第12話 遺されたもの
文字数 953文字
夕食を食べ終え、沖津と補佐官が片付けに専念している傍ら残された親子は沈黙の中にいた。黙って出された茶を飲み続けているなんとも居心地の悪い雰囲気である。
秀人が空の器に口をつけているところを見た秀貴は次の茶を持ってくると立ちあがろうとするも止められてしまう。
「俺が家を空けていた間変わったことはなかったか」
そう問われ秀貴はすぐに「なかった」と答えると「そうか」という短い返事で会話は終わる。
秀貴には父の考えていることが分からなかった。元々喜怒哀楽の激しい人ではないというのもあるが、過去のこともあってとても気まずいのだ。
過去、そう、秀貴が生まれたころ。秀貴が生まれたことによって秀人の妻も、親も、その他親族も奪われた。
秀貴の身に宿す妖怪“鬼蜘蛛”によって。
その話を聞いた時は血の気が引いた。そして父の自分へ向ける含みのある感情が理解できた。父は、自分を恨んでいるんだろう。
「何か不便なことはないか」
思考に耽っていたところいきなり声をかけられて声がうわずってしまう。「ありません」と言うとまた短い返事が返ってくる。
「お前に渡すものがある」
と立ち上がり書斎へ向かう父がこいと言うので後ろからついて行った。
「これは……料理帳ですか?」
綺麗な手帳を手渡された秀貴は中をめくると丁寧な字でおかずから菓子まで様々なレシピが書かれていた。
「そうだ。お前の母が書いたものだ。持っておけ」
「そんな大事なものいただけません。……これは形見でしょう?」
「形見だからだ。家にまともに帰れない俺が持って埃を被らせるより、家にいるお前が持って使った方が“それ”も良いはずだ」
「僕に、これを受け取る権利はありません」
「権利ならある。それはお前の母のものだ。ならば息子のお前が持つのも筋がある」「ですが……」
「お前が気にすることは何もない」
そう言うと父は書斎を出て行ってしまった。そこに残されたのは秀貴と形見の手帳だけだった。
休日の午後、台所に立つ秀貴に補佐官は興味深そうに声をかける
「それなんですか?」
「……母の料理帳だ」
補佐官に手渡すとパラパラとめくり「これ俺も見ていいですか?これだけ詳しく書いてあれば一人で作れます」
「いい。その方がいい」
「貴方のお母様は料理上手な方だったんですかね」
「さあ……」
「今度聞いてみてもいいのかもしれない」
秀人が空の器に口をつけているところを見た秀貴は次の茶を持ってくると立ちあがろうとするも止められてしまう。
「俺が家を空けていた間変わったことはなかったか」
そう問われ秀貴はすぐに「なかった」と答えると「そうか」という短い返事で会話は終わる。
秀貴には父の考えていることが分からなかった。元々喜怒哀楽の激しい人ではないというのもあるが、過去のこともあってとても気まずいのだ。
過去、そう、秀貴が生まれたころ。秀貴が生まれたことによって秀人の妻も、親も、その他親族も奪われた。
秀貴の身に宿す妖怪“鬼蜘蛛”によって。
その話を聞いた時は血の気が引いた。そして父の自分へ向ける含みのある感情が理解できた。父は、自分を恨んでいるんだろう。
「何か不便なことはないか」
思考に耽っていたところいきなり声をかけられて声がうわずってしまう。「ありません」と言うとまた短い返事が返ってくる。
「お前に渡すものがある」
と立ち上がり書斎へ向かう父がこいと言うので後ろからついて行った。
「これは……料理帳ですか?」
綺麗な手帳を手渡された秀貴は中をめくると丁寧な字でおかずから菓子まで様々なレシピが書かれていた。
「そうだ。お前の母が書いたものだ。持っておけ」
「そんな大事なものいただけません。……これは形見でしょう?」
「形見だからだ。家にまともに帰れない俺が持って埃を被らせるより、家にいるお前が持って使った方が“それ”も良いはずだ」
「僕に、これを受け取る権利はありません」
「権利ならある。それはお前の母のものだ。ならば息子のお前が持つのも筋がある」「ですが……」
「お前が気にすることは何もない」
そう言うと父は書斎を出て行ってしまった。そこに残されたのは秀貴と形見の手帳だけだった。
休日の午後、台所に立つ秀貴に補佐官は興味深そうに声をかける
「それなんですか?」
「……母の料理帳だ」
補佐官に手渡すとパラパラとめくり「これ俺も見ていいですか?これだけ詳しく書いてあれば一人で作れます」
「いい。その方がいい」
「貴方のお母様は料理上手な方だったんですかね」
「さあ……」
「今度聞いてみてもいいのかもしれない」