第245話 再開! 園芸部 Cパート

文字数 6,709文字

 私と理沙さんと彩風さん。そして優希君と冬美さんの組み合わせで活動を始めたのは良かったけれど
「おいロリコン。さっきの返事はどうしたのよ、まさか大の大人が口先だけなの?」
「ちょっと待ってくれ! そんなこと……言ったってこれ。ものすごく重いんだぞ? 男だからってこんなの軽々しく――」
「――優珠。力のない男性だっているんだから、男だとか女だとか言わない。優珠の気持ちはお兄ちゃんと同じだからよく分かるけど、女だからって言われるのが嫌いな優珠だったら分かるよね」
 息をつくようにして先生が置いた土を、そのまま涼しい顔をして持ち上げた優希君に、さすがに周りの女の子全員が感嘆のため息を吐くか黄色い声を上げる。
 朝の優希君の教室の雰囲気を思い出せば、お昼の私の教室と言い今の雰囲気と言い、明らかに優希君にとって良いのは分かるけれど
「それじゃ理沙さんも彩風さんも早く始めよっか」
「……」
 面倒臭い私の心がそんなので納得する訳が無い。
 周りにいる二人の可愛い後輩以外の視線を感じながら、まずは園芸の活動を始める。


 園芸と言うか、華道を通して植物のアレコレを知っていた冬美さんと優希君に土の補充をお任せして、こっちは三人で軍手をしながら雑草を手当たり次第抜いて行く。
 途中で勢い余って植えていた植物を抜いてしまった時はさすがに冬美さんに嫌味を言われたけれど、落ち込んだままの優希君は冬美さんをたしなめる事無く、雑草抜きだった私はお先に一通りの作業を終えて、雑草についていた分減った土を補充する冬美さんと優希君の仲の良さそうな二人を手伝う事なく眺めていると
「いやぁ愛先輩。やっと雪野よりあーしの方が使い勝手がいい、好きだって気付いてくれたんですね」
 終始私と活動出来た喜びからか、私の手を取って満面の笑顔で喜んでくれるけれど、
「いや、使い勝手って……中条さんって、好きな人を前にすると舞い上がって周りが見えなくなるんだね」
 確かにこれだけの舞い上がりようだったら、男の人に良いようにされてもおかしくないくらい不安を感じはする。一方で落ち着きを取り戻した彩風さんは、私たちから少し離れた花壇のふちに腰を落ち着ける。もちろん座る時も全く隙を見せずに。
 もちろん私だって目の前に優希君は良いとして、先生もいるんだから腰を落ち着ける際にスカートを絞った上で、股の間に目隠しとなるカバンを置くのも忘れない。
 当然私たちの会話が聞こえるはずの二人は、何かを言いたそうにはしているけれど、
「理沙さん。私は冬美さんとは使い勝手が良いからとかで友達をしているわけじゃないよ。冬美さんは私にとって頭の固いとっても可愛い後輩の上、私には出来なかった優希君を元気づけてくれたんだから『――』友達をしているの。だから損得や利害関係だけで友達付き合いをしているわけじゃないよ」
 まずは理沙さんの手を離して、私なりの冬美さんへの気持ちを改めてみんなの前で伝える。
「ちょっと空木先輩。どう考えても愛美さん怒ってるじゃないですか。愛美さんが怒ると後が大変で、愛美さんが泣くと周りが怖いんですから早く何とかして下さい。それにこんな場面を妹さんに見られたら――」
「――雪野さんの言いたい事も分かるけど、でも重たい土を雪野さん一人に運ばせる訳にも……愛美さんならその辺りの適正も考えて僕をこっちにしてくれたんだろうし……」
 なのに私を理解してくれるのは優希君一人だけで十分なのに、よりにもよって冬美さんが私を面倒臭い人扱いするし、優希君に至ってはこんな時でも変わらず、私の足元と言うかカバンの辺りを見ながら中途半端に私を理解してくれていると示してくれるし。
「そうでしたね。聖女である愛先輩がそんな低俗な考え方はしませんでしたね。そのお詫びと言っては何ですけどこのゴミ。全部持っていきますね」

 なのに私のすぐ隣、くっつくほど近くに腰掛けた理沙さんはどう考えても私を美化しすぎているし。
「待って理沙さん。いくら何でも後輩の女の子だけに任せる訳にはいかないから私も手伝うよ――彩風さんも。一緒に来てくれる?」
 ただ先輩として、私を慕ってくれる可愛い後輩を一人にする訳にはいかないからと、付き添いを申し出ただけなのに、また冬美さんは嫌そうな顔をするし。


 それでも二人はまだ作業をしているのに、私たちだけが休むのもアレだからと、彩風さんを含む三人でゴミ袋をすべて焼却炉に持って行って戻って来ると、
「岡本っ! 助けてくれ! アイツ――空木妹をどうにかしてくれ!」
 血相を変えた先生に両肩を掴まれ、揺すられた私。
「……」
 その現場を始めから目撃した優希君が、嬉しい事に雰囲気を変え、
「愛美さん! お願いですからこれ以上性格の激しい妹さんに刺激を与えないで下さいっ!」
 おおよそ園芸部では縁のない言葉を口にしながら私に抱き付いて来る冬美さん。
 今日が初対面とは思えないくらい合った息で私に抱き付いて来る二人。
「――?!」
「えぇ……」
 その二人の言葉と反応に誘われるように、優珠希ちゃんを見やると寝不足も祟っているのか、真っ赤に充血した目にその状態と一目で分かる怒らせた肩に釣り上げた目の優珠希ちゃんが目に入る。
 ただその態度とは裏腹に、心と言うか感情は乱れているのか、あの足の竦むような雰囲気にまではなっていない。
 ただあまりやり過ぎて、完全にへそを曲げた優珠希ちゃんが、本気で口を閉ざしてしまったらそれはそれで誰も望まない展開になってしまうからと、
「私たち女の子三人だけの方が早く終わったから、ゴミもこっちで捨てといたけれど、今後の園芸部の方針とかどうするかとか決まった?」
 その為の話し合いの結果を聞いたはずなのに、
「おいこら真っ黒! こんなメスブタとお兄ちゃんを二人きりにするわ、こんなロリコンを顧問にするわ、アンタは一体何を考えてるのよっ!」
「ちょっと優珠ちゃん。いくら何でも再開初日に喧嘩はアカンて。しかもせっかく顧問を受けてくれはった先生とちゃうんか?」
 御国さんの説得もむなしく、何もかもを戻したような呼称で私を睨みつける優珠希ちゃん。
 いくら優珠希ちゃんの中でフラストレーションが溜まっているからと言って、冬美さんへの呼称だけは頂けない。
「優珠希ちゃん。私と御国さんは重い土を運ぶのに男の人が必要だと思って、優希君を。そして園芸と植物の知識を持ってくれている冬美さんに土と花壇をお願いしたの。そしてお花への水やりですら優珠希ちゃんから注意を受けた私たちが、雑草を抜くって言う合理的な判断をしたつもりなのに、どうして私のお気に入りの冬美さんに対する呼称が戻っているの?」
「だから愛美さんってばっ!」
「岡本! 頼む! 刺激しないでくれっ!」
 なのに大の大人である先生が、何を情けない事を言いながら私の肩を揺すって来るのか。
 だからこの場を収める意味でも、この辺りで今日の目的を完遂させるために私から完全理論で仕掛ける。
「だったら何もメスブタじゃなくて、そっちのちんちくりんでも良いじゃない! なのに何でわざわざこのメス――女なのよ! それにこのロリコン。どこぞの狡猾女みたいにアンタの話ばっかなんだけど!」
 なのに私から仕掛けた側から、この大切な園芸部の初っ端からこの先生は一体何を口にしたのか。
 何度言っても中々治らない先生の口の軽さには呆れるけれど、逆に優希君は表情と雰囲気をまた変えてくれる。
「先生。愛美さんと何かあるんですか?」
 だけでなく、今日一日私に対して独占欲を見せてくれなかった優希君が貫いていた無言と共に、先生に突っかかってくれる。
「?! 教師である俺が一生徒でもある岡本とだなんて――」
「――優希君。今日初めて私に対して

を見せてくれたのは嬉しかったけれど、こんなにも

との何を疑うの? 私は優希君とは違って『……もう、こんなの嫌です』女の子同士で活動していたはずなのに、冬美さんと仲良くしていた優希君は、まさかとは思うけれど、

。私の気持ちを疑うの?」
 本当には今日一日求めて止まなかったその独占欲の余韻に浸りたかったのだけれど、あまりにも分り易すぎる先生に内心焦った私は、みんなに対して少しずつ皮肉を混ぜて返してやる。
「あの……愛美さんの舌が二枚どころか、何枚も絡まりながらあちこちに伸びてる気がするんですけど」
 もちろん冬美さんにも。
「え?! でも愛美さんが雪野さんと一緒にって……」
「――ちょっと真っ黒! 何でもかんでもお兄ちゃんのせいにするのは辞めてちょうだいって何度ゆえば分かるのよ! それにあんたが文字通り真っ黒すぎて何考えてるのか分からないんだけど、このロリコン教師はあんたを狙ってるわよ。そんなのでアンタの気持ちがどうとか笑わせるわね」
「な?! それは本当か空木妹!」
 流石は勘の良すぎる優珠希ちゃん。この先生だと今日一日どころか、部活の時間すらも隠し通せなかったみたいだ。
「本当も何も佳奈だって、何も意見してないじゃない。なのにこれ以上の説得。必要?」
「先生も否定せえへんいう事は、やっぱりホンマなんですか?」
 いや。素直な御国さんは優珠希ちゃんの推理にびっくりしているところを見ると、今知ったみたいだ。
「愛先輩。あのロリコンから愛先輩を守りますので、あーしの隣から絶対離れないで下さいね」
 そしていつの間にか先生を敵視している理沙さん……に、少し満足そうな優珠希ちゃん。この二人はやっぱり気が合いそうなのは嬉しいけれど、どうしてみんなして私の話を信じないのか。せっかくの園芸部再開なのに、園芸部のこれからとか新入部員の対処とかは考えなくて良いのか。
「……あのね。こんなに

なんてどうでも良いの『!!』ただ先生は、私と蒼ちゃんが当事者だから必要以上に気にしているだけなの。それに優珠希ちゃん」
 さすがに先生には改めて文句を吹っかけるとしても、そろそろ優珠希ちゃんに的を絞らないといけない。
「……何よ。アンタがどれだけ腹黒くわたしをゆいくるめようとしても、アンタ自身の気持ちを聞いたわけでも、この放課後に入ってからは行動でも見せてもらってないんだから、わたしを納得させるのは無理よ」
 やっぱりよく見ている優珠希ちゃん。私がさっき話をして以来優希君とは全く触れていないのもちゃんと見ている。
「よって今までの話も全部破談だから」
 何が憎たらしく“破談”なのか。もうあったま来た。私の気持ちや嫉妬を見せても何にも分かっていないこの兄妹。
 何がなんでも今日中に喋らせてやる。
「あの……大変申し上げにくいんですが、被害が大きくなる前にワタシたちは帰った方が――」
「――こういう時は奥ゆかしい岡本先輩がしっかり優珠ちゃんを言い含めてくれはりますから、大丈夫やと思いますよ」
「ちょっと佳奈!」
「奥ゆかしいって……御国も愛先輩の良さに気付いたのか?」
 しかも私が本気になったのを伝えただけで、新たな関係に勇気を出して一歩前へ進もうとしている御国さん。
「良さに気付いた言うか、元々ウチらは岡本先輩にお世話になりっぱなしやから。それになんやかんや言うても優珠ちゃんと正面から言い合えるんも岡本先輩だけやし」
 その御国さんもいつの間にか、いつも通り穏やかに私たちを見つめながら、理沙さんと会話を楽しんでいる。
「あの。先生。大丈夫ですか?」
 私の言葉に分かり易く落ち込む先生に優しく声をかける彩風さん。みんなを確認して再び優珠希ちゃんに意識を戻す。
「――私を腹黒だとか、言いくるめるとか人聞きの悪い言葉ばっかり並べ立てているけれど、私を守ってくれるはずの男の人、優希君は男の人の力ならどうとでも出来るはずの、どの女の子と仲良くしていたの?」
 そして出来る限り、元の優珠希ちゃんの考え方に沿って問い返してあげると、
「……そんなことゆっても、そこのロリコン教師がアンタに気があるのなんて丸分かりじゃない!」
 優希君は不満そうに、優珠希ちゃんは悔しそうに私を睨みつけて来る――のが、やっぱり気持ちいい。
「でも、そこの口の軽い先生が。誰をどう想おうが“人の心は強制出来ない”以上、仕方がないじゃない。ただし! 優珠希ちゃんに一言文句を言っておきたいのは、私を他の男の人から守ってくれるはずの優希君が、冬美さんから元気を貰ったり自信を付けてもらっている間。私は女の子同士で仲良く活動していたはずなんだけれど。どうしてしっかり行動でもって示しているはずの私が文句を言われないといけないの?」
 だから悔しがる優珠希ちゃんの表情を肴に、そのまま少しずつ追い込んで行く。
「あの。愛先輩。顧問の先生が――」
「――そんなロリコンなんてほっとけって。愛先輩の近くに変態がいたら困るだろ?」
 可愛い後輩たちの会話を聞きながら。
「だからわたしは、そこのちんちくりんとメス女で――」
「――じゃあ大切なもう一人の園芸部の御国さんの意見や指示は無視するんだ……ふぅん」
 私は挑発するように笑いながら、優珠希ちゃんの言葉を一つずつ封殺して行く。
「あの。差し出がましいようですが、愛美さんの舌に勝てるわけないと思いますので――」
「――うっさい! メス女は黙ってろ――大体毎日毎日誰のせいでわたしが被害を被ってると思ってるのよ!」
 表情は私に、言葉は冬美さんに。
「それにいつものアンタの真っ黒なまでの嫉妬はどうしたのよ! 信用してるってゆうならわたしに嫉妬を向ける前にこのメス女が先じゃないの?!」
「でもその女の子をどうにかするのが力で勝る男の人であり優希君なんだよね?」
 その一言を潰して行く私。御国さんと

意向でこの形であり、優珠希ちゃんの考え方を踏襲すれば、やっぱり優希君には私だけをしっかり捕まえていて欲しい訳で。
「そう言うアンタはこのメス女とお兄ちゃんを放って、佳奈の指示も聞かずにどこへ行ってたのよ!」
 それでも一生懸命反抗してくる優珠希ちゃんを可愛く思いながら、
「私? 私は不用意に男の人に近づかないように意識しながら、少しでもみんなに楽をしてもらおうと統括会役員として、女の子だけでごみを捨てに行っただけだよ」
「……さすが愛先輩! あーしらの鑑です」
「岡本先輩……そこまで考えてもろて、ホンマにありがとうございます」
 しっかりと男の人とは距離を取っているって分かってもらおうと話していると、何故か感激してくれる可愛い後輩たち。
 そしてここで優珠希ちゃんの反論も尽きたのか、それとも御国さんが私の考えに賛同してくれたのを見たからか、黙り込んだ優珠希ちゃんに
「な? 何をどないしたかて岡本先輩にはかなわんのやさかい、もう少し素直になっときって――それにお兄さんも。
 いくら彼女さんが優しいから言うたかて甘えとったら、今までみたいにまた付け入られますよ? その時になって傷つくんは優珠ちゃんと彼女さんなんやからしっかりして下さいね」
 ある意味では一番キツイ人からのスカッとする説得。
「どうして佳奈もこんな女の味方ばっかりして、わたしにばっかり注文を付けるのよ」
「んな事言うたかて、二人の仲がおかしなったら優珠ちゃんが一番困るんやろ? せやから今日の二人の距離感にイライラしとんのとちゃうんか? せやから二人の仲を取り持っとるだけや。それに岡本先輩が異性関係にしっかりしとる以上、最近だらしのうなってきとるお兄さんこそしっかり襟を正してもらわんとあかんのとちゃうんか?」
「僕がだらしないって……」
 御国さんの説教を聞いて首を縦に振っている理沙さん。やっぱりこの二人……いや。この三人は気が合いそうだ。
「御国さんありがとう。優珠希ちゃんの気持ちも分かるからその辺りで辞めてあげてね。それよりもこれからの園芸部の活動方針とかも聞かせてもらえれると助かるな」
 主に先生への報告やら、統括会の議事録とやらで。
「ホンマに岡本先輩って奥ゆかしぃて優しいんですね」
「そんなの愛先輩なんだから当たり前だろ」
 だけれど理沙さんはともかく、素直で可愛い御国さんはすごく良い方向に取ってくれる。
「……ワタシには何かの舌が重なってるように見えたんですけど」
「……冬ちゃんも余計なことは言わない方が良いよ」
 まあ。後輩たちが失礼なのは今更として。
「結局またわたしだけが被害を被ってるじゃない!」
 最後に優珠希ちゃんの叫びと共に、御国さんの今後の方針の説明が始まる。
「あの! 俺を園芸部に入部させて下さい! 

!」

――――――――――――――――次回予告へ――――――――――――――――――
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