第13話 決意

文字数 797文字

「お前はもっと無口な男だと思っていた」
「俺もそう思ってました」

「それに何故姿を見せた?お前なら隠し通すこともできたはずだ」
「う〜ん、どんな姿でも、俺が何をやっても皆俺のこと“陸軍特務隊隊長補佐官”だと思うでしょう?それなら素の姿であっても何の問題もないかと思いまして……それに、こっちの方が貴方や秀貴さんは信用すると思って」

元々は姿は隠す気でいたものの衣食住を共にするとなると難しくなった。しかしありがたいことに“補佐官”という設定があったためこうして日夜元の姿でいても任務に不都合はないという訳だ。

「秀人さん、俺は喋るのが楽しくて仕方ないんですよ。ここに来てから。仕事の話なんか楽しいとか楽しくないとか考えたこともなかったのに」
会話なんてまともにしたことがなかった。否、仕事となると別だが、雑談なんて碌にしたことがなかったし必要だとも思わなかった。こんなに誰かと話すのが楽しいなんて思いもしなかった。

「俺は少し、諦めというか面倒になったんです。もう、姿を隠さなくてもいいかな〜って」
「何故だ?暗殺者が姿を見せるのは都合が悪いだろう」
「姿を見られても殺せばいいのでそこはいいんです。ただ、このまま誰にも知られないで死んでいくのって嫌だな〜って思ったんですよ」

「本当の俺なんて始めからないんです。でもただ名前だけ独り歩きして姿も中身も誰にも知られないままどこかで一人死ぬのは嫌なんです。そう思ってた時、貴方が来て、長期の依頼を持ってきた。秀貴さんの依頼です」
「貴方が俺に居場所をくれて、秀貴さんと沖津さんが受け入れてくれたから俺には綻びができた。完璧で姿のない“鬼蜘蛛 轟 至宝”が人の形を得たんです」


「お前にとって、ここの生活が良いものなら良い」
「ええ、とても」

「この生活を続けられるなら何だってやりますよ」
零下も下回りそうな気温の中、熱せられた執着と全てを凍らせそうな意志が夜の闇を支配した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み