第五章(一) 開眼ソース仙術

文字数 1,566文字

 翌日、本館の学生課に移動して、もう一人の問題児である明峰香について、調べた。明峰のページにも、一ページ目に赤文字で危険の表示があった。
 写真の明峰は髪を茶に染めていた。小顔のわりに目は大きく、元気が快活な印象を受ける。 
 超能力については不可知(ふかち)と記載されていた。明峰の能力は、存在する物を存在できないように錯覚させる。

 能力だけ見ると、危険な香りはしない。その他のページを見るが、犯罪や非行歴もないし、いたって普通の生徒のようにしか見えなかった。
 ファイルの改竄(かいざん)を疑ったが、素人目にわからなかった。
 明峰は両親と離れて、一人で黄昏園で暮らしていた。明峰の住んでいるマンションに行って見るが、留守だった。電気メーターも回っていないので、記載されている住所には住んでいないらしい。

 写真を持って、聞き込みをした。学校に通う生徒は、明峰については知っていたが、誰も居場所を知らなかった。
 明峰を探していると、誰かが後を()けてきていた。気づかない振りをして、公園のエリアの監視カメラがない場所まで移動した。
 頃合いよしと見て「もう、いいだろう」と声を出した。満を持して振り向くと、誰もいなかった。

 さっきまで気配があったのに不思議だった。気のせいだったかと向き直ると、背中に衝撃を受けた。
 衝撃は強く、膝から崩れ落ちた。痛みは消したが、ダメージは残った。
 振り返るが、誰もいなかった。肩に衝撃があって、骨が折れる音がした。攻撃は受けたが、姿は見えなかった、不可知の能力だ。
 超能力を浴びせれば学習される危険があるので、姿を消して、なんらかの武器を持って襲い掛かってきた。

 立ち上がろうとすると、下から強烈な打撃を受けて、体が浮いた。(あご)の骨が砕ける嫌な音がした。倒れるとき、後頭部に衝撃を受けた。
 視界が暗くなり、気が付くと、半透明な幽霊状態になっていた。天笠の体は、地面に置かれた、先端が鈍く尖った石に頭を打ち付けて、死んでいた。

 倒れた時の当たり所が悪かったらしい。またしても、死んだ。日本って、こんなに危険な国だったっけ? と思うほど立て続けに死んでいる。
 幽霊になると、金属バットを持った高校生二人組が見えた。二人組は慌てた様子で天笠の頬を叩き、起こそうとしていた。

「やばい、やっちまったよ。なんで、こんな簡単に死ぬんだよ。亜門より強いんじゃなかったのかよ。明峰さんに、なんて言えばいいんだよ」
「言えるわけないよ。明峰さんは何も知らないんだ。超能力を使った殺人が黄昏園に知られたら、タダでは済まないよ」

 殺害する気はなかったようだ。明峰の手先というわけでもなかった。おおかた、明峰を守ろうとして勢い余って殺害した、あたりが真相だろう。
 仙人なので、別に死んでもどうってことはない。だが、二人に反省してもらうために、簡単には生き返らないでおこう。

 幽霊状態で二人組に姿が見えるかアピールした。だが見えていなかった。
「おーい」と声を掛けてみたが、反応がなかった。状況が逆転した。天笠が、不可知の状態になった。
 二人が困っているようなので、耳元で念を送るように「蓮村、蓮村、蓮村――」と(つぶや)き続けてみた。

 思いが伝わったのか、囁(ささや》き続けられた高校生が携帯を取り出して「蓮村さん、まずいことになった」と口にした。
 蓮村も巻き込んだ状況を確認したので、現場を去って、一度、幽霊状態のまま家に帰った。あとは、反省を促す意味を込めて、行動を起こしてしてもらう。
 生き返って時点で、各自がどう行動したかを知れば、性格も掴みやすい。
「せっかく死んだのだから、秋風道人に袋を返してくるか。ついでに明峰を探す方法を聞いてみよう」
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