第11話 見えない真実

文字数 808文字

秋は過ぎ去り冬も本番となった頃、都には細雪もちらつき人々の口から白い吐息が漏れる季節。
スパイの件で混沌を極めた軍内だがこの頃になってようやく一段落した様子を見せ、秀人と沖津は久方ぶりの帰宅となった。
「俺も調べたんですけどあの佐々木少佐、北国で出世する気もなかったみたいですね。完全に私怨で、貴方を貶められれば良かったんですね〜」
「世の中には変わった奴がいる……」
疲弊した声の秀人に秀貴と補佐官は同情するような目を向けていた。
「ようやく腰を据えて食事ができる……」


沖津が用意した夕食を食べ終え、沖津と補佐官は早々に片付けへ取り掛かった。
沖津に佐々木少佐は拘留中の様子を聞くと目に見えて顔が厳しくなった。
「あの男には反省の色は見えませんでした。悪事が明るみに出てもそれはそれで良かったのでしょうね……きっとあの男の本懐は自分の人生を変えることだったんですよ」
「スパイは極刑でしょう?まぁ人生が変わるのは変わりますが……秀人さんの人生を終わらせるか、自らの人生を終わらせるか二択しかなかったんですね」
「長年積もり積もった感情はそう簡単には消えませんからね。大したことない小さな積み重ねが自他の命を左右するくらい大きな力になるものです」

「大変ですね。そんなに秀人さんに執着して」そんな簡単な感想が出るとふふっと沖津に笑われる。
「それは私も同じですから……佐々木のことは笑えませんねぇ」
そうなんですか?と洗い物の手を止める補佐官に沖津は微笑みながらえぇと答える。
「あの人は私の運命の人ですから」
「運命ですか?」「はい」
「私の全てです。私はあの方のために生まれてきましたから」
「佐々木の言うように“真木に狂わされた”のは沖津家に生まれた者皆でしょう……」

「それはきっと貴方もです、補佐官殿」
水道の蛇口から流れ出す水音がやけに響く。信じがたい真実を隠すためか、際立たせるためなのか大きく響くその音にただ沖津の顔を見るしかなかった。
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