内田という男

文字数 1,290文字

俺は内田浩、階級は陸軍大尉。そこそこの名家の次男坊で、健康な体に顔は結構ハンサムで50手前の今でもかなりモテるんだぜ?ただ初恋の子が忘れられなくてこの歳になっても独身貴族様してる一途な男なんだ。好きなものは煙草と酒、映画もよく観るなぁ、それとこうして喋ることも好きだよ。

「そう体の良いこと言って若い女の子を誑かしてるのね」
「おいおい誑かすなんて誤解だぜ?三ケ坂さん。ほんとだって」
訝しげな三ケ坂に笑いながら眉を八の字に曲げる内田とへぇと相槌を打つ補佐官は昼休みに特務隊室に膝を並べていた。
「俺は一途で誠実な男だから手酷く振ったり気持ちを利用したりしないからな?いっつも真摯な態度で一人一人真剣さ」
「一途で誠実な男は火遊びはしないもんよ」
三ケ坂に突っぱねるように鼻で笑われた内田は隣の補佐官に助けを求めるも補佐官は話にいまいちピンときていないようで「なんの目的でそんなことするんですか?」と聞き始める始末。
「そりゃ独りは寂しいだろ?」
「その“初恋の人”はどうしたんですか?」
「あー……」
表情を曇らせ露骨に話しにくそうにする内田。するとさっきまで適当にあしらっていた三ケ坂はその内田の態度に興味が出たのか「もしかして誰かと結婚しちゃったとか……?」と聞き始める。
「まあね、俺の全然知らん人と結婚しちゃって……あぁ俺が結婚したかったなぁ……もうずうっと真木さんのことが好きで俺なんて眼中になかったし色々と無理なんだけど」
と肩を落とす内田を見て、気の毒そうな目を向ける三ケ坂とへぇ〜と納得する補佐官は内田へ次に投げかける問いを模索していた。
「まあでも、こうやって影のある男の方が魅力的だろ?」
パッと顔を上げた内田は慣れた様子で片目をパチっと閉じて見せた。その姿に「心配して損したわ。50目前にしてそんな落ち着きのない人は地位があっても名家の生まれでも顔が良くても私は無理」と三ケ坂は棘を沢山ぶつけまくり、内田は涙目になっていた。


「そういえば、貴方って秀人さんや沖津さんと親交が深かったのだと聞きました。良ければ話してもらえませんか?俺とうちの隊長に」
という補佐官の頼みを快諾すると補佐官は続けて
「あと気になるのが、貴方や沖津さんから聞く佐々木さんの話が他の兵士から聞く印象と異なっているんですがそれは何故ですか?」と内田に疑問を投げかける。
「……あいつは猫かぶるの上手かったからなぁ。未だに『あいつは誰かに利用された』って言ってる奴がいるくらいには」
「私も聞いたことあるわ。随分部下に慕われていたようじゃない」
三ケ坂の言葉に内田は真っ直ぐ
「俺や沖津さんの話をあいつらにしないでやってくれないか?あいつらのためにその信じている幻想を破らないでほしい。それに…………
佐々木が何十年かけて塗り固めた嘘をぶっ壊さないであげてくれ。あいつを擁護するわけじゃないが、それだけは頼む」と願いを静かに口にした。性格も真反対なはずの内田が佐々木と仲が良いという話は軍内では有名な話で、2人も内田の心中を察し頷いた。

内田の言う「一途で誠実」という自己評価はあながち間違いではないのだろう。
私生活に目を瞑れば。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み