報告は以上になります」
「ご苦労だった、だが……

お前たちは何故ここにいる?今日明日と休みのはずだろう」
朝も9時前、執務室には部屋の主とその従者に加えて休みのはずの秀貴とその補佐官がいた。
「はい、ですが早めに済まそうと思いまして」
「……まったく、休みは仕事をするな」
秀人のその言葉に隣の沖津は何かものすごく言いたげな顔をしていたが秀人が気づく素振りもなく。その間秀貴と補佐官は顔を見合わせて唸っていた。
「急に2日休みって言われてもね〜秀貴さん、西欧の医学書でも読みますか?」
「ああ、それと訓練を増やす」

見かねた秀人は少し待てと、デスクから茶封筒を取り出すと2人に手渡した。
「勉強代だ。持っていけ」
茶封筒の中にはそこそこな厚みの札束が入れられており、中を見た秀貴はギョッとして秀人に封筒を返そうとした。
「いえ、受け取れません。軍からの支給は受けておりますし、毎月貴方から小遣いもいただいております」
「勉強代は別だ。お前とそこの男の分もだ」
「ですが」と食い下がる秀貴にまあまあと補佐官は割って入ると「くれるって言うなら貰っといたらいいらしいですよ〜」と秀貴の手から封筒をするりと抜き取った。
「で、これでどうします?人を雇うには安すぎますよ。それにこれだとどれくらい情報屋から聞き出せるか……」
おい、と秀人は声を上げる。この男はてんで使い道がわかっていない。
「何しようが勝手だが、俺の想像の使用用途は何か好きなものを買うとか街で飲み食いするとか、そういったことだ」
成程と2人そろってその発想は微塵もなかった様子に秀人と沖津は呆れたような安心したようなため息を漏らす。
「この2人がまともに休日を過ごせないのは俺のせいか……」
「ど、どうなんでしょうね……」

「そういえばあまり都に出たことはないな」
「それなら俺詳しいですよ〜闇商人の商業区画とか国外への脱出経路とか案内しますね」
「やめろ。少なくとも今日明日は行くな」
頭痛がしそうな秀人と心配が尽きない沖津とに見守られながら2人の観光は始まった。


軍服ではまずいだろうと家に帰された2人はシャツとスラックスに着替え特に当てもなく都を彷徨うことにした。なにせ補佐官の提案は秀人によって却下されたため行く当てがなくなったのだ。
「その帽子毎回かぶってますよね。お気に入りですか?」
「ああ、父さんからいただいたものだ。街を歩くときは顔をあまり見せないようにと。真木の顔はよくわかるからな」
「大変ですね有名人も」
「僕はさして。大変なのは父さんだ」

「僕には父さんも沖津さんも、お前もいる。大変なことなど何もない」
はっきりと告げられ面食らう男など気にならない少年の歩は止まらない。
「まあそうですね。俺がいるんです。帽子なんかなくても外を歩けますよ」
その男の言葉に少年は少し口角を上げて帽子のつばを弄った。

「これは気に入っているから被るけどな」
「いいですね〜。そうだ、俺にもくださいよ。俺も帽子がいいな」
「わかった。そうだお前、支給服しか持っていないだろう?丁度良い機会だ、服も買いに行くか」
「いいんですか?」

当てもなく彷徨う休日は思いのほかすんなりと予定が決まった。
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