第239話 見え隠れする違和感(前) 次回予告

文字数 3,049文字


 意気込んで早くデートを切り上げて家に帰った兄――優希。
「まだ帰って無いか」
 妹である優珠希は、今日は友達――佳奈――の家に遊びに行くと言ってたのを思い出す。
それでも自分の彼女――愛美――の気持ちに応えようとはやる気持ちをやり過ごす意味合いも兼ねてなのか
「えっと優珠に話すのは、僕の気持ちと僕が優珠をいかに大切に思ってるかと――」
 優珠に話す内容なのか、独り言を口にする優希。

 一通りまとまったところで、いまだ自分がデート帰りのままの服装でいるのを思い出して
先に着替えてしまう。
 その後、優珠との話が長引いても良いように、喉を潤すものを用意して待つ事暫く
「お兄ちゃん。もう帰ってるの?」
 今日一番待ちわびた優珠が帰って来る。
 そして優珠を出迎えようと緊張しながら部屋で待つこと数舜。
「――?! 何してんのお兄――またあの女の仕業ね」
自分の部屋へと戻って来た優珠は、正座して待ってた優希に声にならない悲鳴を上げる。
「優珠。お兄ちゃんは優珠がとっても大切なんだ。だから優珠にお兄ちゃんの気持ちをちゃんと知って欲しい」
 ところがその後出てきた優希の言葉に、たちまち頬どころか耳たぶまで真っ赤に染め上げる優珠希。
「ちょっとお兄ちゃん? 次はあの女に何を吹き込まれたの?」
 それでもこの兄には、もう任せられるかもしれないと思えるほど信頼を高めてる彼女がいるのだ。
 だから兄の言葉を額面通りに取る訳にはいかないと首を振って、邪な考えを追い出す。
「お兄ちゃんは考え直したんだ。もっとお兄ちゃんの気持ちを優珠に伝えないといけないって。そして優珠の気持ちももっと尊重しないといけないって。だからその一環として、お兄ちゃんが如何に優珠を大切にしてるか話そうと思ったんだ」
「で? あの女に何を吹き込まれたの?」
 帰って来て早々、外出着から着替えるのを諦めて兄の話を聞こうと腰を落ち着ける優珠。
「お兄ちゃんは優珠が笑ってないと駄目なんだ。それに優珠も幸せになって欲しいんだ」
「――?! ちょ、ちょっとお兄ちゃん?! 何をどう吹き込まれたそうなるのよ。大体あの嫉妬深い女がいるのにそんな事わたしにゆって大丈夫なの?」
 だけれど、今朝送られて来た愛美からのメッセージを思い出してた優珠は優希が一言口にしただけで、たちまち腰を浮かせ始める優珠。
「優珠をしっかり理解してくれてる愛美さんなら大丈夫。それよりも優珠はどう? お兄ちゃんと一緒にいると幸せになれる? それともお兄ちゃんがいなくても幸せになれる?」
 なのに優珠の気持ちを聞くと言ったばかりの兄は、全く愛美からのメッセージを目にしてる妹の気持ちに気付こうともしてない。
「わたしは……お兄ちゃんがいつでもいてくれる今が一番安心出来るの。だからそんな寂しい事をゆうのは辞めてちょうだい」
 それでも兄がいなくても……なんて寂しい仮初の話に耐えられる訳もなく、気持ちを漏らす優珠希。
「優珠……」
 そんな優珠の気持ちなんて知る由もない兄は、まさか自分の彼女の言われた通り、一言気持ちを伝えただけで、欲しい言葉が出て来るとは思わなくて驚く。
 本当に自分の彼女である愛美は、妹までしっかり分かってくれてるのが嬉しくて、自然笑顔になる。
「だから一緒にいられる時間はお兄ちゃんと一緒にいるようにはしたいし、してる。だけど愛美先輩は良いの? お兄ちゃんにとって一番幸せになれる相手なんじゃないの?」
 その兄の笑顔を見た妹は、何とも言えない表情に変える。
「さっきも言った通り愛美さんなら大丈夫。僕だけじゃなくてちゃんと優珠も見てくれてる。だからお兄ちゃんは優珠に自分の気持ちを伝えることが大切だって気づけたんだ」
「?」
 なのにすぐに意味が分からなくなる兄の言葉を耳にして、間違いなくあの先輩に何かを吹き込まれたのだと、意識し直す。
「僕は優珠が大切だ。だから優珠が寂しがってるのも泣いてるのも見たくないんだ。お兄ちゃんの気持ちはどうか分かって欲しい」
「お兄ちゃんがそう思ってくれてるのは本当に嬉しい。だからわたしもここまでは勇気を出せた。だけどお兄ちゃんを幸せにするのはわたしじゃないわよ」
 一人の女生徒、愛美の姿を思い浮かべる優珠。
「確かにそうかも知れないけど、でもその愛美さんを笑顔に出来るのもまた優珠なんだ」
「どうしてそこでわたしが――まさかっ!」
 優珠希が愛美先輩を笑顔にすると言えば一つしかない。そして唐突な兄の態度と言葉。大体兄が突飛由も無い行動を取る時はあの女が絡んでる時で。
「お兄ちゃん。正直に答えて。あの女にお兄ちゃんが如何にしてわたしと一緒にいたいってゆえば良いってゆわれたの?」
それらをすべて解消してやろうと、一つの質問を投げかけると、
「違うよ。愛美さんはそんな卑怯な人じゃないよ。ただお兄ちゃんの気持ちを優珠に伝えたら優珠はちゃんと分かってくれる。だからお兄ちゃんとして優珠にちゃんと気持ちを話して欲しいって言われただけだよ」
 案の定以上の答えが返って来て愕然とする優珠。その言い方だったら兄が口先だけで言ったなんて言えないし、愛美が何を期待してるのかも明け透けでも、直接何度も言われ続けてるから悪態も付きにくい。
「そんなの今更お兄ちゃんにゆわれなくても、ちゃんとお兄ちゃんの気持ちは伝わってるわよ」
「でもお兄ちゃんが正直に自分の気持ちを伝えるまで、お兄ちゃんと一緒にいると安心出来るなんて言ってくれた事なかったよね」
 兄の言葉に内心歯噛みする優珠。間違いなく今回も愛美のシナリオ通りに話が進んでしまっていると分かる優希の表情。
「つまりまた、あの女にゆえってゆう話なのね」
「違うよ。僕は優珠をすごく大事に思ってるって話」
 なのに即座に否定する優希。結局形変わっても言われる事は同じで。
 友達の家に行けば、奥ゆかしい――とはとても思えない愛美に言えと言い続ける大の親友。そして家に帰ればあの手この手で兄に吹き込んで、執拗に優珠希に喋らせようとするやっぱり愛美。
「お兄ちゃん。帰って来る前に先に着替えたいから部屋から出て行って。でないと愛美先輩にわたしの着替えを覗こうとしたってゆうわよ」
「分かった。部屋の外で待ってるから終わったら言って。その後でじっくりお兄ちゃんの気持ちを優珠には話したい」
 愛美の名前を出せばすんなりと聞く兄。以前なら着替え中でも気にしないとまで言っていたはずなのに、どう見繕ってもあの先輩の影響がかなり大きくなってるのは明白で。

宛先:腹黒
題名:結局わたし
本文:アンタ! お兄ちゃんだけに留まらず佳奈にまで何を吹き込んだのよ! せっかく今日
   は佳奈と明日からの打ち合わせをしようとしてたのに何でアンタの話ばっかりなのよ! 
    しかも佳奈まであんたにゆえゆえの一点張りだし。アンタに何かの協力までするとか
   ゆい出してるじゃない!
    わたしの考える時間までどっかやって、佳奈にまでけしかけたあんたが奥ゆかしい
   とか佳奈の目まで腐らせるのは辞めてちょうだい。
    アンタはお兄ちゃんの彼女なんだから、その腹黒さはお兄ちゃんにだけ見せておけば
   良いの。良いアンタ。家にいたら一日中お兄ちゃんからアンタにゆえゆえゆわれ続けて、
   佳奈のところに避難したら佳奈にもゆえゆえゆわれて、これでノイローゼになったら
   全部アンタのせいだから

 思いつく限りの文句を愛美に送って、今日も長くなりそうなお兄ちゃんの話に覚悟を決める優珠の夜は長い――
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