第239話 見え隠れする違和感(前) Bパート

文字数 6,068文字


 色々迷いはしたけれど、今日は女の子と見ればデレデレしている優希君にしっかり反省してもらうために、キュロットスカートと普通の緑色のTシャツで。
 ただし口付けくらいは私もしたくなるだろうからリップは引いて。
 そして今日はアクセサリを買いに行くんだからと、余計な装飾は何もなしにする。

宛元:優希君
題名:もちろん
本文:いつも通り僕の方が先に待つようにするから、愛美さんはゆっくり来てくれたら良いよ

宛元:優珠希ちゃん
題名:お兄ちゃんを
本文:お願い

 出る間際に携帯を確認すると、また二人がほぼ同時にくれていたメッセージ。本当に二人は仲良いと言うか何と言うか――

宛先:優珠希ちゃん
題名:昨日の電話
本文:私たち女二人だけの秘密ね

 この後すぐに優希君には会うのだからと、優珠希ちゃんの方にだけ返信を済ませて男二人に鉢会う前に
「そしたら行って来るね」
「目一杯楽しんで来てらっしゃいな」
 お母さんにだけ挨拶をして、優希君との待ち合わせ場所へと向かう。

 今日も知らない女の子に声をかけられていたらどうしようかと思ったけれど、
「あ! 今日は愛美さんから誘ってくれてありがとう」
 近くに女の人が立っていただけで、特に知らない女の子にデレってしているような雰囲気はなかった。
「おはよう優希君。いつも待ってもらってありがとう」
 だから私も笑顔で優希君の元まで駆け寄ると同時に、近くに立っていた女の人もそのままどっかに行ってしまう。
 だから恥ずかしさの減った私は、肩にカバンを引っ掛けていない方の優希君の腕に、そのまま抱き付いて恋人繋ぎまで
したからこそ分かってしまった、僅かに下がってしまった優希君の両肩。
「……優希君? 何かあったの?」
 もちろん優希君が何を期待して、何に対して両肩を下げたのか何となく分かってはいるんだけれど。
「……別に? 特に何かがあった訳じゃないよ」
 その割には声のトーンも一つ下がっているし。
「……優希君はどんな私でも可愛いって思ってくれるんだよね?」
 だからこっちからもう一押ししてみると、
「もちろんそうだけど……――でも、その服も愛美さんらしくて似合ってはいるよ」
 エッチな優希君の本音が出て来るかなと思ったんだけれど、突然私を褒め始めた優希君が腕に掴まった私ごと引き寄せてくれるように腕と胴体の隙間をなくしてくれる。
「それで、今日はどこで何を買うつもりしてるの?」
 しかもどう言う理由からなのか、さっきまでの不満そうな雰囲気は完全にナリを潜めているし。
「……今日は新しくアクセサリを一つ買おうかなと思って……もちろん気に入ったのがあれば。だけれどね」
 優希君に喜んで褒めてもらえるのはすごく嬉しいのだけれど、それだと面倒臭い私が出せないのだ。
「じゃあ今日はそこに僕の意見を言わせてもらえれば良いのかな?」
「うん! 私自身でこう言うの買いに来るのは初めてだからよろしくね」
 そうは言っても、最近優希君がデレまくっている冬美さんからの、エッチな優希君――以外の男の人からの視線に対する対策なんだけれど……
「僕も優珠――初めてだから一緒に探そう」
 それでも優珠希ちゃんとは一緒にお買い物に出かけている優希君。何も思うところがないと言えば嘘になってしまうけれど、それでも優珠希ちゃんの応援する気持ちも届いてはいるし、兄妹仲も良い方が良いに決まっているのだから、
「優珠希ちゃんがどう言うのを選んでいたのかも優珠希ちゃんを知る意味でも教えてね」
 今日だけはヤキモチを辞めてあげる
「本当にありがとう」
 そのお礼にはどう言った気持ちが入っているのか。純粋に優珠希ちゃんを気遣ってだけのお礼なのか、それ以上の何か深い気持ちがこもってのお礼なのか、軽く私の頭に手を添えてくれた優希君。
 だけれど、今日は二人だけのデート。やきもちを焼いているわけではないけれど遠慮願いたいから、それ以上は聞かずに移動を開始する。
「! あ! そう言えば今日のデートに優珠希ちゃんを連れてこようとしたんだってね? 私とのデートだけじゃ不満?」
 その前に、これだけはしっかりと聞いておかないといけないんだった。
「?! 不満なんて無いよ! ただ愛美さんに少しでも早く話して欲しかった僕の気持ちだって!」
 何で突然態度が変わるのか、慌てて理由を口にする優希君。
「どうして? 優珠希ちゃんとしっかり話してくれているんだよね? 女の子を追い回したりはしていないんだよね?」
 まあ。さっき下がった両肩と合わせて、その理由と言うか下心は分かるんだけれど。
「追いかけ回してなんていないって。時間がある限りちゃんと話してるし、言い続けてる。強制なんてしてないって」
 時間がある限りって……本当に寝る寸前まで話している気がして来たんだけれど。
「だったら何で今日のデートにまで、優珠希ちゃんを連れて来るの? 優珠希ちゃんにも用事はあるんじゃないの?」
 そこまで私のとの口付けや、“隙”を含めたスカート姿を楽しみにしてくれているのは嬉しいけれど、私は他の人に“隙”を晒す趣味はないし、二人だけのデートに妹さんが来るのはさすがに認めない。
「それは……」
 そして下心だけになったらやっぱり話せなくなる優希君。本当に“そう言う事”に関しては単純なんだから。
「そっちにしても優希君がどうやって、私の友達でもある優珠希ちゃんと話そうとしてくれているのか、確認はさせてもらうね」
「……」
 そして完全に言葉をなくす優希君。
 面倒臭い私を存分に出し終えた私は、私を抱き込んでくれた優希君の腕に掴まる形で改めて移動を開始する。


 取り敢えず大型の商業施設へ来たのは良いけれど、よく考えたら私の求めているようなアクセサリってどう言ったお店に置いてあるか知らない。
 普通の文房具屋さんとか小物・雑貨屋さんとかでもあるものなのか。
「それじゃ行こうか」
 私が迷っているのに気付いてくれたのか、今度は優希君の方から私の手を取って商業施設の中へと連れて行ってくれる。
 エッチな優希君は単純だけれど、こう言う一場面を切り取ればさすが優希君だなって思いながら私は付いて行く。

 休日だからなのか、午前中にもかかわらずかなりの人がいる商業施設内。はぐれたら大変だと言う共通の言い訳を持ってこれも最近当たり前になりつつある、私の腰に手を回してくれた優希君と、その優希君の服の裾を摘まませてもらう私。
 いつものように腕を絡めて恋人繋ぎをするのも大好きだけれど、今のこの形も優希君の匂いが分かるから、案外お気に入りの体勢でもあるのだ。
「……それで、今日はどう言うのを買うつもりでいるの?」
 ……最も優希君もスカートじゃないからって、前々回くらいの図書館デートの時同様、上から服の中を覗こうとしているのはその断続的な視線からバレバレだし。
「今日はネックレスとか靴下を買うつもりをしているの」
 でもこんなにもたくさんの人がいて、私よりもきれいで可愛い子もたくさんいるのに、私にだけ興味を持ってくれているのが分かるのは悪い気がしなくて困る。
「ネックレスって、前にお義母さんから貰ったって言う、オパールの石の入ったネックレスも無かった?」
 しかもただエッチなだけじゃなくて、ちゃんと私のお母さんの気持ちと誕生石を覚えてくれてもいたのだから、優希君も大概ズルいなって思う。
「もちろんあるよ。でも、あれ一本しかないと付け回しも出来ないし、たくさんお母さんの想いが詰まったネックレス。本当なら特別な日に着けるつもりをしたいの」
 私としては上手く今も私の鎖骨辺りに視線を送るエッチな優希君や、他の男の人の視線からの対策と言うのをオブラートに包めたはずなのに、さっきよりも熱のある視線を顔……いや、首の辺りに感じるんだけれど。
「分かった。そしたら3階の方から見て回ろうか」
 だけれどぴったりとした首元のTシャツに、中にもシャツを一枚着た私に全く“隙”が無いからなのか、今日はその視線も長く続く事は無く、よっぽど優珠希ちゃんと来ることが多いのか、目的のお店までまっすぐ私を連れて行ってくれる優希君。

 それでも私が早いと感じる程駆ける事無く、
「今から連れて行ってくれるお店って、優珠希ちゃんともよく来るの?」
「ここには来るけど、今から行く店は愛美さんと来るのが初めてだよ」
 会話を楽しみにながらの移動を楽しめる。
「その割には今も迷いないよね」
 誘った私の方が分からなくなっていたくらいなのに。
「……僕たちがまだ付き合う前に、二人で役員室の備蓄の買い物に行った時の事覚えてる?」
 別に優珠希ちゃんとの事を責めているわけじゃないのに、唐突に誤魔化した気がするんだけれど。
「……あの。私も優希君もお互いに全く異性と交流が無かったって話をした時の事だよね」
 冬美さんの方が優希君に近くて、私自身は大好きな人とのお出かけに舞い上がって、
「……そう。愛美さんが心の中だけでも僕を名前で呼んでくれてたのを教えてくれたあの時」
――必要なものをメモして来るのを忘れた日。ただですら何か誤魔化したっぽいのに、そんな恥ずかしい話を引き合いに出して来るなんて。
 そんなイジワルな優希君からなんて離れてやろうと思ったのに、
「……」
 しっかりと私の腰に回した腕に力を入れてくれる優希君。だから私は逃げられない。
「あの日落ち込んだ愛美さんをフォローしきれなかったのは、僕の中ではずっと反省なんだ。
「反省って……あの時は完全に私が抜けたんだし、第一まだあの時は優希君とは――ありがとう優希君」
 お付き合いを始めたのあの公園で、選択の余地はあった物の実質は一択だったあの日からのはずなのに、不機嫌そうにため息をついてくれた優希君。
 私たちだけで言い合っていたとしても、当の優希君は冬美さんなんて全く眼中になくて、初めから私だけを見てくれていたって自惚れてしまいそうだ。
「……ねぇ優希君。前に私を彼女にしてくれるために、そう言う本を読んで勉強してくれていたって少しだけ言ってくれていたけれど、いつから私を好きになってくれていたの?」
 だったら優希君の気持ちをもっと知りたいって思うのは当然だと思う。
「はい。お待たせ愛美さん。ここがそのお店だよ」
 なのに前回の本同様、また肝心な答えのところで目的地に邪魔される形で聞けずじまいとなってしまう。

「へぇ。意外と安くて可愛いの。たくさんあるんだ」
 ただ私の方も問題で、お店の正面にある木目調の商品棚に置かれた、何かのキャラクタをストラップ状にしたものから指輪、イヤリング、果てはアームリングに至るまで四角い木目調のディスプレイを囲むようにして袋入りで吊るしてあったりフックにかかっていたり、あるいはモックみたいにしておいてあったり、様々な形で陳列されているのが目に入る。
「学生ってそんな大金なんて持ってないから、安価で。でも可愛いものってなって来るよ」
 思わず駆けた私に追いついてくれた優希君が声をかけながら、再び私の手を取ってくれる。
「でも本当にこんな値段で色々あるんだ」
 夏目さん一人でも十分手に出来そうな何かのキャラクタや、星やハート形の紋章をかたどったネックレスや何か光る石が入ったイヤリングなどの様々な商品。
 そりゃこれだけの商品がお値打ちなんだから、同じ年くらいの女の子が集まるのも分かる。
「えっと愛美さんって僕以外でも、こう言うところにあんまり来ないの? ほら蒼依さんとか月森さんとか」
 私がその中のいくつかを手に取って見ていると、
「うん。あんまり来ないよ。どっちかって言うと文房具屋さんや蒼ちゃんのお菓子好きなんかも考えて、調理コーナーとかキッチン用品を見ることが多いかな? お菓子とかって道具も全然違うし」
 優希君からの質問。それに蒼ちゃんとかと服を一緒に買いに行ったこともあんまりない気がする。
「愛美さんはそのままでも十分可愛いから、確かに装飾品とかなくても良いかも」
 いや少し会話がおかしい気がするんだけれど。
「いや、優希君? 今は私が普段どんな買い物をしているかって話なんだよね?」
「うん。あまり装飾屋さんとかに来ないのは愛美さんが可愛いから必要ないなって話だよ」
 このたまにおかしくなる優希君の受け答えは――分かった。優希君はわざとそうやって私を恥ずかしがらせようとしているのだ。
 でないとあんないたずらをした時のような表情の説明がつかない。
「優希君の目から見て、これはっ! って言うのはある?」
 だったら私だって優希君のイジワルにいつも怯んでばかりじゃないんだからっ。手に取ったアクセサリを前にかけたり、あるいは胸元に置いたりしながら、優希君にも聞いてみるけれど
「駄目とは言わないけれど、個人的にイヤリングはして欲しくないかな」
 小さく光る石の入ったイヤリングを耳に当てた瞬間、優希君の反応がハッキリ変わる。
「別にこれを買うとか、優希君がどうとかじゃないけれど、どうしてイヤリングは駄目なの? あんまり似合っていない?」
 それまでは私を恥ずかしがらせようと画策していたはずの優希君。せっかくなんだから目的の一つでもある優希君の考え方を聞けるならこの機会に聞いておきたい。
 もちろん今回の目的には関係ないし、耳に穴をあけるなんて痛そうだから個人的にも考える余地はあるけれど。
「……別に駄目って訳じゃないよ。それに愛美さんは基本がものすごく可愛いから、何を身に着けても映えるだろうし、むしろそのままでも、化粧や香水の匂いが苦手な僕としては嬉しいくらいだけど、病気とかならともかく親から貰った体に手を加えるって言うのはね」
 周りに女の子もたくさんいてそう言う商品の前だからか声は小さく絞って。
 でも初めて知る優希君の考え方が、意外と古風って言うのが正しいのか分からないけれど少し驚く。
「でも私も今は受験生でもあるし、耳に穴を開けようなんてさすがに思っていないよ」
 そもそも耳に穴を開けて帰ったら確実にお父さんが騒ぎ出すに決まっているし。
「色々言っても正直、今の愛美さんが一番可愛いから僕としては化粧も装飾も何もなしでいて欲しいくらいなんだ」
「――!!」
 いやちょっと待って。その話はさっき終わったはずなんじゃなかったのか。なのにどうしてお父さんの反応を考えていたらそんな恥ずかしい話に戻っているのか。しかも公衆の面前で。
「ちょっと優希君?! 分かったから。みんな聞いてて恥ずかしいから落ち着いて?」
 しかも良い事言ったつもりの表情をしている優希君に、ヒソヒソ話と合わせて周りからの視線、それに店員さんの含み笑いまで目に入るんだけれど。
「でも僕は本当の気持ちを――っ!」
「ゆ・う・き・く・ん? 良いからこっち来て」
 それでも止まらない優希君に、恥ずかしさが振り切った私は優希君の腕を取って一度退店させてもらう……って言うか今日はもうあのお店に行ける気がしないんだけれど。

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