第245話 再開! 園芸部 Bパート

文字数 5,996文字

 先に冬美さんにメッセージだけ送ってから、
「それで話って?」
 腕を絡めて恋人繋ぎをするまでは当たり前で、今日は統括会もないからと役員室を使いたかったのだけれど、私を理解してくれている優希君が私の足を部活棟から中庭の方へと向けてくれる。
「僕ってどうしてこうなんだろう。何回もごめん。今朝、僕の説明足らずで愛美さんをまた泣かしてしまったんだよね」
 そうか。朝の件。返事できなかった私を察して、優希君に話してくれたんだ。だったらここは私も変に取り繕わずに、しっかりと自分の気持ちを口にする。
「私、怖かった。朝はあんなにも優しい雰囲気だったのにあんなメッセージが突然届いて。最初は意味も理由も分からなかった分、優希君が私から離れていくんじゃないのかって怖かった」
「ごめん。でも僕も、最近優珠が認めるくらいには、男が喜ぶ色々に気を遣ってる愛美さんに噂を信じられて嫌われるくらいならって思ったのもそうだし、優珠の想いを考えると、これ以上勇気を出せなくて言えなかった。やっぱり優珠は僕にとって大切な家族で、妹だから」
 私への想いと優珠希ちゃんへの深い情。言葉だけを聞けばそのまま納得出来そうだけれど、私に贈られてきたメッセージはやっぱり優珠希ちゃんを優先させるもので。
「……ねぇ優希君。優希君は私がどうしたら嫌いにならない、優珠希ちゃんを大切に想う気持ちを分かってくれる? どうしたら私は信用してもらえるの?」
 私では二人の間に立ち入れない“何か”をどうしても感じてしまうのだ。
「疑ってる訳じゃないんだ。ただ愛美さんは僕にとって本当に大切だから、どうしても失敗できないし嫌われるなんて考えたくもない。最悪は好かれたままでも――」
「――大切だって思ってくれるなら、私を離そうとしないでよ。優珠希ちゃん相手みたいに何が何でも離さないって教えてよ」
 大好きだからこそ嫌われたくない、嫌われるのが怖い。嫌われたくないからこそいっそそのまま……時々優希君の方が女の子しているんじゃないかと思うくらい、女の子のような考え方を見せてくれるけれど……
「私は自分が完璧だなんて間違っても思っていないし、正直優希君の悪い部分も知っているつもりだよ『……』今、優希君は落ち込んだけれど、それら全て含めて優希君だし、悪い部分もあるからこそ私のいる意味もあるんだよね。逆に優希君が何でもかんでも一人で出来る完璧な人間だったら、私なんて必要無いよね?」
 それにそう言う部分は、彼女である私が優希君をイイ男にしてしまえば良いだけの話だ。ただそれとは別に現実ってそうじゃないと思うのだ。
「それでも優珠希ちゃんは心も体も守ってあげているんだよね。そんなの流石に私……寂しいよ」
 優希君が私の周りを含めた私を大切にしてくれているのは伝わる。その上で私にはよく分からない“広い心を持っている”とか“なんでも出したい”とか“買ってあげたい”など男の人の何かを見せてくれる。それらは望む望まないを別として私への想いを優希君なりに見せてくれている、伝えようとしてくれているのは分かる、伝わる。
 だけれどそこまでなのだ。全てにおいて私ありきなのだ。もちろん私を大切にしてくれているのは分かるし、何度も言うけれど友達を大事にしてくれているのも分かる。
 でもそこには私の気持ちはあまり入っていないようにも見えるし、下手をしたら私から離れていく分には仕方がないって思ってしまっている不安もぬぐい切れない。
「……」
 私の本音に対して何かを葛藤しているのか、頭を掻きむしったり抱えたりはしてくれているけれど、言葉にはしてくれない。
「どうして? どうして何も言ってくれないの? 私。優希君のたった一人の彼女で良いんだよね?」
 絡めた腕、繋いだ手を解いて正面から優希君の顔を覗き込む。
「僕にとって愛美さんは後にも先にたった一人の彼女のつもりだし、他の人なんて考えてないから朝僕を振った礼文(あやふみ)さんなんて特に気にしてない。
それよりも愛美さんに嫌われて、優珠が傷つくのが一番怖いんだ」
 だけれど違う。優希君が本音を喋ってくれているのは分かるけれど、一人で大好きを頑張って欲しくない願いを込めた私の欲しい答え“私が優希君と優珠希ちゃんを大切に想う気持ちがどうやったら伝わるのか”は避けたのも分かってしまった。
 どうして二人いるのにこうなってしまうんだろう。どうして私には話してもらえないんだろう。分からなくて、悔しくて今日二度目。目に涙が溜まり始める。
「! 僕は浮気なんてしないし、他の女子なんて興味ない。愛美さんを大切にしようって思ってるのにどうして……」
 そして私相手に久々に見た困った表情。
「優希君。私、好き?」
「! ただ好きなだけじゃない。すごく大好きだし他の男に渡したくない」
「でも今朝のメッセージはとてもじゃないけれど、そんな雰囲気伝わらなかったよ?」
 むしろその逆を怖かったくらいなのに。
「それは――ごめん。やっぱり僕が悪かった。ただ僕は優珠を傷つけたくも愛美さんに嫌われたくもないってだけは分かって欲しい」
 それでも。どうしても私の気持ちが伝わり切らない優希君。質問には答えてもらえない。更にはいつも気にしてもらっている優珠希ちゃん。
 こんなの嫉妬しない方がどうかしている。だったら御国さんからも許可はもらっているんだから、悔しい気持ちと共に全て今日喋ってもらう優珠希ちゃんにぶつけてやる。
「言っておくけれど私。こんな訳の分からない噂なんかで優希君を嫌いになるとか絶対ないから、その気持ちを分かってくれるまで、手も腕も口付けもナシね『?!』それ以外の方法で、しっかりと私の気持ちを優希君に分かってもらうから。
 そしたらみんなもう待ってくれているだろうし、早く園芸部へ行こうよ。私のお願いを聞いてくれて園芸部の顧問になってくれた私の担任の巻本先生も待ってくれているだろうしね」
 優珠希ちゃんがいつでも言うように、腹黒らしく私なりのやり方で私の気持ちを分かってもらおうと、
「“私の担任”って……」
 優希君の嬉しい不満声を耳にしながら手を繋がずに現芸部へと遅ればせながら向かう。


「あ。愛美さん。お疲れ様です」
「愛先輩。お昼ぶりです。雪野と何喋ったか教えて下さいね」
 後輩たちは口々に挨拶してくれるけれど、予想していた通り私に対して不機嫌そうに睨みつけて来るだけでこの時間の主賓からは何の挨拶もない。
「おう岡本。さっき以来だな。こうして授業以外で顔を合わせるのはやっぱり新鮮だな。それにしてもそこのお前、その制服。何とかならんのか」
 その上、私が何度言っても先生も相変わらずだし。優珠希ちゃんの目つきが悪くなっているのに気付かない先生。
 私への挨拶よりも先に園芸部顧問就任の挨拶かなんかじゃないのか。それに自己紹介もどうしたのか。
「ちょっと優珠ちゃん。朝から何をぐずってんのや? 岡本先輩とか、せっかく顧問を引き受けてくれはった先生への挨拶はせえへんのか?」
 このままじゃあ大人しい性格の御国さんが可愛そうだからと、司会くらいは努めようとしたら
「何が挨拶よ。せっかくの園芸なのにこの女のせいでロクな準備も出来ないまま再開だし、この変態ロリコン教師が誰目当てで引き受けたかなんて丸分かりじゃない」
 目つき悪く私を睨みつけながら、わざとらしく大きく広げた胸元を隠すって……
「まさか先生?!」
 正式に開始前からこれはどういう事なのか。私の大切な友達でもある優珠希ちゃんの何を見ているのか。私の厳しめの声に対して周りの雰囲気が即座に変わる。
「そう言う言い方をするんだったら、まずはその制服をどうにかしろ。俺もあまり細かい事は言いたくないが、外では個人の自由だからどんな服装をしようが構わんが、校内では少しくらい周りに合わせろ」
 だけれど困った事に、この先生もまた私以外の女の子に興味がないのか、落ち着いて返事をしたものだから
「ほら優珠。だからその服装は危ないし、誤解もされるから辞めようって。そう言うのは良くないって何度もお兄ちゃん注意したよ」
 周りの空気も元に戻るし、私といる時には元気が無かったはずなのに優珠希ちゃんには一番に優しく注意しに行くし。
「特に何を見せたわけでもないんだから、こんなロリコン教師一人くらいどうとでも出来るわよ」
 しかも優珠希ちゃんまで、さっきまでの目つきと雰囲気を全て消して耳を赤くしてお兄ちゃんに言い返す始末だし。
 これでどうして私が嫉妬しないと思えるのか。
「優珠ちゃんな。お兄さんが言うてんのはそんな話と違うやろ? 今日の優珠ちゃんちょっと酷いで?」
「……あの。先生。まさかとは思いますけど、愛先輩に邪な気持ちを持ってるとかありませんよね」
「な?! 何を言ってるんだ! そんな事ばっか言ってないで早く活動を始めるぞ!」
「さっきから副会長の妹さんが言ってるロリコンって何の事なんだろ」
「……」
 しかも理沙さんの方は先生を突いて煽っているし、こんなので本当に園芸部としての活動が出来るかどうか不安になって来たんだけれど。
「御国さん。優珠希ちゃんとは後でゆっくりと話をするから、今はとっても大好きなお兄ちゃんに任せて先に園芸の方を進めない?」
「分かりました。お二人に関しては岡本先輩に任せとくんが一番なんで『空木を岡本に任せるって……』取り敢えず自己紹介から始めたいと思います。

 バラバラの状態から始まった園芸部。まずはみんなの自己紹介が終わったところで
「じゃあ二年の空木と御国が正式な部員で、他の人間は統括会ないしは手伝いって訳だな」
 まずは先生がほぼ全員が初対面の中、把握を進めていく。
「えっと先生。ウチの話とか優珠ちゃんの事とかは――」
「――ああ。教頭先生からある程度事情は聞いてるから安心してくれ。それよりもいつも二人でしてるのか? 今日みたいに誰か手伝いは――」
「――何よ! わたしたち二人だけだと何か問題でもあんの?」
 本当に今日の優珠希ちゃんはワガママしているのに機嫌が悪そうだ。
「いや、そうじゃなくてもっと部員多かったと思ってな。それに園芸って力仕事もあるから女子だけだと大変だろ。何かあったら俺にも遠慮なく声をかけてくれな」
 良い先生なのは間違いないけれど、やっぱり色々な所に気遣いが足りない先生らしさに私が笑みを零すと、こういう時はまた二人息をぴったりと合わせて目ざとく視線を送って来る兄妹。
 そうだ。こうなったらもっと優希君の男心を刺激してやる。それで私が舌で優希君を絡め取るのとおじように、どこへも行けないようにしっかり掴えて欲しい。
 その後でいかに私が優珠希ちゃんに嫉妬しているかきっちり分からせてやる。
「先生? そうじゃなくて先生から気を利かせて動かないと、二人とも中々信用してくれませんよ? それで御国さん。全員の自己紹介も終わったけれど、これからどうする? その前に御国さん。所信演説みたいなのする?」
 せっかくの再開の場での全員の顔合わせ。御国さんの言葉くらいあっても良いかと思ったんだけれど、
「ウチは……そう言う柄とちゃうんで別に良いです」
「佳奈……」
 引っ込み思案の御国さんらしく、足踏みをしてしまう。
「別に失敗したって良いじゃないか。ここにいるのはどうせみんな岡本の知り合いか友達だったりするんだろ? だったら失敗したって誰も笑わないし、みんなの前で話をするって言うのはいい経験にもなるぞ?」
 どうしてそこで私を出すのか……は、分からなくも無いけれど必要ない情報を口にするその軽さは本当にどうにかならないのか。
 おかげでまた二人から何とも言えない目で見られているんだけれど。しかも理沙さんに限っては先生に懐疑的だし。
「でもウチ人前で喋るやなんて……」
「……別に良いじゃない。ここには変なヤジを飛ばす人はいないし、御国さんの想いを口にするだけで、みんなの気持ちもしゃっきりすると思うよ」
 だけど私は優希君の男心を刺激したいわけだから、先生の意見にしっかりと乗っておく。
「佳奈? この腹黒やロリコン教師の口車に乗る事は無いのよ。無理にとはゆわないし、あたし達だけの部活なんだから佳奈の好きなようにしたら良いの」
「優珠ちゃん――せやったら、今日の優珠ちゃんはちょっと酷いさかい、岡本先輩と顧問の先生のお願いを聞く事にするわ」
「な?!」
 そしてどちらかと言うと、私を“奥ゆかしい”と慕ってくれている御国さんが、こちらよりの答えを出してくれる。
「ありがとう御国さん。だったら焦らなくても良いからゆっくり、思った事を話してね。今は園芸の時間だから時間も気にしないでね」
 だったら私としても御国さんの応援をするだけだ。
「あーしらは今日は手伝いだから、変な遠慮はすんなよ」
「所信演説はケジメの意味でも大切ですから、お時間かかってもしっかりやるべきです」
「気楽にね」
 そして続く可愛い後輩たち。これなら御国さんも気兼ねなく一言もらえると思うんだけれど、
「……」
 相変わらず私にだけは凄い目を向けてくる優珠希ちゃん。
「あえーっと。久しぶりの園芸の上、部長なんて初めてなんで不手際があったらご指導お願いします」
 所信演説と言うよりお願いに上がった、誰かのコメントみたいになっているし。
「分かりました。統括会からも何かあればご指摘差し上げますので、気を楽にして下さい」
 それでも冬美さんが綺麗に御国さんの所信演説を拾ってくれる。
「はい! ありがとうございます。雪野さん」
「ありがとうね、冬美さん」
「あ! また雪野ばっかり……」
 こう言うところはやっぱり冬美さんは、役員気質なのかなと思いながら笑顔でお礼だけを口にしておくと
「いえ……別に愛美さんにどうこうではありませんので」
 なんか照れているし。

「それじゃ御国さんからの所信演説も貰ったけれど、これからどうする?」
 今後の予定を御国さんと先生に

確認を取ると、
「……ちょっと空木先輩。愛美さん怒ってますけど一体何されたんですか?」
「それだったら愛先輩。今日もあーしと一緒に活動しましょう」
「えっと。そしたらせっかくたくさんいてくれはるんで、先生に頼んで『ちょっと佳奈っ!』土を持って来てもらうんで、みんなで雑草抜いて、先生が運んでくれはった土を入れといてもろうてええですか?
 その間にウチらでどの花壇に何の植物を植えるんかを決めよう思います。その代わりゴミ袋はウチらが持っていくんで、一通り終わったら休んどいてください――ほな先生。あっちの物置からさらの土を一袋持って来てもろうてええですか?」
「分かった! 任せてくれ!」
 理由は分かるけれど、私を見て力強く頷く先生にまた兄妹の視線が、今度は先生に集まる。

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