第244話 何が辛く何が心を軽くするのか Cパート

文字数 5,204文字


「……それで優希君の話だけれど、優希君からしたら、私は異性で女の子なの。そして冬美さんは女の子で私と同性。私たち女の子と男の人って、脳の造りも考え方も、それこそ本能的な次元で根本的に違うの」
 そして冬美さんに私自身の経験、朱先輩から教わった男女において違うその全てを教えて行く。
「それに男の人って何でかカッコつけたがりだから、私たち女の子の前ではどうしたって言えない事はあるよ」
「でも愛美さんは空木先輩に全部話してるって――」
「――うん。もちろん私は全部話してはいるよ。だけれど優希君が全てを話しているとは限らない。ただ、異性関係や私が後から知った際、涙しそうな話は前もって話してくれているし、私だって恥ずかしすぎて女の子の期間なんて話していないよ。そう言う次元の話なの」
 もちろん現在渦中にあるであろう兄妹の二人の関係とかも話してはもらえていない。
 だけれどこの話は極めてプライベートな話で、何よりも繊細な優珠希ちゃんの気持ちが物を言うのだから私から匂わせるような事もしない。
「……それが現在(いま)空木先輩をお一人にする理由になるんですか?」
「ううん。優希君は今、一人じゃないよ。

なんて誰一人として信じていない私のクラスの人たちとお昼をしてくれているよ」
 優珠希ちゃんと言い、冬美さんと言いこういう時だけは私から全く離れようとしないんだから。素直で可愛いと言うのか、ひねくれていて可愛いと言うのか。
「そうすれば男の人同士で出来る話もあるだろうし、噂を信じていない人もたくさんいるんだって優希君自身にも分かってもらえて力と勇気も持てると思うの。
 それにクラスのみんなには優希君に千羽鶴の折り紙も渡してもらうように言ってあるから蒼ちゃんに対する気持ちの一体感も持ってもらえると思うの。これが今、このお昼休みの私の行動と言うか、理由かな?」
 それだけ私の話を聞きたいと思ってくれていると解釈して説明を終えると、
「……殿方。男性との考え方の違い、脳の違いまでご理解されてらっしゃったんですね。ワタシにはそれが分からなかった。だからワタシの身体では喜んで頂けなかった。ワタシは男性の仰る事を三歩下がってお伺いし、その意を汲むものだと思ってました。
 だからこそワタシを大切にして頂ける、ご理解頂ける心穏やかな空木先輩に懸想したんです」
 以前にも専用のシェフとかお手伝いさんとか、華道などと言っていたくらいだから冬美さんのご家庭がそうなのか、かなり極端な考え方なんだなと今更に理解する。
 そしてその考え方なら尚の事、自分を大切にしてくれている高圧的じゃない男の人に惹かれるのも分かるけれど……確かに冬美さんの考え方だったら、冬美さんの心を掴める男の人はもうこの学校にはいないのかもしれない。
 だけれど残念。私が心を咎めてしまう程に残念ではあるけれど、
「でも優希君は違った。確かに優希君はものすごくエッチだけれど考え方も固いし、貞操感も強いよ。だから誰かさんみたいに安易に体は求めて来ないし、ピアスや香水だって好きじゃない。それに一度だけ朱先輩が看破して指摘していたんだけれど、優珠希ちゃんのあの格好も快く思っていないし、お兄ちゃんとして時々注意もしているみたいだよ」
 こればかりはどれだけ腹黒だと罵られようが、優希君が本当に大好きだから。結果が出た今だからこそ言える優希君の考え方、好み。
 それらを全て伝えていく。そして冬美さんを応援するって決めたのだから、男の人の考え方も合わせて伝えていく。
「それからもう一つ。これも朱先輩から教えてもらった、私たち女の子からしたら驚きしかないんだけれど、男の人って露出の多い女の人が好きだとばかり思っていたんだけれど、実際彼女にしたり本当の意味で心惹かれるのは、露出の少ない上品な女の人なんだって」
 今の話に狩猟本能とか小難しい話は要らないだろうから、この話は辞めておく。
「でも空木先輩。あの八幡さんのはしっかりご覧になられてましたよね」
「もちろん。その件に関しては冬美さんもご存知の通り、私と優珠希ちゃんでしっかり絞ったでしょ? その上であの若くて大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女は断ってくれているよ」
 あのベンチでのやり取りは冬美さんもしっかり覚えているはずなのだ。
「……つまり、愛美さんやワタシたち以外にも、噂を信じてらっしゃらない方がいる。それはあの会長のような男性だけでなく、普通の男性でもいらっしゃる。それを空木先輩にも知って頂いて、元気を取り戻して頂くってお話ですか?」
 本当に悔しいくらい地頭が良いんだから。それくらい私の長々とした説明を綺麗にまとめてしまった冬美さん。
「だとしても、本当にクラスの方々信じてないかなんてわかりませんし、空木先輩に愛美さんのお気持ちが伝わるかどうかも分からないじゃないですか」
「クラスの人たちは、蒼ちゃんの事件があった上であの人が執拗に教室に顔を出して、ものすごくしんどかったのを経験しているから『申し訳ありません。失言でした……』――良いよ――疑う必要なんてないし、別に私としては優希君が元気になってくれさえすれば、私の気持ちは伝わっても伝わらなくても良いの」
 もちろんクラスの女子に鼻の下を伸ばしたとなると別の話になって来るけれど、そんな女子もまた今はもういないって信じられるから。
「そう……ですか……なんだかんだ言って、ここ一番では空木先輩を立ててらっしゃるんですね」
 “なんだかんだ”の部分は引っかかるけれど、優希君の男心をあの手この手で刺激しているのは間違いない。

 話と伝えたい内容にも一段落したところで、、お昼休みもわずかになったからと急ぎ教室に戻る準備をしていると
「そう言えば愛美さん。結局あの二人には本当の話。千羽鶴の数の話はされないんですか?」
 また帰る間際になって、本題らしき話題を持って来る冬美さん。
「言わないよ。気付いていないなら千羽鶴自体が善意である以上言うつもりもないよ」
「ですがあの配分で千羽に届くとは思えません」
 知れば知る程きめ細やかに気をくなってくれていると分かる冬美さんの言動。
「私たちのクラスのみんなだけで750羽はもう確保しているの。それに冬美さんや後輩たち。それに園芸部の人たち。更には優希君に私の両親。ついでに言えば先生方もそうだし、朱先輩だって協力してくれるんだから、ちゃんと千羽には届くよ。心配してくれて本当にありがとうねっ」
 そう言えばまだ両親には言っていないけれど、話したら折ってはくれると思う。
「だったら良いんですけど、ワタシだってまだ二年でそこまで時間がない訳ではないので、協力自体は出来ますよ」
 なのに二人きりになったらここまで素直になるんだから。もう朝の件とか説教とかどうでも良くなりつつあるんだけれど。
「ありがとう冬美さん。万が一の時は頼らせてもらうね。それじゃいそごっか」
 色々迷う部分もあるけれど、冬美さんの善意を胸に一度自分の教室へと戻る。


 さすがにお昼休み終了間際。私が教室に戻った際には優希君の姿は見えなかったけれど、
「本当に噂程あてにならないものはないわね。空木君とのデートってものすごく紳士的なのね」
「それに比べてこのクラスの男子と来たら……」
「うるせぇよ、そんな事ばっか言って文句ばっかなのはてめぇら女子の方だろ? 少しは岡本さんを見習って一緒に楽しませようとかそんな気持ちはないのかよ」
 何で優希君の話でクラスの男女が喧嘩しているのか。せっかくの冬美さんとの余韻が台無しなんだけれど。
「愛美お帰り。副会長に折り紙渡しといた。20枚で良かった?」
「うん。それで大丈夫。ありがとう。こっちも後輩たちに15枚ずつ渡せたよ。後、放課後に園芸部の後輩たちにも渡したいから、15枚と20枚を一つずつ合計35枚お願いしても良い?」
「うん分かった。また放課後までに用意しとくね」
 ただアホな男子よりも先に千羽鶴の確認をしてから、
「それで? これはどうなっているの? 優希君も含めてみんな仲良くはしてくれたんだよね?」
 目の前の光景に疑問を投げかけると、
「喧嘩どころか……空木君の取り合い?」
 何で答える側の咲夜さんが疑問形なのか。
「ん。汚らわしい男子に副会長は任せられない」
「お前らこそいつまで夢見てんだよ。いい加減自分の姿と現実を受け入れろって」
 なのにまた私を放っておいて、女子に対して失礼極まりないヤジを飛ばす男子。
「もちろん、このクラスを対象にしてるんだから、岡本さんも含めての話なのよね」
 九重さんの確認にクラスの男子は、
「岡本さんは別だろ。そもそも岡本さんには空木がいるんだから、お前ら女子は現実を見ろって言ってるんだ」
「だそうだけど……あたし達は愛美さんの友達なんだよね?」
「な?! お前月森! 俺ら男子を売るのか?!」
 何が男子を売るのかなのか。咲夜さんは元々私たちの大切な友達だってのに、何を勝手言い出しているのか。
「咲夜さんはとっても魅力的な女の子なんだから、もっといい男の人が見つかるよ」
「ん。よく言ってくれた愛美。咲夜も安売りはしない」
「……」
「あーあ。あんたらまた岡本さんの機嫌を損ねたのね――男子が空木君の妹さんの容姿を気にしだして、“お義兄さん”と呼ばせてくれだとか“彼女”にしたいとか言われて困ってたから、女子側に引き込んで話をしてたのよ」
 何をアホな事を言っているのか。噂なんて全く気にしていないのだけは認めるけれど、何で私お気に入りの優珠希ちゃんをこんな男子たちにお任せしないといけないのか。それに
「そう言えば岡本は空木の妹は知ってるんだよな? 岡本と空木の仲は応援するから妹さんの好みとか性格とか色々教えてくれ」
 こんなアホな男子たちに、本気で頭の回転が速い優珠希ちゃんと会話すら出来ないと思うんだけれど。
「男子まだ言ってんの? 防さんは良いの? それに空木君も妹さんは駄目だってハッキリ言ってたじゃない」
「そう言うお前だって空木にうっとりしてただろ! お前ら男子から岡本さんを守るって結束はどうしたんだよ」
 なんて言うか良くも悪くも噂なんて関係なくいつも通りのクラス内に――笑いが零れる。
「……」
「優希君が駄目だって言った以上、私にとってもとってもお気に入りの後輩なんだから、優珠希――妹さんは駄目だよ」
 私の滑らせた名前に反応する男子とそれに呆れる女子。
 何となく優希君がこのクラスで力を抜いて笑ってもらえたのかなって分かって嬉しかったけれど、私と二人きりのデートに関して口を軽くしたのは面白くない。
「それで九重さんに聞きたいんだけれど、優希君。私とのデートに関してどこに行ったとか何を言っていたの?」
 内容次第では私の気持ちをもう一度しっかり見せないといけないと思いつつ携帯を手に聞くと、
「あ。別にどこで何をしたとかは聞いていないって言うか、岡本さんとの約束だからとか言って教えてもらえなかったよ。ただデートするたびに、岡本さんが笑ったり泣いたり、怒ったりやきもちを焼いてくれるから、色々な岡本さんを見れるって。
 その中で岡本さんの笑顔を独り占め出来るのは、デートの醍醐味だって話だけだったよ――岡本さんの泣いた姿って言うのは気になるけど、ごちそうさま」
 何て事なのか。何で自分からこんな恥ずかしい話をまた聞いてしまったのか。しかも二人だけの秘密だって取り決めは守ってもらっているから文句すら言えないんだけれど。
「このレディーファースト。自分の彼女を何とかして喜ばせようと、楽しませようとする気持ち、気遣いが素敵だって言ってんの。分かる? 男子諸君」
「それは相手が岡本さんや防さんだったら俺ら男子だって全員そうなるに決まってんだろ」
 それどころか、どこまで行ってもどんな状況でも私だけを見て、私だけを大切にしてくれて。彼女としてこんなに嬉しい事は無いのもまた困りもので。

宛元:優希君
題名:ありがとう
本文:愛美さんの意図が分かったよ。元気も少し出たし折り紙も貰ったよ。愛美さんのクラス。
   良いクラスだね。本当に僕の彼女になってくれてありがとう。でも最後は女々しいかも
   しれないけど愛美さんに近くにいて欲しい。放課後楽しみにしてる

 なのに図ったようなこのタイミングでこんなにも嬉しいメッセージを貰ってしまったら――
「本当にみんなありがとうっ! 優希君も元気出たって言ってくれたよっ」
 ――みんなにお礼が言いたくなっても仕方がないと思うのに、
「……俺。むなしくなったから授業の用意。するわ」
「……そうね。あたしもこれ以上はもうお腹いっぱい」
 ため息を吐きながら午後からの授業の準備を始めたクラスのみんなに納得がいかないんだけれどっ。

――――――――――――――――次回予告へ―――――――――――――――――――
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