第245話 再開! 園芸部 Aパート

文字数 4,288文字

 納得のいかない中、それでも短い休み時間には折り紙を机の上に出して手を動かしてくれていた、クラスメイトを見て文句どころか、不満すら言えなかった私。
 それでも蒼ちゃんに対するみんなの気持ちが少しずつ形になって行く目にしながら、

宛先:優珠希ちゃん
題名:もうすぐだね
本文:もちろん私たち役員三人は顔を出すからね。それと、今更言わなくても分かってはいる
   と思うけれど、何があっても全校集会の間どこにいたかも含めて喋ってもらうから。
   それじゃまた後で

 一通だけメッセージを送って、
「お昼は後輩たちの分と、優希君の分も含めてありが――」
 咲夜さんに残る園芸部の後輩二人分、35枚を貰おうと席を立ったところで
「……なぁ月森。お前も鶴折れんのか?」
「ん? もちろんだけど何? 教えて欲しいの?」
 何故か緊張しているのか、動きも固い男子から折り鶴の作り方を乞われる咲夜さんを目にして言葉を止める。
「愛美。もし折り鶴が必要なら、あたしも余分持ってる。何枚?」
 そこに私の元に来てくれていた実祝さんが、咲夜さんに視線を送りながら何枚必要か聞いてくれる。
「で……出来れば月森に教えて欲しくて。ほら。月森ってこう言うの用意とかしたりして得意そうだったから」
「別にそこまで言わなくても良いって。そしたら説明するから、正面の席に座って座って」
 実祝さんに
「えっと、参加したいって言ってくれていた園芸部の後輩二人分で15枚と20枚を一つずつと、朱先輩も手伝ってくれるって言ってくれていたから
もう20枚で合計55枚。少し多いけれど大丈夫かな?」
 釣られて私も目をやりながら答える。
「ん。さすが愛美。顔も交友関係も広い。取って来るから少し待つ――でもそれで1000羽になる?」
 一度戻って、枚数ごとに袋に入った折り紙を手にした実祝さんからの質問。
「分からないけれど、私にとって一番の親友だもん。足りなければ私がその分多めに折るよ」
 その実祝さんに私の気持ちを伝える。受験も差し迫る中、純粋な気持ち

含めた上で、みんなが善意で折ってくれているのが分かるだけに、あまり負担をかけたくないとも思ってしまうのだ。
「――だったら愛美。足りない分、あたしも余分に折る。正直折り鶴なんて折った事ないけど、この週末に咲夜に教えてもらった。その気持ちと咲夜の行動を少しでも蒼依に伝えたい。今の咲夜を知ってもらいたい」
 だけれど実祝さんは実祝さんで、拗れ切った二人を何とかしたいと思いを持ってくれている中、
「月森って案外人に物教えるの上手いよな。また何個か折ったのを見てもらっても良いか?」
「もちろん良いけど、予備の紙もそんなにないから、慣れるまであたしが見てても良いし、このクラスの誰かに見てもらいながら折れば、ノルマは早いよ」
 クラス内でも咲夜さんに対するわだかまりが、ハッキリ溶けてなくなって行くのを目にして、今はまだだとしても、蒼ちゃんを中心としてクラスが一つにまとまって行くのはやっぱり嬉しくなる。
「――ん。赤色の紙を上にした1

7

枚1袋と、桃色の紙を上にした2

2

枚を2袋」
 そんな二人を目にしている間に、準備を終えた実祝さんから三人分受け取ったところで、
「よーし。それじゃ終礼。始めるぞー」
 担任の巻本先生が教室に入って来る。


 その先生からの連絡事項で、今日から園芸部再開と共に学期途中ではあるけれど部員募集もする旨と、来週くらいから“推薦入試”の受験票が届くから、個別に渡す連絡が伝えられる。
 そして
「俺のクラスの生徒なら分かってるとは思うけど、今また流れてるしょうもない噂に関しては全くの出鱈目で、根も葉もないからくれぐれも乗ったり便乗して広めたりしないようにな。
 あ。そうだ。ちなみにこの件に関しては教頭先生が直接調べてるそうだから“推薦”はおろか、国公立の内申を気にするなら、下手に乗らない、信じない、広めない方が自分の為だぞ」
 そしてここで出て来る、単なる噂にしては強すぎる抑止となる教頭先生。
 九月末に対峙した時の教頭先生と優珠希ちゃんとのやり取り。そこにもやっぱり私の知らない事情を含めたやり取りがあったのも確かで、それらは全て一つに繋がっているのも確かで。私の中に何と言ったら良いのか分からない感情が広がる。
「先生ー。なんだか嬉しそうですね。それって私たちが全く噂を信じてないって分かってくれてるからですか?」
 そこで別の女子が誇らしそうに先生に聞くけれど
「ん? もちろんそれはそれで嬉しいが、違うぞ――月森。今日の午後からの授業止めたんだってな。担当教科の先生から文句を言われたが、文句を言われて嬉しかったのは先生初めてだ。ありがとうな、みんな」
 その先生がまた目に涙をためる。
「それは違うと思います。あたしが行動出来たのは支えてくれた友達がいたからで――」
 一度言葉を止めた咲夜さんが、実祝さん私の順で視線を合わせてから
「――このクラスのみんながあたしの間違いを赦してくれたからですよ。それにあたしも含めて一日でも早く蒼依さんに戻って来て欲しい気持ちがあったから、あの場で説明できたんです」
 全てを喋り切った咲夜さん。そこには初学期の頃のような咲夜さんの姿はない。色々な失敗を通して前を向く素敵な咲夜さんしかいない。
 その姿を目にして改めて蒼ちゃんに今の咲夜さんの姿をしっかり伝えようと心に決める。

「ところで先生。あの文句言った現代文の先生が月森に“先生には何をしてくれるんだ?”って言ったのを知ってるんですか?」
 話が一つにまとまったところで、さっき咲夜さんに折り紙を教えてもらっていた男子が、私も眉をひそめたあの先生とのやり取りを槍玉に挙げる。
「なんだそれ。どういう事だ?」
 大した事のない言葉だと思っていたのか、ただの“注意のつもり”だったのか……聞かされていなかったっぽい先生がクラスのみんなに聞き返すと口々に自分たちの想いを言葉にするみんな。
 一通りの話を聞き終えて、ある程度把握は出来たのか、そこから終礼開始直後に浮かべていた笑顔は完全に消えている。
「……月森。今みんなが言ってくれた話は本当か?」
 その先生が最後。いくらクラスのみんなが言ったとしても最後に確認は忘れない。当の本人へ確認する。
「確かに事実ですけど、あたしは何の危険も不快感も感じてはいませんし、先生としてもそういう意図は全くかなったかと思います」
 だけれど私たちより男子のアレコレを知っている咲夜さんは、何でもなかったかのように話すけれど
「おい月森。そうじゃないだろ。月森自身がそう思わなくても、そう捉える女子だって考える男子だっているだろ。それにあの先生。自分の発言がどれだけヤバいのか分かってんのか?」
「あ……うん。ごめん」
 気圧されて謝った咲夜さんと、不満そうに二人のやり取りを見ている実祝さん。
「分かった。俺からまた先生には確認しとくから、お前らは喧嘩なんてするなよ。それから最後に、その原因となったであろう千羽鶴だが、俺はもちろんの事、養護教諭と教頭先生も参加すると仰って頂いたんだが『もちろんです! 女医さんにも参加して頂けるなら俺らに異議なんてありません!』――ああ……分かったが、岡本に月森。それに夕摘も。かまわんか?」
 ……何が“女医さん”なんだか。それを言うならただの……と言うにはたくさんの肩書を持っている先生だけれど、普通に保健医で良いんじゃないのか。
「……はい。この噂の抑止にまでなって頂いている教頭先生に参加して頂けるなら、私に異議なんてありませんよ」
「教頭先生って……抑止に関しては学校全体での話だぞ?」
 なのに、何を私の一言に不満そうにしているのか。
「愛美さんがそう言うのならあたしに反対する理由なんてありません」
 ただ穂高先生とはもう仲直りをしているのだから、クラスのアホな男子に呆れるだけで、私から反対する理由なんて何もない。
「ん。じゃ愛美の許可も下りたから、先生に男性用2袋と女性用1袋――えっと。何枚だっけ」
「先生たちは20枚ずつだから2

2

枚ね」
 咲夜さんの回答にすぐ準備を始める実祝さん。
「それじゃ園芸部顧問で慣れない初顧問でもあるから、これで終わりにするが出来上がった鶴は後ろの段ボールで良いんだよな?」
「はい。是非女医さんにもそうお伝えください」
 折り紙の入った袋を3つ受け取った先生からの確認に、最後までアホな男子によって終始穏やかだった終礼は終わりを告げる。
 そしていよいよ紆余曲折ありながらも、再開までこぎつけた園芸部だっ。


 このクラスのみんなが良くしてくれた、勇気や力を与えてくれたのは分かったけれどやっぱりクラスで一人だって言うのは優希君は元より、優珠希ちゃんからもあれから音沙汰がないのも気にはなるから、急ぎ優希君の教室へと向かう。
 教頭先生からの抑止が効いたのか、他の何かの要因があったのかは分からないけれど、教室内を覗いた際には朝のようにヤジが飛んだりとかもなかったけれど、優希君もまたいなかった。
 ただカバン自体はあるから、今日に限っては先に帰ったとかは無さそうだからと、違う教室ではあるけれど優希君の席で待たせてもらう。

 待つこと数分もなかったけれど、それでもみんな私を見るだけで声をかけて来ない。理沙さんの言葉を借りるなら“気分の悪い視線”を優希君の席にかけ続けていると、
「あ……愛美さん。来てくれてたんだ」
 携帯を手に姿を見せてくれる。
「もちろんだよ。今日の放課後は一緒だって約束もしていたし、何より今日は優――みんなにとってとっても大切な日でしょ? 後輩たちも参加するって言ってくれていたよ――その手の携帯。ひょっとして蒼ちゃん?」
 それに合わせて当然一緒に行くつもりだった私は、優希君のカバンも持って立ち上がる。
「ありがとう愛美さん。でもその前に僕としても二人だけで話をしておきたいんだけど良いかな」
 だけれどお昼はクラスのみんなに元気付けてもらったはずなのに、むしろ朝より元気がない気がする。
「優希君がそう言ってくれるのはもちろん嬉しいけれど――冬美さんに一度メッセージも送りたいから一旦教室を出よっか」
 その原因がこのクラスの不快な視線にあると判断した私は、ちょうど二人きりになれる場所へと移動する。

宛先:冬美さん
題名:少し遅れます
本文:元気のない優希君と少しだけ話してから直接園芸部に向かいます。なので二年だけで
   先に園芸部へ向かっておいて下さい。

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