第242話 二人の距離 Bパート

文字数 5,416文字


 大体御国さんみたいな素敵な女の子に限って、女性として見れないとか、あの大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女に優しくしているのを目にしてしまっている手前、どう考えても御国さんに失礼だと思うんだけれど。
「それから優珠希ちゃん。今、御国さんは自分からは色目を使わない、優希君目的じゃないって言ったけれど――優希君。昨日優希君の気持ちを優珠希ちゃんに伝えた際、優珠希ちゃんの反応はどうだった? 優希君は何て言ったの?」
 ここでさっき優珠希ちゃんが優希君に甘えたのに合わせて突いてやる。
「佳奈。あの腹黒の顔をよく見てちょうだい。あの表情が奥ゆかしい女の浮かべる表情だと思う?」
「あんな優珠ちゃん。大切なお兄さんを盗られてしもうたって寂しい気持ちは分かるけど、優珠ちゃんを大切にしてくれてるんも、園芸部をどうにかしてくれはったんも、再開も何もかもが岡本先輩あってと違うんか? やのに優珠ちゃんは何で一回も岡本先輩にお礼すら言えんのや?」
 もちろん私の意図に遅れながら気づいた優珠希ちゃんは、精一杯の強がりと文句を垂れているけれど、何が腹黒の顔。なのか。自分のふてぶてしい表情を見てから言って欲しいんだけれど。
 それでも御国さん自身も改めて私に協力してくれると言ってくれるから、優希君の印象を気にしないで私が今日喋ってもらうと言ったら今日喋ってもらえるのだ。
「えっと僕が昨日優珠に伝えたのは、“優珠がすごく大切だ!”“優珠を一人にはしておけないし、寂しい想いをして欲しくない!”『ちょっとお兄ちゃん……朝から何ゆってるのよ……』――それに“優珠にもしっかり笑って欲しい!”とは伝えたよ。
 そして“誰の目も気にする事なく二人で歩けたら僕もすごく嬉しい!”って、時間はものすごくかかったけれど伝えたよ」
 優珠希ちゃんの耳どころか首筋まで真っ赤になった表情と、何となく潤んだ目元。どう考えても心の底から喜んでいるようにしか見えないんだけれど。それに――
「何か聞いてたら男女の告白みたいですね――」
「――ちょっと佳奈?!」
 全くもって私も同じ感想を持ったのだけれど……これが優珠希ちゃん相手以外だったら間違いなく涙していたし、私意外の女の子にそんなにも嬉しくなる言葉をかけたのを知ってしまったら、相手の女の子にどれだけの文句を吐いたのかも分からない。
 本当に。お兄ちゃんにここまで想ってもらえる妹なんて、どれだけ探しても中々いないんじゃないだろうか。
 しかも確認するまでもなく優珠希ちゃんの表情は女の子の顔になっているし。
「……と・こ・と・で。優珠希ちゃん?『?!』メッセージで一度お願いしていたと思うんだけれど、私が。どのくらい嫉妬深いのか、優希君にはちゃんと聞いてくれた?」
 だからこそなのだ。
「えっと……愛美。さん? 優珠は僕の妹だよ? なのに愛美さん

そんな事言うの?」
 だけれど私の次の質問で、大きく悲しそうな表情に変える優希君と
「……」
 大きく雰囲気を変えた御国さんが、優珠希ちゃんの手を取る。
「……だからよ。アンタがお兄ちゃんを本当にす……想ってるのが伝わるし、悔しいけどお兄ちゃんも愛美先輩が本当にす……想ってるのが分かるからゆえないし、ゆいたくないのよ。さすがに今のこの腹黒を見て分かるわよね」
 御国さんの手に引かれるようにして、優希君から離れる優珠希ちゃんとやっぱり寂しそうに見やる優希君の手が、所在なさげにたらける。
 明らかに故意に動いた三人を目にして、おぼろげながらも正確に三人の持つ秘密を把握する。確かにそれは周りから言われたら辛いだろうし内容によってはこの二人の行動も、ここまで言い渋る優珠希ちゃんの気持ちも理解出来る。
 だけれど、意図しない形だったとは言え私は本当に一番初めから言い続けて、意識もしていたはずなのだ。
「優珠希ちゃんから話してもらえるまでは憶測なんて出来ないから、何とも言えないけれど、私は優希君と別れる気はないって何度も何度も言って来たし、口付けまで済ませた優希君を諦める気なんて無いんだって、何度も何回も言って来たよね」
 だから私は怯むことなく御国さんと優珠希ちゃんの目の前まで歩を進める。
「愛美さん……」
「言うたかて、岡本先輩は優珠ちゃんに嫉妬してはるんですよね? それって疑ってる言うんと同じちゃうんですか?」
「佳奈……」
 だけれど誰よりも優珠希ちゃんを理解してくれている御国さん。いつものおどけた雰囲気や気弱な御国さんの姿は見当たらない。
 ここ一番ではやっぱり優珠希ちゃんを大切にする姿を見て何故か安心してしまう私。
「疑った事なんて一度もないよ。もし嫉妬深い私が疑っていたらどのくらい詰めるのかは、冬美さんやあの若くて大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女を通して二人共分かってくれているって思っていたんだけれど『――』まだ私の本気の気持ちを分かってもらってはいなかったの? 
 だとしても優希君は、私にとってたった一人の大好きな彼氏なの。なのに二人はいつも仲が良いし、笑い方とか仕草なんかも兄妹だからって似すぎだし、これで嫉妬しない方がおかしいでしょ?」
「……それって結局言葉を変えただけで、アンタもわたし達を疑ってるって事じゃない! だからわたしは誰にもゆえないっ! 喋らな――っ!」
 少しずつ学校近くになって来て、同じ学校の制服の姿も増える中、周りから見たら私たちはどう映っているのか。だけれど――
「ちょっと優珠希ちゃん。ちょっと待ちなって。私の話はまだ終わっていないよ」
 ――だけれど私も自分の気持ちを、優希君も寝不足になるまで自分の気持ちを伝え続けてくれれたからこそ、今度は優珠希ちゃんに伝えるだけだ。
「……本当に疑ってしまったら、冬美さんの時やあの若くて大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女の時のように、優希君

喧嘩するんじゃないの?『?!』私。優珠希ちゃんと喧嘩した事。あった? 優珠希ちゃんに嫉妬して優希君と喧嘩。した事あった? 私が優希君と喧嘩したのは
いつだって優希君が他の女の子にデレってした時しかなかったはずだよ?
 それに大好きだから嫉妬するんじゃないの? 優希君だってたまには嫉妬されたい、私からの束縛は嬉しいって言ってくれていたんじゃないの?
 それとも優希君が色んな女の子にデレってするのを知らんフリする方が良い『嫌だ! 僕はいつだって愛美さんの気持ちを知りたいんだ! 知って愛美さんの嫌がる事をしなくて済むようにしたいんだ!』――だったら嫉妬深い私なんだもん。咲夜さんと同じように、優希君が

と仲良くしていたら、冬美さんや

『え? ウチ?!』にも当然、優珠希ちゃんだからとか全く関係なく嫉妬するに決まっているよ」
 何を驚いているのか。
「もちろんだよ。大体私以外の女の子で名前呼びしているのは御国さんだけなんだよ? それに私が知らない優希君の秘密。優珠希ちゃんも中々喋ってくれないのに、御国さんは全部知っているんだよね? そんなの嫉妬するに決まっているじゃない『せやったら、これからはウチも名字で――』――でもね。それで優希君と喧嘩なんてした事ないし、私とお付き合いする前から名前呼びしていたんだから、それも

優希君なんでしょ? 
 だったら、ありのまま周りも私も大切にしてくれる優希君を、私は大好きになったんだから今更直す必要なんてないし、本当に信じ切れていなかったら、私にとってとっても大切な初めての口付けなんてあげないよ」
 言いながら優珠希ちゃんの頭……は、撫でられないから微笑みかける。
「信じられない。何が喧嘩してないよ。結局はあのメス女を赦したじゃない――」
「――何を言っているの? そんなの冬美さんはもう私の大切な友達『……』なんだから当然じゃない。その代わりあの若くて大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女がまた何かして来たら遠慮なく行くよ? こっちは優希君。あの女の子の肩を抱いて丸分かりの視線まで送ったんだからしっかり喧嘩、説教もしたよね」
 なのにまだ冬美さんとあの若くて大きいだけの醜悪ハリボテ後輩女を一緒にしているし。
「……分かりました。確かに好きな人にヤキモチ焼かんようになったら終わりですし、お兄さんの浮気相手以外で『浮気って……』喧嘩したんも見た事ないですし、優珠ちゃんに対する嫉妬もウチが心配しとったんとも全く別モンでしたし、優珠ちゃんに対する嫉妬に関してはウチからは何も言わんようにします」
「?! ちょっと佳奈っ!」
 でもこれで、優珠希ちゃん絡みの嫉妬も遠慮なくぶつけられるようになったんだから、結果的には上々かもしれない。
「――言うときますけどお兄さん。さっき不満そうでしたけど、ウチも彼女さんでもある岡本さんの目の前で後輩の女の子を抱いてどこを見てはったんかも知ってるんで、優珠ちゃんも悲しませた手前まだ納得してませんからね。ああ言うんはいくらなんでもあきませんよ」
 そう言えばあの日も一人、優希君を叱ってくれていたっけ。
「ありがとうね御国さん。本当に物分かりの良い後輩で嬉しいよっ――それじゃ優珠希ちゃん。御国さんの許可も下りた事だし、改めてがっつり行かせてもらうけれど『――』優珠希ちゃん。耳どころか頬や首まで真っ赤だね。よっぽど

の言葉が嬉しかったんだね」
 優希君が私以外の女の子にデレってしたら、二人で絞りに行くって話もしていたはずなのに、優珠希ちゃん自身が優希君にメロメロになってどうするのか。
「ふんっ! 家族から大事だってゆわれたら嬉しいに決まってるじゃない。勝手に邪推するのは辞めてちょうだい。腹黒オンナ」
「ああ! そうだったね。優珠希ちゃんを嘘つきにしてしまわない為にも、腹黒らしく今日中に何が何でも絶対喋らせるって私、メッセージに書いていたよね。ところでそのメッセージの中で私。もう一つ書いていたと思うけれど――」
 私との約束なんて全く守る気のない優珠希ちゃんの悪態。
「――別にお兄ちゃんが誰かにデレってした訳じゃないじゃない。変なゆいがかりは辞めて――」
「――“お兄~ちゃ~ん”――ちゃんと私のメッセージのやり取りを覚えていてくれたんだ。ありがとう――ところで。誰が優希君をデレさせようとしたの?」
 もちろん兄妹仲が良いのは褒められるべきではあるけれど、
「愛美さん。優珠と仲良くしてくれるのはすごく嬉しいけど、今日は全校集会でそろそろ時間もあるし、優珠は可愛い妹『……』でもあるから程々にしてもらえると――」
「――でも広い心を持った優希君は、私らしく伸び伸びとして欲しいんだよね?」
 たった一人の彼女としては、どうしたって思う部分は出て来る。
「確かにそうだけど……」
「ちょっとお兄ちゃん!」
 もちろん優珠希ちゃんは私にとっても大切な友達でもある訳だから、優しく扱ってもらわないと駄目だけれど。
「……ひょっとして優珠希ちゃんが優希君をデレさせようとした。逆に優希君の言葉によって絞る方の優珠希ちゃんがデレってした『――』なんて無いよね?」
 私は事実確認をしているだけなのに、悔しがる優珠希ちゃんが――心地良い。また、分かっていて確認する私も私なのかもしれないけれど。
「……アンタ! これ以上何が目的なのよ!」
 苦し紛れに出したんだと分かる目的なんて
「何度も言っている通り、優珠希ちゃんから。その理由を喋ってもらう。ただ一つだけだけれど」
 目一杯警戒しているのが伝わって来るだけに申し訳ない気持ちになるんだけれど、警戒するのがあまりにも遅すぎて、逆にこっちが気を遣ってしまいそうになる。
 ただあれだけメッセージや態度に手挑発された手前、私は腹黒なんだから何が何でも喋るしか選択肢を与えるつもりなんて無い。
「優珠! お兄ちゃんからも頼む」
「もうええやろ? なんやかんや言うてもちゃんと優珠ちゃんを考えてくれてはるやん」
「嫌よ。喋ったら最後。この女が何をして来るか分からないじゃない」
 なのに最後まで失礼な言葉と同時に口を重くする優珠希ちゃん。
「ごめんなさいっ! 私としては何とか話を聞きたかっただけなんだけれど、困らせていたんだよね。だから昨日メッセージで教えてくれていた通り謝ったら考えてくれるんだよね」
 今にも噛みついて来そうな視線で、私を睨みつけて来るけれど
「ちょっと優珠ちゃん! さっきも頭を下げろなんて言うとったけど、いくら何でも岡本先輩に態度悪すぎるんとちゃうか?」
 なんだかんだ言いながら私の味方になってくれる御国さん。
「何よ! こんな腹黒に比べたらわたしなんて可愛いもんじゃない――でなかったらこのタイミングで謝るなんておかしいじゃない」
「ありがとう御国さん。そしたら優希君の言う通り本当に時間だから続きは放課後って事で、必ず今日中に喋らせるからそのつもりはしておいてね」
 本当なら喋ってくれるまで粘り倒そうと思ったのだけれど、一度役員室へ行かないといけないのも考慮すると、少し急がないとマズいのだ。
「……優珠ちゃん。あの岡本先輩見てたら、連敗中の優珠ちゃんの事やし喋った方がラクになんで?」
「何よ! 結局わたしは何一つ返事をしてないのに、被害を被ってるのはわたしじゃないっ!」
 だから残念な気持ちを胸に先に行かせてもらう。

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