第五章(六) 開眼ソース仙術

文字数 1,798文字

 朝食を摂っていると、なぜか叔父がやって来た。なんで叔父がと思っていると、叔父は大波からの荷物を持参していた。
 叔父が荷物を渡しても帰らないので「なにか」と聞くと「ソースができるまで待つから」と返って来た
「これから作るので、いつになるか、わかりませんよ」

 叔父は肩を竦めると、止むを得ないといった顔で言葉を口にした。
「ソースを受け取るか、二十四時間経過するまで待機が、今回の仕事なんだ」
 何をやっているかわからない叔父だが、仕事なら、しかたない。外で待たせるのもなんだから、家の中で待ってもらった。

 家に入って荷物を開けた。中にはギムタットディエとアジエキシェと書いたラベルが貼ってある小瓶が入っていた。
 コップを二つ用意して、ギムタットディエとアジエキシェを微量、水に溶かしてみた。微量にもかかわらず、強い酸味と甘みがした。

 ソースはカスタード・クリームを真似ると決めた。卵黄、砂糖、小麦粉を加えて牛乳を足す、味を調節して過熱しながら気を込めて攪拌する。
 最後に、ギムタットディエとアジエキシェを少量、入れる。
 味を見ると、甘ったるいカスタード・クリームに強烈な刺激のマヨネーズを加えた味の、獅子王金丹風ソースができた。

 完成したので、獅子王金丹風ソースを半分ずつタッパに入れる。タッパの片方を叔父に渡すと、大事そうに保冷バッグに入れた。叔父は疲れた顔をして帰って行った。
 叔父を帰すと、本日の二品目のソースに取り掛かる。リンゴを()って、芥子マヨネーズに加える。
 一度、ガーゼで濾してソースを分離して、エスプレッソと混ぜてみた。思っていた物と少し違ったソースができた。

 ソースに生クリームを少量加えて、黒糖と青リンゴジュースを加えて味を微調整する。
《時知らずに》呑み込まれた時に感じた味とは微妙に違うが、印象は似たようなソースである《時空を超えるソース》ができた。
 時空を超えるソースを試してみる。だが、時知らずの体内には移動できなかった。時空の歪みも現れない。ソースが失敗した可能性があった。

 現在の実力では、時空移動しようにも、ソース単体では不可能だった。こうなると、獅子王金丹風ソースの効果も疑問符が付くが、こればかりは試してみるしかない。
 小麦の袋と《時空を越えるソース》を持って竜宝の家に移動する。呼び鈴を鳴らすと、竜宝より先に《時知らず》が現れて、勢いよく天笠を呑み込んだ。

《時知らず》の体内で明峰を発見して、袋に入れて回収後、時空の歪みから外に出た。
 外に出るとき、歪みは二つあった。一つは実家の仏壇の前、もう一つは黄昏園の家の居間。時空を越えるソースを服用すると、《時知らず》が寄って来るだけでなく、出現できる出口の幅も広がった。

 黄昏園の家にある居間に出て、袋から明峰を取り出した。ぐったりする、明峰の鼻を摘む。明峰の口が開いたところで、獅子王金丹風ソースをスプーンで一掬いして、口に入れた。
 数秒で明峰の瞳に光が宿って、明峰が声にならない声を上げた。正気に返った明峰が天笠を見た。
「俺、天笠庵だけど、なにか質問はある」

 明峰は不機嫌な顔で答えた。
「天笠は、死んだはずでしょう」
「確かに二人組には襲われた。ここからは、話しても長くはないが、信じてもらえないから、省略する。結論から言うと、殺されたけど、復活して、今ここにいます。目の前で起きている事態は、本当です」

 明峰が天笠を睨んで、命令する口調で発現した。
「とりあえず、水を貰えるかしら」
 買い置きの二L入りのミネラル・ウォーターを明峰の前に置いた。水を飲んで一息ついた明峰に尋ねた。
「学校に来ないか」

 明峰は険しい顔で、語気も荒く拒絶した。
「無理よ。私は黄昏園から狙われているのよ。刺客も来たわ。危険な能力者は生かしてはおけないんだって」
 裁判もなく、いきなり刺客とは、穏やかではない。これは、実行犯の二人組にもフォローを入れておかないと殺されかねない。

「わかった。黄昏園の上と話を付けてくる。とりあえず、ここで待っていてくれ」
 本館に向かう途中にメールが届いた。黄昏園からの呼び出しだった。
 黄昏園の上層部も話があるのなら、一度で済む。好都合だ。以前に呼び出された、中央に椅子が一脚だけある真っ黒な部屋に向かった。
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